エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜


 だいたいナニとでも子供作れるけどこれ完全な人類に必要な性能だっけ???

 ――『最終ハイブリッド計画/No.01』報告書の端書き




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 胸の前で組まれた手を解かせる。

 柔らかな生地のパジャマは、内側から乳肉で盛り上がっている。

 余裕あるサイズを購入したつもりだったが、少々目測を誤ったらしい。ひとまず着るものは揃えているが、今度は当人も連れて色々と買い物をしなければならないか。きちんとしたものを与えなければ父上に叱られてしまいそうだ。

 思いながら、両手を握ってベッドに抑え込んで、目をつぶるキャリコの唇、頬、額、と唇を落とす。


「ん、ぅっ……❤」


 両手が、俺の手を握り返してくる。

 やや長い爪が、俺の手の甲に触れている。

 首筋を舐めてやると、キャリコは寒気を帯びたように全身を震わせる。


「にっ❤ ぁ❤」


 片手を解放し、強い癖毛をめくり上げるように首筋を露出させ、ヒトであれば耳のある部位(猫系獣人故に耳が頭頂部に近い位置にあるが、耳の基部はある)の下を舐めくすぐる。

 首をそらし、喉を伸ばすようにして、俺に首を見せてくる。 

 キャリコの手指が、俺の後頭部に回った。

 にゃあ、と、キャリコは声を出す。

 首は急所だ。そこに口付けられながらも、キャリコは受け入れてくる。

 もう一方の手も放し、パジャマの前ボタンを外していく――


「む」


 ――気づき、声を上げる。


「……キャリコ。ブラジャーはどうした」

「……ね、寝るときはつけにゃい方がいいって、看護師さんが言ってましたにょで……」

「そうか」


 風呂場に残してあるのか、あるいは居間に来る前に一度部屋に戻ってしまいこんだか。

 どちらかは分からないが、ともあれ今彼女の胸元は、豊かに膨らんだ谷間をそのままに見せていた。

 ……やや想定外。否、想像外だったが、ともあれ手指の動きを再開する。

 獣人、とひとくくりにされることは多いが――俺も広義の獣人に当たる――その体格や性質は千差万別だ。

 例えば鳥系は、特にハーピーとも呼ばれるが、四肢や眼球、毛髪などに特徴が出るが、脚は人間のそれであることも多いし、手指が存在することも少なくない。頭髪などに特徴が残る場合のみの事例もある。

 猿系だと単純に毛深いヒトにしか見えないことも多い。

 下世話な話になるが、牛系はヒトを基準にすればほぼ全員が巨乳だ。

 そして猫系はと言えば、スレンダーな人物が多い。ネコ科らしい、しなやかな体付きの者が多いのだが、キャリコの乳房は明らかに平均を超えていた。それも、大きく、だ。

 大きいとは思っていたが――そしてこれまではそれを気にしていなかったが――これは牛系並みなのではないか。全くいないわけではないが、かなり珍しい形質だった。


「……ぬ」


 『むらっとする』――その類の表現を、俺は使ったことがなかった。語彙にはあったが、そのような状況に陥ったことがなかった。

 パジャマの前を開ききって、それだけで揺れる乳房を凝視する。

 仰向けになったキャリコの薄い胴の上で、柔らかく左右にやや流れている。

 ――大きい。まず思うのはその一語だ。

 他人との比較もある。サイズだけならば、そもそもの身長が大きい――例えば巨人系の方が大きいのは間違いない。牛系並みと言っても、牛系の平均サイズ並み、というだけの話だ。大きいは大きいが、猫系では特徴的なほどの大きさだが、しかし他に類を見ないほどではない。

 ……そもそも俺は母胎から生まれていないので、当然、母乳を飲んだ経験はない。母への憧れというものは、持ったことがない、と思う。だが、あるいは、遺伝子に刻まれているのかもしれない。大きかろうが特別俺に影響はないはずなのだが、眼が惹きつけられてしまう。

 ――柔らかそうだ。否、絶対に柔らかい。

 キャリコを抱きかかえて"銀精娘々"の家に連れて行ったのは俺だ。

 その時に身の柔らかさについては分かっているが、当然乳房には触れていない。介護の時など、当たってしまったことはあるが、意識をしたことはあったか。意識をして触れた時、俺は――俺は、無事でいられるのか。


