〜分析結果サンプル〜
中華邪仙ド貧乳エルフ師匠をちんぽでこらしめるやつ@NEO/鵺野新鷹
Hong-Kong!!!
君は見たか! 銀杖携え駆けるHERO!
悪笑い、正義燃ゆるは天空街都!
今や十二国志の第十三国! 義を見てせざるは勇無きなり!
Hong-Kong!!!
/
暗い倉庫の中。
半分開け放たれた扉を抜けて、ひゅんひゅんと。杖を振り回しながら、近づいていく。
「そこまでにしとけよアンタら。香港にそれぁご禁制だぜ」
銀弧の軌跡を描く――まばゆく精霊銀が輝いている。
3人の男たちが、木箱を運んでいた。
縦横高さがちょうど一メートルくらいになるだろうか。
――子供一人くらいなら入りそうな木箱だ。
「なんだァ? テメェ……」
「なにって。まあ、バイト公務員だよ」
杖を両手で握りこむ。
銀の先端を、胡乱な顔をした男に突き付けた。
「伸びろ」
呟けば、レーザーじみて銀杖が伸びた。
ゴッ、と手ごたえ――いかな鈍重さで有名な一つ目巨人であろうが、咽喉輪を打たれて悶絶しないわけもなし。ヒトであれば死ぬ一撃だが。
血反吐を吐くか否かのタイミングで、杖が縮む速度とほぼ同等で突っ込み、右の男に跳び蹴りを一発。
鼻を踏み砕きつつ、顔を足場に棒をふるって、左の男の鎖骨を砕く。
「ッがぁっ!?」
箱が落ちそうだったのでそれも杖ですくいながら着地。
揺れたろごめんな、と思いつつ、流石にバランスが厳しいので順次降ろしてやる。
なんだなんだと声が聞こえてくる。
倉庫からつながる扉、事務所か何かだろうか。
「なっ、何もんだっ、てめぇっ……!」
「まだまだ無名のバイト公務員だよ」
鎖骨を抑える男にそう言い捨てて、足を打ち据える。
ぎャッ、と悲鳴を上げる男。さーて、と跳んで、事務所の方へ。
飛び蹴りで扉と人間一人張り倒して着地した先には、ひのふのみ、で、5人の男たちがいた。足元でプラス1。
「なっ、なんだテメェっ!?」
「名乗るほどの者じゃねえんだ、すまんな」
言いつつ杖を伸ばして肋骨をぼきり。
師匠のせいで骨折るのも折られるのも抵抗なくなってる気がしてやばい。
痛みに頽れる男を見つつ、周囲からくる死の感覚をキャッチ。
中々の早打ち連中だ。
銃弾に、手裏剣、――手裏剣ってマジか。ともあれナイフ、魔術。
回避してひょいっと立ち上がる。
師匠の宝貝に比べれば、まあぬるい。何やってくれてんだあの師匠。
「こいつっ……まさかっ!」
肋骨を折った男が叫んだ。
正面の4名も、同じことに思い至ったのか。
「"銀嶺の弟子"」
「"白金の若侠"!」
「"正義の味方気取ってるから警邏から逃げられなくていつも尋問食らってるやつ"!」
「――"銀杖"!」
「うるせえ! 確かに山は銀色だがめんどくさがって麓住みだ、武侠ってほど鍛えてねえ、純粋にうるせえ、シンプルすぎるわ!!!」
「――"止まらぬツッコミ"!」
「うるせええええええ反射だ!!!」
しまった、と思った瞬間には遅い。
1人だけタイミングがズレた叫びにもつい反応してしまった。
視界の端、黒い服の男は、腰からじゃらじゃらり、と黒塗りの鉄を――おそらくは手裏剣を十数枚両手に抱えていた。
忍者! 抜け忍だろうか、特徴のない顔の中、異様に鋭い眼光が俺を射抜いている。
バッ、と両腕を広げるように忍者は手裏剣を投げてくる――真っすぐが3、見当違いが大半――かと思いきや、一部はそのまま机に突き立ち、一部は弧を描いて俺の急所へ。
器用なことしやがる、と思いつつ、銀杖を振るって打ち落とす。
「んがっ!」
一個は間に合わなかった。
大きくカーブを描いてこめかみを貫きかけていた手裏剣を、背をそらして回避。
「噂が本当ならば、相手は未熟なれど仙人だ! 大陸の"将"級だと思え……!」
