エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜


 Hong-Kong!!!

 陰謀渦巻き金銭奔る!

 235節の龍身誇る天空街都!

 今や十二国志の第十三国! 中華にあって中華にあらず!

 Hong-Kong!!!




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 ――黄さんに箱を渡す。

 彼は中身を確認すると、胡散臭い顔に、にっこりと笑みを浮かべた。


「弟子さん、大助かりだよ。これで穴に埋めれるよ。お師匠さんのクスリは効きがいいからネ」

「ハハハ。聞かなかったことにしておきますね」

「ウン、そうするのがいいよ。お師匠さんは、今日は?」

「…………寝てますね。で、こちらが?」

「そうよ。人を呼ぶから――」

「あ、おかまいなく」


 ひょいっ、と台座に据えられていた鉄棒――大陸の軍から横流しされてきたって言う神珍鉄インゴットを持ち上げる。

 足裏が床にめり込みそうになるが気合を入れて何とかする。した。

 唖然とした顔で見送られるが、黄さんのような敵意とか猜疑心とかバリバリの人はウチの山には入れねぇのである。

 さすがに軽やかには歩けず、ずっしんずっしんと歩いて去っていく。


「こ、困ったことがあったら、いつでも言うといいよ……!」


 慌てたように追いかけてくる言葉に、ありがとうございます、と返しつつ、黄さんの事務所を出て行く。

 落としたら地殻を割りかねないので、ちょい注意して持ち歩く。

 街中は雑然としている。

 ドワーフだ、サラマンダーだ、ゴーレムだ。オーガと鬼が酒を飲んでいるし、コボルドが交通整理をしている――大穴の工事を迂回して、人と看板だらけの道をすり抜けるように歩く。


「そもそもよー、同じ邪悪な仙人でも、アンタらと師匠は違うっつーかさぁ……」


 ――銀精娘々。

 香港に住み着く仙人の中でも最古参。

 大陸エルフとしては若年ながら、剣術と体術の凄烈なまでの達人――同時に、死霊術と本草学に造詣が深い、邪仙。

 怜悧な美貌は剣のごとく――銀糸の髪を翻し、返り血の一つも浴びず一夜で手練れ100人の頭を砕いたなんて逸話もあるそうな(斬れよ。砕くな)。

 香港裏社会の絶対的タブーの一人にして、気紛れ気儘な一種の災害、その上で有能なオクスリ屋さん。

 そもそも香港が宙に浮いたのだって、彼女の呼びかけがあったって噂もある。

 当人が師匠なんだから実際に聞けばいいんだが、あの師匠のことだから、ケツ穴の処女かけてもいいが、忘れてるだろう。


「おっと、ごめんよ」


 ぶつかりかけた猫人のねーちゃんに会釈しつつ、また道を行く。

 ――対して、黄さんは、俺と同じく元人間の仙人だ(まあ俺は完全に人間を辞めたわけでもないが)。

 元々、50年前に開示された裏の者どもは、隠れていただけで、死んでいたわけではない。

 数千年を闇の世界に潜んできたものどもはいたわけで、黄さんは御年200歳の邪仙だ。

 勿論エルフと元人間、天仙か地仙か――って違いもある。だが何が一番違うかって、具体的に言えば、ゾンビってことだ。

 他人の肉体乗っ取ってるってんだから度し難い。

 次はエルフの肉体を狙ってるって噂も聞いている。師匠に近寄らせるべきじゃあない。

 屋根の上を飛んでいく犯罪者と警邏組織の追いかけっこを眺めつつ、ちょっと買い食いなんぞしつつ、香港の街を抜けて、鎖をがきゃがきゃ鳴らして島を渡りながら、山に帰る。

 渦状馬が使えればなあ。とは思うが、今渦状馬は笑いすぎでダウン中だ。オメーに腹筋あるのか。


「落としたらコレ海に一直線だしなあ」


 流石にコレ持って泳げる気はしない。

 ともあれ、集中して帰ることにする。

 ぶっちゃけ、山に入った瞬間、ぶっ殺されても文句は言えない立場だからだ――




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 やらかした、と叫んだ俺は、10秒間だけ後悔と懺悔に浸ることにした。