「あ、あにょ……アラン、さま……?」

「む」


 声掛けで正気に戻った。


「……すまん。不躾だったな」

「い、いえ……にゃにか、おかしにゃところでも……?」

「ああ、いや……」


 ここで歯の浮いたような言葉でも言えるようになっていたなら、もう少し友人も多いだろうが。

 俺にできるのは、心のままに語ることだけだった。


「……興奮する」

「……にゃー、もうっ」


 キャリコは、顔を赤くして、両腕で俺の頭を抱き込んできた。

 普段ならば抵抗できるが、完全に乳房に意識を奪われていた。不覚。


「ぐぬ」


 谷間に顔が埋もれる。

 汗ばむ肌の感触と、石鹸のにおいと、その奥からキャリコ自身のにおいがした。頬が両側から柔らかいものに包まれていた。

 IQが下がる。なんだこれは、と、分かりきったことを問いたくなる。動悸が激しくなる。


「まっ、まだ、見ただけですにょに、そんにゃ風ににゃって、どうするんですかっ。え、え、えっちぃこと、し、し――してくれ、るんですよにゃー!?」

「あ、あァ、そうだ」


 声が裏返った。

 童貞を恥じる男は多い。

 恥じる気持ちが分かった。

 童貞は罪だった。


「ぬ…………」


 声をあげながら、谷間から離れる。

 クラーク・シーズの重力魔法より頭が重くなった心地だったが、自分を律する――


「…………う」


 ――そして即座に敗北し、片方の乳房に顔を埋めた。


「にゃー!?」


 キャリコが鳴いた。

 乳房には魔力があった。


「…………なんと…………」


 新たな発見だった。

 俺にこんな一面があったとは。

 キャリコが気付かせてくれた。

 俺はどうやら、巨乳というものが非常に好きらしい。

 俺は巨乳党だった。"銀杖"とは真逆だった。

 桃源郷はここにあった。


「あ、アランさまーっ?」


 キャリコが困ったように身をよじる。

 乳房に顔を埋めたまま、その背に手を入れ、持ち上げ、乳を更に顔で押しつぶす。

 顔面全体でキャリコの乳房を堪能する。

 ああ、と思う。なんという感触だ。

 たっぷたっぷのたゆたゆの、ぷるぷるたぽんのもちもちの、むにむにぷるんのやわやわの――。


「……おっぱい……」


 まさか俺がこんな単語を口にする日が来るとは夢にも思わなかった。

 頭を軽く振って更に更に堪能していると、キャリコが俺の空いた手を取った。


「んっ……!」


 何をする気だ、とは思った。

 だが、抵抗はしない。今は巨乳の感触を得るのに忙しい――


「ぬ」


 ――湿った音が耳に届く。

 あたたかでやわらかな肉に、手指が挟まれていた。

 指の腹には淡い毛の感触があり、そしてぬめりある水分がそこを覆っていた。

 手首周辺にはゴムらしき締め付けがあった。

 そこで気付く――思い出す。セックスとは、乳房を堪能するだけでは終わらない、と。


「……すまない」


 意志を持って、乳房から顔面を離す。


「興奮した」

「そうでしょうともっ! たいへんご興奮のご様子であらせられましたですにゃー!」


 キャリコは涙目だった。

 顔を真っ赤にして、それでも怒っていた。


「……すまない」


 発情期だ。

 男性であれば、一発抜けばある程度は収まるものだが、女性であれば多くは妊娠するまで止まらない。

 無論満足すればある程度は発散できるし、電話で聞いたように、抑える薬もあるが。

 今の俺のような対応では、弱火で嬲られるような心地であったことだろう。


「辛い思いをさせたか」


 問いかけると、キャリコは口元を歪めながら目線を逸らした。


「い、いいえ。むしろ、にゃ、にゃんか残念な……」

「そうか。すまない」


 なにかを残念に思われてしまったらしい。幻滅させたのだろうか。

 幻滅されるほどの何かがあるかと思ったが、先ほどヒーローとまで言われたのだ。

 それが何かによって揺さぶられたのだろうか。


「……続きを行う」

「は、はいですにゃー……」


 ぬめる指を引き抜き、背を支える手を尻尾の根元まで持っていく。

 尻尾があるために、パジャマズボンをやや浅めに履いている。

 滑らせるように、ズボンから尻を引き抜く。

 毛布の中で、音がした。衣擦れの音はしない。汗で湿気っている。代わりに水音がしたのだ。


「うーっ……❤」