油断しろよクソが! と思いつつ、棍を振るう。
大振りの一手は各々に回避される。
多対一だ。まずは敵の数を減らすのが肝要――まずいのはまずは銃火。
突きと同時に棍を伸ばし、引くと同時に縮め、あるいはその逆を以て一人の両腕を破砕。
気のめぐりがおかしいと思ったらやっぱサイボーグか。生体パーツも使っているっぽいので、俺の目ではちょっと見切れない。諦めて次。
胴体に何仕込んでても驚かんつもりで、心構えだけはしておく――肉薄しかけている二人目を蹴り飛ばす・蹴り飛ばす。
二連脚で顎を砕いた足ごたえあり。天井に顔面から突き刺さる。
「――って、げぇっ!」
蹴り飛ばしたその下を、手裏剣が飛んできていた。
野郎、仲間を捨て駒にしやがったか! 流石忍者だな!
「墳ッ!」
細かくはじく隙間はなかった。
蹴り上げた足を振り下ろし、床板を砕いて頭の位置を下げて回避する。ちょっと後頭部をかすった。クソが。
「騒がしいなぁッ! 若さか!」
「うるせぇぞジジィがぁ!」
4人目、5人目が同時にかかってくる。
ズボンが破れるが構うものか。首に比べりゃ安い。
銀棒を両手で構えてフルスイング。打つのは机だ。
我ながら精妙なバットコントロール。
両手に剣を持った4人目――双剣の爺が、それを8つに切り裂いて襲ってくる。
「オイオイオイオイホームランしろよなぁ!」
「お前も開きになりやがれっつぅ! のォゥ!」
テンションの高い5人目と、笑う爺が肉薄してくる――と。
俺は銀杖を最大限縮めて、右拳に握りこんで、5人目へ拳を打ち出した。
俺から近づいたことで、同時攻撃のタイミングがズレる。
5人目は、ひは、と笑い、正面から拳と剣が打ち合う。
いかな仙人とはいえ、武技と魔力の乗った剣に生身では勝てない(無論五体を金剛と化す術もあるにはある。使えないが)。
人差し指と小指の間に剣が入り、指の股を拡張して、剣がへし折れて、そのまま鼻骨を粉砕した。……あ゛あ゛あ゛クソが! 裂けた手で殴ったから超いてぇ!!!
ともあれ、銀棒の質量、長さ細さは自由自在だ――ただし、細くなろうとも、短くなろうとも、その硬度そのものに変化はない。
拳に握りこめる細さ短さとなろうが、これをぶった切れるのはそれこそ仙人級の者だけだ。
そして、握りこんだ拳を曲げて、伸びろ、と念じる。
剣より伸長の速度が勝る。床に立ち、きぃん、と剣を弾く銀の杖。
ち、と、4人目の爺が急停止、その勢いでくるりと回って宙を飛んだ。
――手裏剣だ。
「クソが!!!」
ジジィが俺の頭上から回転しながらの剣を――忍者は、再度手裏剣を放とうとしている。
踏み抜いた足を蹴り上げるように――ただし踏ん張らず動く。同時、銀杖を背に回す。
結果として上体が倒れ、杖を盾にする形になる。
激しい金属音。衝撃で、右の手指の骨が折れた。
まともに当たれば胴が真っ二つになっていた――流石に死ぬ。
足を引っこ抜いて転がって、片手で棒を構えなおす。
右手が使えない分、短く縮めつつの、片手剣のような構えになる。
「ふむ、厄介よなぁ。名高き如意棒の同類。なるほど、神珍鉄とはあのような動きをするのか。その上、若く鋭い。歳は取りたくないものよな」
「然り」
厄介な二人が残った。
忍者の方も、腰から直刀――忍者刀を抜く。
「……これ以上はちと賃金外になるが」
「命と信頼以上に高いものもそうなかろ」
「然り。――賃上げ交渉は、こやつを斬ってからと」
正直二人に逃げられる方が困るが、向こうも事務所は傷つけたくないのか。
双剣爺が先に踏み込んできた。
「邪ッ!」
「ちっ!」
相手は老境。見るだに優れた気の運用――腕力そのものは俺の方が上だが、技術では比べるべくもない。