 眼下には完全に失神したどろぬちゃの師匠。10秒経ったのでひっくり返すと、白目むいて泡吹いてた。

 流石に美人台無しのツラだったので、湯を用意して体を洗ってやり、一息。

 それから、今日はクスリの納品があったなあ、と、思い出す。

 家の裏手の洞穴――師匠の本当の本拠、"銀生流混洞"である――に入って色々と荷物を持って、厩舎の方に顔を出してみる。


「……渦状馬?」

『プルヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ』


 耳を傾けてみると、ずっと笑っているかのような声が聞こえてきた。

 返事はないが、まあ問題ねーなと判断して、人参を転がしておく。

 主に似て性格の悪い――馬じゃねえよなオマエ。乗り物、くらいの意味合いで使ってるよな師匠――やつである。

 荷物の中にはビンなどもあるので、それなりに気を付けて歩く。

 俺の家(自作ログハウス)の横を通って、山を下り、本島の方まで歩いていく。

 ……室内どこからでも星が見える有様になった俺の家はひとまず放棄するしかない。

 明日以降にまた作り直そう――木材はいくらでもあるし、俺の手はもはやあらゆる工具と同等である。


「…………あ」


 そうして歩き出してから気付いたんだが、言伝というか、メモでも残してこればよかった。あの分じゃ、渦状馬も俺のことが見えていたかどうか。

 仮に師匠が起きたらどうなるか色々分かったもんじゃないっつーか。

 せめて俺が街中にいるときに起きないことを祈るしかない。




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 ――いや、うん。

 鼻骨肋骨で済むとは思えん所業したしなあ。

 こうして山に戻ってくるまで無事で済んだあたりはラッキーと思っておこう。

 ともあれ、もう夕刻だ。

 肩に担いだ神珍鉄インゴットを反対の肩にかけ直し、家の裏手に向かおうとして。


「ようおめおめと戻って来たのう、カスが」


 ――と、仁王立ちする師匠に、行き会ったのだった。

 ドレス姿。腰にはホルスターじみたベルトがあり、腰裏には2本の剣が釣られている。

 アレはわりとアカン。

 何がアカンって、片方の剣は投げると自動的に敵の頭を砕くって言う標準的な宝貝なのだが、もう片方は、語弊を恐れずに言えば、ビームサーベルだ。

 さらに言えば、今日の師匠の靴はヒールがないものだ。

 踵を潰していない、きちんとしたカンフーシューズ――つまるところ、元からゼロの逃げる目がさらにゼロ。


「言い訳でも囀ってみせよ。あるいは、許すかもしれんぞ」


 水面じみて――あるいは師匠の胸部じみて、表情は平坦。

 剣にかけた手は脱力して、いつだって俺の頸を刎ね飛ばせるだろう。


「……や、師匠の代わりにお届け物行ってきただけですって」

「さよけ」


 師匠の目は真っ赤だ。

 昨晩めっちゃ泣かせたしなー、……と思ったが、師匠だって仙人、回復力は高いはずだ。

 間違ってたら今度こそぶっ殺されるし、間違ってなくてもぶっ殺されるかもしれないが。

 どうせ逃げてもぶっ殺されるのだし、と、近づいていく。

 神珍鉄インゴットを小脇に抱え、真っすぐに、だ。


「ぬ」


 と、師匠が顔をぐに、と歪めた。

 悔し気に、下唇を噛んでいる。

 チキ、と、剣を抜きかける音が聞こえて、ちん、と、それを納め直す音がした。

 流石に斬られたわけじゃないと思いたいが――まあ、それならそれだ。今死んだか後で死ぬかの違いでしかない。

 手を伸ばしあえば届く程度の距離に立ち、頭を下げる。


「すみません、師匠。勝手に用を済ませてきた罰は、如何様にでも――ご心配を、おかけしました」


 この山は安全だ(※師匠除く)。

 故に俺がいないならば、自分から出て行ったということになる。


「……破門もしとらんと言うに。勝手にどこかに行くでないわ」


 頭上から声が降ってくる。

 それだけ言い捨てて、師匠は踵を返した。


「今日は晩飯を10品用意せよ! 普段の倍じゃ倍!」


 10品とかマジかぁー。ともなるが。

 破門と言う言葉は出てきつつも、しかし、破門されるわけでも、なさそうだ。

 一層深く頭を下げ、がに股で歩いていく師匠を見送る。

 …………いやほんとすみません。




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 ――つまるところ、これまでの修行は、仙人になるためのものではなかったのだ。