 キャリコが自由にならぬ脚を引きずるように、尻をよじった。

 乳房とは違い、猫系らしい小尻だ――骨盤自体は広がっている。発情期が来ても――子供を抱えても問題なさそうな発達度合いではある。

 ……そう言えば、と、"傑道"が俺の尻を撫でながら言っていたことを思い出す。

 曰く、『女の子も男の子も褒めてあげなきゃダメよォ、アラン?』。

 故にそうした。


「……尻もいいぞ」

「…………!」


 キャリコは顔を両手で覆った。

 色好い反応だろうか。

 毛布を背で押しのけながら、キャリコの力ない脚からズボンを抜いていく。

 ……下着も巻き込んでいたので、キャリコは今、パジャマの上だけを着ている状態だ。

 小作りな足先からパジャマズボンを引き抜き、床に放り投げると、重たげな音を出した。

 俺の方も、服を脱ぐ。いい加減股間が苦しい。一気に全裸になって、一息を吐く。

 キャリコの股間は、夜闇に濡れ光っている。全身の肌も汗を浮かせているが、やはり注目するべきはそこか。

 やわらかな、こちらは白一色の細い毛が、秘所を彩るように生えており、汗と愛液を吸ってまとまってしまっている。


「キャリコはきれいだな」

「……あ、あらんさま、こそ……」

「俺がきれいはあるまい」

「あにょ……あ……うぁ……」

「何かを言いたいなら、ゆっくりでいい」


 発情期で頭が茹って、上手く言葉にできないこともあるだろう。

 俺の方も冷静とは言えない。初めて感じる――きちんと受け取る女性の性的魅力だ。今すぐにでも乳房に顔を埋めたい。

 だがそうしては、キャリコがまた怯えるだろう。

 可能な限り性欲を制御しながら、待つ。


「…………っ、」


 キャリコの腰が動く。肘が動き、尻尾が動いた。

 寝返りを打とうとしているのだろうか。

 脚が動かないために、彼女は寝返りも難しい。

 補助して、横向きにしてやると、キャリコは更に回転してうつ伏せになった。

 勢いで片足が開く。

 においが濃くなる。

 先ほどまではパジャマズボンの中。あるいは、閉じた足の合間にあったそこが、わずかなりとも開かれたためだ。

 やや短い二股の尻尾が、尻の上で立った。


「……にゃー、ぉ……❤」


 鼻にかかった声を、キャリコは出した。

 言語統一塔では翻訳されない言語だった。

 だが、意味は分かった。


「…………」


 背中側から見るキャリコは、細い。

 だが、華奢という印象ではない。

 細く、しかししなやかだ。

 浮き出た肩甲骨や、くぼんだ背筋のライン、くびれた腰や脚へと繋がる稜線などは、掛け値なしに美しいと言える。

 その腰に手をかけ、持ち上げる。猫の交尾のような姿勢を取らせる。

 脚については、彼女は感覚がないと語っていた。尻尾は動くので、その近辺については感覚が生きているようだ。

 では、その境目であるここはどうなのか、と、手を伸ばした。


「っ…………❤」


 尻がわずかに震えた。

 俺の手指は、陰毛を触っていた。

 ここの感触があれば、問題はないだろう。

 陰唇を、手指で開く。

 見たこと程度はある。俺は女性にもなれるが故に。

 だが、このような状況で見るのは初めてだった――セックス自体が初めてなので当然ではあるが。

 股の間には、熱い雫が滴っていた。


「……ん、にゃっ……❤」


 慎重に、クリトリスに触れる。

 キャリコは今、股間節以下の関節が動かず、感覚がない、という状態のようだ。

 尻尾が跳ねると同時に腰が揺れて崩れ落ちそうになったところを片手で支えながら、秘所に指を触れさせて行く。


「ん……ふぅ❤」


 腰が震えている。

 手指を這わせていく。

 キャリコの背筋に力が入った。

 下腹を支える手でも、力が入っていることが感じ取れる。


「あらっ、ん、さまぁっ……❤」

「……力を抜け」


 指先で、口をなぞる。

 熱い雫を零し続けるそこを刺激する。

 力が入っているのを、揉みほぐすように。

 まっすぐ伸びていた尻尾が、リズムを持って揺れる。

 シーツに呻くような声が飲まれていく。

 顔を近づけ、尻に口づける。


「ひんっ❤」


 背筋が反ろうとする――脚が動かないために、背に力が入っただけだったが。

 変化したばかりということもあるだろうが、白く、しみ一つない臀部だ。