その上右手が使えない。
頬が裂かれる、服が斬られる。
一刀では二刀の手数には勝てない。
と、背後から銃声。
「発砲音がしたとぉ――ッ! 報告があったァ――ッ!!!」
大音声――朗々とした声だ。
やっと突入してきやがったか、と思う。
まあ、通報を受けたにしちゃあ踏み込んでくるのが早すぎるが。
「おしまいだぜッ、お前らっ!」
「なんじゃ、騎兵隊か! 情けのない!」
は、と笑って、
「だよなあだけどよぉっ!」
だから――と、杖を振り上げ、落とす。
爺が双剣で流すように受け、驚愕で目を見開き、2本の剣が折れて、肩口に杖がめり込んだ。
ばぎっ、と骨が砕ける音、肉が破砕する音。
「がっ……ぐぉあぁッ!?」
「先に仕留めちまえば、別にいいだろう?」
爺を蹴り飛ばし、手裏剣を警戒したが。
すでに忍者はおらず、倒れ伏し呻く男たちがいるばかりだった。
「お弟子さん、お手柄だな」
と、ジェームズさんが踏み込んでくる。
鋼の鱗持つ、筋骨隆々の竜人だ。
「ええ、まあ」
やっと右手が再生したので、ぐーぱーして調子を確かめる。
「必死でやらないと師匠にぶっ殺されますからね」
「んんー、前途ある若者が。おじさんは悲しいな、警官にならないか」
「いやあ、ライバルを蹴落とすためにクスリ盛る人の部下はちょっと」
ジェームズさんは、牙をむいて笑った。
「それは秘密だぞ、"銀杖"くん」
「……それシンプル過ぎてあんまり好きじゃないんですよね」
どやどやと、警官隊が踏み込んでくる。
倒れた男たちを拘束しつつ、ついでに俺も拘束する。
ジェームズさんは悪徳刑事だが、悪徳な分部下も粒ぞろいなのである。
なんかもういつものことなのでもう抵抗しない。また健康にされてしまう。
「では。事情聴取をさせてもらおうか?」
「……なあ、楽しんでないかアンタ?」
「なぁに慰労だよ慰労。君も楽しんでくれたまえ」
/
「あッが――ッ!!! ぎゃぼ――!」
「ギャハハハハ! 筋を違えたままだぞぉ~!? 内臓も痛めやがって、俺をナメてるらしいなぁ~ッ! おらッ、ここだなぁ~ッ!?」
「ぐおっおおふおおいおおあおおえおおうおあぁいぃあいあいあいあいあ」
「再生力が高いのは結構だけどよぉ~ッ、無理やり直してんだから整調しねぇとどうなるかわかってんだろうがッ、ヒャハハハハハ!!」
「タンマタンマタンマタンマ待った待った待った待った待って自分でやるから待て頼むぉおおおおぅ」
「おらっ、次は背中だ、クックク、ヒャハハ――喜べっ、今日は貴様のためにこんなものも用意したぁ――ッ!!!」
「――えっ、なにそれこわい。あっ走馬灯」
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――完全に気絶した師匠を背負って風呂場から出ると。
居間に、二人の女性がいた。
「あ゛ら゛~」
と。
だみ声の美女、喉に大きな裂き傷のあるおっとりしていそうな巨乳さん、竜圏娘々様。
「おやまぁ。……なるほどなあ」
なにか一人で合点している、長身筋肉巨乳の美女、竜田娘々様。
「「――どうだった? 処女」」
ちっとも似てない双子の大陸エルフ――お隣の山に住まう、二人の仙人様だった。
/
ぐったりとした師匠を起こして着替えるようにお願いして、俺も服を着て、お茶を出す。
師匠秘蔵の菓子もセットだ。
「あ゛りがとう゛~」
にっこり笑まれるとちょいドギマギする。
その昔、敵に喉を切り裂かれたがための声だと言うが、がらがらとした声でありながら、男を誘うような抑揚がある。
羽衣のような薄衣姿で、身体のシルエットも女っぽい艶めかしさがある。
師匠を犯していなければうっかり起っちまいそうなくらいだ。
「おかわり」
と、遠慮のない竜田娘々様は、目のやり場に困る方だ。
よくよく日焼けした肌を隠すのは、サラシじみたチューブトップに、やや位置の低いズボンだけ。
腕肩腹腰は、よくよく発達した筋肉を惜しげもなくさらしている。
身長は俺よりもなお高く、2メートル近くはあるはずだ。
双子と言われても信じられないところであるが、唯一、金と青の瞳が同じ色をしている。
「はい、ただいま。もう少々お待ち下さい……」
「おう、待つぜ。色々あるだろうからな」
「色゛々゛ありま゛すよ゛ねぇ」
にこにこにやにや笑う二人。
菓子を食いつつ思うことは一つだ。……超居心地悪ィ!
「まあ、待たせてもらわぁ。あの分じゃ半日は腰が立たねぇだろうが」
「結界゛抜゛いたのに゛反応も゛なか゛ったですものね゛え」
「だな。あー、せっかく呼ばれたのに寝かしつけられてたとかホントがっかりだぜー」
すみませんすみませんほんとすみません9割くらい師匠のせいなので。
お茶をかぱかぱ開ける竜田様のお代わりをせわしなく努めながら、早く来るよう祈る。
「しかしまー、あのヘタレがなー。……確かに中々いい体はしてっけどなー」
「あ゛ら、ちょっと゛お肉がつきす゛ぎですよぉ。背も゛高すぎます゛」
「ばっか、圏の好みはガキだろが、雄はやっぱこのくらいからじゃねーとな。ま、最低限だが……」
じゅるり。と真っ赤な舌が唇を舐めるのが見えた。
それこそ、竜の眼前に置かれた肉みたいな気分だ。
寒気がするそれではなく、むしろ熱くなるような感触が来る。
「田? こ゛の子゛、顔真っ赤ですよ゛ぉ? から゛かうのはよ゛したげて?」
「ん。……と、来たか」
ずずず、と、竜田様が茶をすする。
振り返ってみてみれば、壁にもたれかかり、青い顔をした師匠がいた。
「よぅ……来てくれたの……」
「うぃー。腰大丈夫か? 補助で呼ばれたんだぜ、アタシたちは。メインにする気じゃねーよな?」
「やかましいわ、無論わしが作る。……バカ弟子よ、今より使いを申し付ける。今から言うものを買ってくるのじゃ」
「わかりました」
ともあれ、お二人とはあまり近くにいたくない。
特に竜田様はまずい。ちんぽに効く。
ジャケットをつっかけて出ていく途中で、師匠の喚き声がちょっと聞こえた。
/
――神珍鉄。
かの斉天大聖・孫悟空の得物――如意禁錮棒の素材だ。
無論のこと伝説そのものの本物ではない。まるで神珍鉄のような反応を示す金属である。
その特質はひとことで言い表せる。
"人の想いを吸って増える"。
無論のこと、増えたら増えっぱなしではなく、徐々に揮発して軽くなっていくのだが。
黄さんトコだと、香港っていう人口密度のせいで大変な重さになっていたが……まあ、加工してしまえば、俺一人の思念で自由自在になる(らしい。ちょっと不安)。
思念吸収対象の限定もそうだが、その増え方も加工によって変化する。
一方向にのみ増減するようにしてしまえば、文字通りの如意棒に。
質量のみ増えるようにすれば錘に……といった具合だ。
そして眼前――双子仙人の補助によって形を成した、銀の杖がある。
「祝いよ。一年よう頑張ったな」
「お、おう……」
「持ってみよ」
言葉に頷き、手を伸ばす。
持ってみれば、羽のように軽い。
しかし、驚いた瞬間に、ずしり、と重くなった。
「おおっ……すげぇ……」
「カカカ。そうであろ、そうであろ。精霊銀を表面に塗布した、神珍鉄と緋色金の合金棍よ。控えめに言ってそこらの妖物なら転がすだけで死ぬわ」
ミスリルはまあブリテンエルフの輸出主力商品だから、まあ、いいとして。
緋色金って日本の秘中の秘ってやつなんだが。宮内庁トップランカーとかの御用達って噂で、香港に何本緋色金製の武器があるか。