 尻を持ち上げた姿勢であるために、尻肉は伸びている。

 舌で浮いた汗を舐めとると、キャリコの手がシーツを掴むのが見えた。

 尻にむしゃぶりつくような体勢に、なっている。

 塩味の乗った肉は極上だ。動かぬ脚を抱え込んで、それを味わう。

 腰を抱いて逃さず、熱中し舌を這わせて、丸みを帯びた肉を撫で回す。

 鳴き声が心地よい。

 だが、鳴き声はくぐもっている。もっとはっきりと聞きたかった。

 腰を離して、キャリコをひっくり返す。

 縮こまろうとする腕を捕えて頭の上にまとめ、顔を近づける。

 腋を舐める。肩口に舌を這わせて、二の腕へ。

 キャリコは俺から顔を背けていた。

 吐息が漏れている。

 片手は未だ秘所にあり、音を鳴らしている。


「……っ❤ あらっ……さまっ……❤」


 豊満な乳房へと顔を移す。

 顔面全体で味わうのも良かったが、先ほども感じた突起の方が気になった。

 乳首だ。大きさのわりには小ぶりなのだろうか。尖っている。猫は多数の乳首を持つ生物だが、キャリコは一対のようだった。

 口に含み、吸う。


「ん、にゃっ……❤」


 掴んだ腕が逃げようともがいた。

 もう既に、俺は乳房に到達している。腕を離し、代わりに背を抱く。

 キャリコの身を前後で抑え込んで、舌先で乳首を転がす。

 あふ、は、と、声が聞こえる。


「あらん、さま……ァっ❤ あぁっ……❤」


 胴がうねる。

 脚が動けば、腰もうねっていただろう。

 口を離せば、乳首が片方だけ、俺の唾液によって濡れ光っていた。

 キャリコは眉根を寄せ、目を閉じていた。口を半開きにして、頬を紅潮させ、目じりからは涙が溢れていた。

 腕は力なく頭の上にあり、片方折れた耳が、時たま跳ねるように動いている。

 全身から力が抜けていた。

 頃合いか、と。そう思った。

 身を離し、一息を吐く。

 理性の手綱で身を制御する。そうだと分かっていても暴走するのがこの身だ。


「キャリコ」


 呼びかけで、キャリコは目を開いた。

 長いまつ毛が開く。

 金色の目が俺の方を見て、そして、あ、と声を出す。


「アラン、さま……? 目が……」

「む」


 ……自分を把握する。

 気づけば、目の色が変わっていた。


「……少し待て」


 ――目を抑えて、眼球を作り直す。

 油断するとこうなる。

 目立つために普段はブラウンに変更しているが、ベース色は金色だ。そのため、損傷からの自然治癒や代謝で金色に戻っていく。

 眼球としての性能に大差はないが、今は、それすら把握できていなかったということか。


「……戻ったか」

「あ、……はい」


 キャリコが、少し残念そうな顔をする。

 キャリコの瞳は金色だ。

 "お揃い"と言うものではあったか。


「金色の方がいいか」

「あっ、……わ、わざわざ戻さにゃくとも大丈夫ですにゃー……!」

「……もう戻してしまったが」

「あっ……あああ。あー……すみません、ですにゃー……」


 キャリコの表情が歪む。

 その動きで、涙がまた零れた。


「……今泣かせたのは、俺か」


 キャリコは、両手で涙をぬぐいながら、首を振った。


「きゃり子が、勝手に泣いただけですにゃーっ……」

「そうは、言われてもな」


 手指で、その涙をぬぐう。


「……俺はどうやら、キャリコに泣かれるのが苦手らしい」


 そもそも女をこのような形で泣かせるのが初めて故に、女の涙全般がそうなのかもしれないが。

 なるほど、女の涙は武器だった。それも覿面に効く。


「うーっ、ご、ごめんにゃさい、にゃ、泣いちゃって」

「いいんだ――俺はキャリコの涙が苦手なままでいい」


 見上げてくるキャリコに、ゆっくりとのしかかっていく。


「でなければ、二度と泣かせないと覚悟をしても、価値がない」


 改めて、口付けする。

 舌を入れる。

 驚いたように硬直した歯列をなぞり、歯茎を撫でると、呼気が漏れて、顎が開いた。

 目はマナー上閉じている。その他の感覚器もなるべく閉じて、ただ、触覚のみに集中する。


「んっ……❤」


 表面がざらりとした、薄い舌を舐める。

 怖がるように舌が戻っていくが、俺の舌はこの程度で削れるほど柔ではない。

 喉側に逃げた舌を追い、絡める。

 腕が首に絡んだ。