問い詰めてみれば、なんかの賭けで巻き上げたんだったかのー、とか抜かすばばぁである。
「で、銀精の。コレ銘はどうするんだ?」
「お゛名前は大゛事よ゛ねー」
「ぬ。……少し待て。まだ刻むでないぞ」
ぬーん、とばばぁは眉根を寄せる。
「神珍鉄自在棍……そうじゃ、神珍鉄轟沈棒じゃ」
「略して珍沈棒とか言ったらアンタをこれで殴る。絶対にだ」
「さ、流石に冗談じゃよー、そんなこわい顔をするでないわ。……実際悩んでおるのは事実でなあ。神珍鉄……鉄棒……神銀棒? いやあ、わしの股間に魔羅があるような名前ものう」
「こ゛ういうのは単゛純なものが゛一番だと思いますよぉー。見た目とかー、性能とかー」
まあなんにせよ、呼びやすいのが定着するんじゃなかろうか――
/
「ただいま戻りましたよ、っと」
走馬燈を見てから数時間後。
俺は山に帰還した。
ログハウス跡地を抜けて、邸宅へ。
戻って着替えて、銀杖を置いて食事の準備だ。
結局なし崩しに、客間が俺の部屋になっている。
「っと……」
居間に入れば、師匠が机で眠っていた。
今日もラフな格好で、椅子に尻が食い込んでいて大変目に毒だ。
毛布をかけてやろうとすると、ぱち、と彼女は目を覚ました。
「……んぉー?」
ぼーっとした目だ。
おー。と何やら俺の方を見て、一度頷いて、また机に突っ伏した。
「……おーい……」
ちょっと頭が痛い。ぐーたら師匠め。どうせ寝るなら机じゃなくて椅子、もっと言うなら部屋で寝やがれ。
まあ、メシでも作れば目が覚めるだろうか。
今度こそ毛布をかけてやり、軽く料理を作る。
たまには米を食いたいが、飯盒炊飯とかできねえかなあ、と思ったりはする。薪ならたくさんあるし。
ともあれ今日の飯は、中華風+バゲットとかいうやつだ。この前仕留めた鹿の肉がワイルド。
「……起きねーと先に食うぞ、ババァ」
起きる気配はない。
もぐもぐとつむじを眺めつつ飯を食って、ごちそうさまをして、皿を洗って、それでもまだ起きない。
「……しゃーねーなあ」
毛布を取っ払って、腰を抱きかかえる。
が、その前に、ちょっとだけ気になって、
「えぐれ胸」
と呟いてみた。
すると、メギッ! と、机に手指が食い込んだ。
「……ぐ、ぐー。すー。むにゃむにゃ、もう食べられぬ……」
「起きてんじゃねーか無駄な抵抗してんじゃねーよババァ!!!」
ったく、と、毛布を落としなおしてやり、食事を温めなおしに行く。
「ん、ん。ごほん。よう戻ったの」
毛布を肩にかけたまま、師匠が言う。
「おうおう、戻りましたよ、っと。謝礼はまた後日実物で、ってさ」
「さよけ」
「銀杖がなかったら死んでたぜ。ありがとうございます」
いやまあ、以前から今日よりはましとは言え、かなりやばい状況に素手で放り込まれていたわけだが。
というか今日銀杖がなかったらハチの巣か輪切りだったぞ。
「そうであろ。あれはのー、黄のやつにも色々無理言ったからのー」
緋色金が日本の秘伝とするならば、神珍鉄は大陸の秘奥。
これまでの借りがあるであろう? とか言って神珍鉄を要求されたときの黄さんの顔がいまだに忘れられねえ俺。
「とまれ、異名でもそろそろついてる頃かの? どうじゃ? 目立っておるじゃろうからの」
「ま、……"銀杖"とか。呼ばれてるっぽいぞ」
「うむ、まさか自ら名乗ってはおるまいな?」
「ンな恥ずかしいことしねぇって」
「さよけ。……いやー、てっきり"正義の味方気取ってるから警邏から逃げられなくていつも尋問食らってるやつ"、とか、"止まらぬツッコミ"とか、"強姦魔"とか呼ばれてるかと」
「待て、今俺どれから突っ込んでいいかわかんねぇ」
知ってんじゃねぇか!
なんでそこなんだよ!
強姦はしてねえとは言わねえが合意だろ!
っつか師匠が今作った異名だろ!
そうじゃねえよ師匠とヤるとか問題あるだろ誰かに言いふらしやがったか!?
竜双子様か!? 聞き出されたか!? 口げんかに弱いもんな師匠! 防御は乳みたいにうすっぺらだもんな!
「……フー。ツッコミ待ちなんだよな?」
もともとそう時間が経っているわけでもなし。
食事はすぐに温め終わる(火も落としていたわけでもなかったし)。
配膳してやり、俺の方も茶を入れて対面に座る。
「アレの銘も、後出しではあるが、"銀杖"にでもしてしまうかのー。おぬしの力量であまり大仰な名前を付けるのもよくなかろ」
「銀とか言って詐欺の塊だけどなアレ」
まあ、何製かってあたりまで今日はバレてたっぽいので、詐欺になってないが。
バレてどうにかなるものの類でもないが……
「しかしまあ、なんだってあんな……すげえ物を。流石に、記念品とか言って通るモノじゃねーぞ。使っといてなんだが」
「んむ」
と、師匠は茶で口の中を洗う。
それから、ふふん、と笑って、言った。
「ほれ、わしはこの通り美人ゆえ、まるで銀の精霊じゃー、などと呼ばれ、今の字名を名乗るようになったわけじゃが。おぬし、顔立ちは……まあ、なんじゃ。悪くないとは言え、わしの様に輝くばかりの美貌であったり、肌が青いとかの異相ではないじゃろ。まだ特に大きなことを成し遂げたというわけでもなし。……と、いうことで、せめて武器に特徴を持たせてやろか、というわしの師匠心なわけじゃよ」
うん、と頷く。立ち上がって、歩み寄り、見上げてくる師匠の前髪をかき上げ、それから、額に手を当てた。
「……熱はあんまねーな」
「師匠心拳!」
「オッふぁ!?」」
どこんと打たれて心臓が一瞬確かに止まった。
激痛が心臓から来る。
おおおおお、と心臓を抑えて震える俺である。
「アホなことを言うとらんで、風呂でも用意せい」
蹴り転がされて、クソが、と言いつつ、立ち上がる。
たまにかわいいこと言いやがるというか――いや、師匠、圧倒的年上なエルフの彼女にかける言葉じゃねえので、自重しているが。
クールぶっているのは、表面だけだ。中身はポンコツもいいところなのが、うちの師匠である。
……まあ、竜田様とかだったら、弟子入りしたその日に食われてそうだが……いや、うん、俺の師匠は、師匠1人だけだ。
クソがクソが、と呟きつつ、師匠の背をにらむ。
ぱくぱくもぐもぐと飯を食う師匠――その銀髪からぴょいっとはみ出た長耳が真っ赤だったのは、見なかったことにした。