 下に敷いたキャリコの身に、新たな汗が浮く。

 は、と、口端から声が漏れる。

 唇を押し付けあっている。

 ただそれだけだと言うのに、理性の手綱が千切れそうになっていることを感じる。

 己を強いて、ゆっくりと身を離す。


「あら……さま……❤」


 キャリコの腕は、未だに首に絡んでいる。

 瞳は何より雄弁だった。

 キャリコの両足は、力なく左右に開かれている。

 俺が間に入っているためだ。

 故にその場所は知覚できる。

 男根に手をやる。

 これまで利用価値を見出せなかった部位であるが――今は、これが重要な器官だった。


「……キャリコ」


 荒い呼吸のリズムを読む。

 亀頭口に添える。

 ゆっくりと、腰を進める。


「うッ……あ❤」


 キャリコの腕に力が入る。

 力が抜ける瞬間を見計らいながら、可能な限りゆっくりと。


「うぅうううっ❤」


 キャリコの背が反る。

 歯を食いしばっている。その間から、声が漏れていた。

 そうして、奥へと辿り付いた。

 ふ、と息を吐く。

 呼吸もせず集中していたからだ――そのことに、遅ればせながら気付いたからだ。


「うっ、……うっ、ァ❤ あっ、らん、さまっ❤」


 キャリコの内は、俺を締め付けてきている。

 呼吸に合わせて――そして不規則に。

 く、と、堪える。


「い、いた❤ いたぃ、ですっ、うう、ぅううう❤ ごめんにゃさい、い、たいっ、いたいよぅう❤」


 ……また涙がこぼれている。

 また泣かせてしまった。

 こうなるだろうとは思ったが――なんたることだ。


「すまない」


 キャリコは、首を振って、身を持ち上げるように俺に抱き付いてくる。

 脚が動かないためか、もどかしげに、抱きつく位置を変え、そして軽く爪を立ててくる。

 身を落とし、肘で身を支え、負担を小さくする。

 非常に豊かな胸部が、俺の胸と挟まれて潰れた。柔らかい。


「アラン、さまぁあ……❤」

「ああ」

「うご、うごいてぇっ……❤」

「……いいのか? それは」


 キャリコの声には痛みが乗っている。

 明らかに、快楽の喘ぎではない。

 処女地に男根挿入したのだ――それは例えば、柔軟運動をしていない人間が無理やり身を折りたたまれた時のように、引きちぎられるような痛みを伴っているだろう。


「ぜ、ぜんぶ、あげっ、る、からっ……アラン、さまっ❤ きゃり子、つかって、きもちよく、にゃってくださいぃっ……❤」

「なっている。だから、落ち着くまで、待て」

「う、うーっ❤」


 頭を撫でてやる。

 腹の奥で本能が暴れている。

 それが腰にまで行かぬよう、脳内で義父のアドバイスを思い出す。

 やはり父上は偉大な方だった。今頃はキャリコの外見年齢より2、3年下の少女を抱いていたとしても全く驚かない。

 ――今主に役立っているのは顔だが。


「んーっ……!」


 と、キャリコが、肩口に噛みついてきた。

 噛みついた上で、腰を揺すってくる。

 揺するたびに、犬歯が――牙が、俺の肩口に食い込んだ。

 肌が破れ、血が出る。


「うご、ひてぇえっ……❤」


 泣くような声が、耳元から聞こえた。


「泣いても、やめにゃいでっ……お願いします……おにぇがい、しますぅっ……❤」


 ……既に泣いていると思うが。

 流石にこれは野暮だと、俺でも分かる。

 父の顔を忘れる。

 男根を、挿入時よりもなおゆっくりと、引き抜いていく。


「う、ぅう❤」


 ある程度引き抜いたところで、また挿入する。

 こじ開ける、という表現が最も適切だろう。


「ううぅうう❤ んうぅうう❤」


 肩口の牙がより食い込む。

 痛みがある。なにか、抗議されているようだ。

 それでもゆっくりと抽送する。


「あら、ん、さまぁっ、うにっ、ううう❤」

「……なん、だ」


 理性をわずかに言語野に向ける。

 正直なところ――そろそろ、本能の制御が、難しくなってきていた。

 訓練するべきだ、と思いつつも、返答した。


「も、もっと、あらんさまの、おもいどおりにっ……すきに、してっ……くださ、い❤」

「している」


 キャリコが泣くことを望まない。

 キャリコに痛みを与えることを望まない。

 キャリコの望みは可能な限り叶えたい。

 その折衷が、現状だ。

 俺は俺の好きにしている。


「ち、ちがう、んッ……!」


 裂けたところに当たったか、キャリコの抱き付きが強くなった。

 背に爪が立つ。

 今は人肌であるが故に、とうとう背中の皮膚が裂けた。

 呻きを堪える。文字通りのかすり傷だからだ。


「ごめん、にゃさいっ、アラン、さまっ……!」


 キャリコは、俺の耳元で言う。

 告白するように。熱い吐息を伴って、恥じらいを忘れたように。


「い、……い、たく、してっ❤ あらんさま、っ❤」


 キャリコは、俺の耳に息を吹き込むように言う。

 あるいは、告発するように。己の望みを語る。


「う、うみます、うみますからっ……❤ アラン、さま❤ だから、痛くして、ください❤」


 ――猫は、多産だ。

 多い時は10匹近く、仔を産む。

 なぜかと言えば、猫は性交の度に排卵するためだ。

 雄の性器には棘があり、は痛みによって排卵する。

 ……息を吐く。

 強く抱き付いてくるキャリコの腕を軽く叩いて、意を伝える。

 キャリコは、すぐにでもまた抱き付けるように、腕を俺の首裏に残しながらも、抱き付きを緩めてくれた。

 軽く身を離し、……涙の雫を零すその目を見る。


「……俺は、キャリコを痛めつけたいわけではない」

「わ、わかってます、けどっ……❤」

「ああ。だが、一つ、勘違いをしているようだ」


 キャリコを見下ろす。

 その目を見る。


「――そもそも。俺は相手を絶対に妊娠させる生物だ」


 え、と、キャリコは口を開く。


「……詳しい事情は省くが、そのように造られたキメラだ。相手が妊娠できるならば、俺は絶対だ」


 キャリコの顔に、理解が染みわたっていく。

 それって、と、キャリコは言う。

 俺は頷く。

 だから最初に聞いただろう――


「――改めて問うが。産む覚悟は、あるか」


 キャリコが抱き付いてくる。

 耳元で、キャリコは叫ぶように言った。


「産みたい❤ あらんさま、ごめんにゃさい、わがまま❤ ごめんにゃさい❤」

「いい。キャリコの気持ちは、先ほど聞いた。分かっている」


 身を折り、キャリコの首筋に口を近づける。

 そしてその細い肩に、軽く噛みついた。


「にァっ、あぁあ❤」


 口中に、鉄の味、血の味が来る。

 鼻先の髪からは、キャリコのにおいがする。

 白い首筋から、張りのある肌から、わずかに血がにじんでいる。

 キスマークなどと言う洒落たものではない。

 だが、ある種の印だった。


「……キャリコの全てなど、俺は受け取れない。キャリコには、キャリコのいのちがある」


 口を離し、言う。


「俺は、キャリコを助けたなどと胸を張って言える男ではない。そうしろと、友には言われたが、やはり無理だ。事実を誤魔化すわけにはいかない」


 結局のところ、俺は人間ではない。少なくとも、まっとうな人間ではない。


「……その上、このようなことを、この状況で語る男だが。それでよければ、キャリコを貰いたい」


 だが、それでも、キャリコの言葉に、キャリコの心に、答えたかった。

 キャリコは何も言わなかったが、代わりに肩口を噛んできた。

 ああ、と思う。これは、傷跡が残ってしまうだろう。

 笑みが浮かぶのを自覚する。

 なんとも、単純な男だ。人生経験が足りない。好意をぶつけられて、そのまま好意で返したくなってしまうなど、単純極まりない。

 保護観察者として失格だ。選択肢がないままの娘を、貰ってしまうなど。なんという悪党だ。


「……ありがとう」


 言いつつ、肩口を噛んだままのキャリコの頭を撫でる。

 片側が折れた耳の裏をかくように撫でて、細い髪の毛を撫でて、もっと噛んでいいぞ、と、もっと跡を残せ、と、軽く押し付けてやる。

 キャリコの喉が動く。

 おそらくは、俺の血を飲んでいるのだろう。

 俺の方も、キャリコの血を飲んだ。


「……動く」

「……うに……❤」


 キャリコは、噛んだまま返事をした。

 仔を持つか、と、思う。

 保護観察を飛び越えて、本当に親になってしまうか。

 義父がいなくなってから、変化が目まぐるしい。

 動かぬ脚を抱え込む。

 キャリコを抑え込んで、逃がさないようにする。


「……キャリコ。今日、この場で――貴様には、俺の仔を孕んでもらう」


 宣言すると、キャリコは、抱き付きと噛みつきを強くした。