 いや、道程にあると言う意味ではたしかに仙人になるための修行なのだが、肉体的に強いことと、仙人であることに因果関係はない。

 本来仙人は、天地の気を自身に巡らせ、自身の存在を天地と等しくしたり、あるいは高めた気で新たな肉体を作ったり……道はいくつかあるが、肉体強度が必要不可欠である手法は殆どない。

 真の天才であるならば、一切肉体を動かすことなく仙人へと至ることも可能なのだとか。


「おー、いつつ……やっぱりのー。業を使わねばこんなもんじゃの」


 無論のこと、肉体的に頑健である方が、修行には有利だ。

 例えばだが、とある薬を飲む必要がある修行があるとする。

 ただしその薬は常人が飲むと死ぬ。

 だから、飲んでも死なないように鍛えよう――なんて必要性が出てくるわけだ。

 と言うか単純に、修行中に風邪ひいて修行できないとか無駄もいいところであるわけだし。俺も頑丈とは言え、1回くらいは風邪をひいたこともあるわけだし。

 で、俺がやっていた修行と言うのは、仙人骨を持っている人間が効率よく成長するための修行である。

 生命力――霊力や魔力と呼ばれるそれになる前の、人間が生命活動を行うためのエネルギーが過剰に生産されるのが、仙人だ。

 故に未修行の状態であっても回復力は高いし肉体的にも強度が高い。

 それを効率よくブッ壊して生命力任せで直して、効率よくぶっ殺しに行くことで経絡を無理やり開かせ生命力任せでそれを固定して……言っていてなんだが本当一年よく生きのびたな俺は。


「師匠、手ェ抜いてた、……ん、だよな?」

「無論。しかし、全力でもあった。普段は力を流しておるが、今回は純粋に腕力勝負よ。いやしかし、こんなに早く骨折られるとはのー……」


 師匠の腕は細く柔らかい。骨と皮だけ、と言うわけでもないが、ぷにぷにである。

 曰く、真の脱力を体現すればこうなる。とのことだったが。

 その細い手、手の甲が朱くなっている。

 ひらひらと振っている――腕相撲をしてみた結果、俺が勝ってしまったのだ。


「やっぱなんかやってたのか師匠。それにしたって……勝てるとか」

「言うたであろう。肉はもういっぱしじゃな、と」


 いつの間にか師匠の手は、元通りの細く白い手指に戻っている。


「あー……すみません、師匠。手」

「気にするでない。弟子の成長を喜ばん師がどこにおるか。これも褒美の一環よ。千切られるまで行けば流石に同じようにしたが」

「余計な一言すぎるわババァ! 胸に余計な肉はついてねぇくせに!」


 肋骨折られたぜ。


「……無論、昨日今日で急に強くなったわけでもない。おぬしの修練と、わしの調練の結果じゃの。如何に才能に恵まれていようとも、何もなしにわしに勝てる膂力にはならぬ――そして無論のこと、腕力だけが強くなろうとも、仙道を進んだことにはならぬ。おぬしらにとって、仙道は長くか細い道よ。ゆめ、精進を忘れるでないぞ」


 しかし、と師匠は言う。


「それにしても、なんじゃ。わしに手加減なくなってないかの」

「あー……いや、その、うっかりです。ハイ」


 肋骨も治ったので立ち上がって、視線を逸らす。

 手ェ握られてドギマギしねぇ16歳はいねぇよ。毎度のことだが。昨日のこともあるし無防備に接触はマジでやめてほしい。

 まあいつも通りと言うか、腕相撲じゃ! とか言われてガッカリするのは生態なので許していただきたいところである。


「なるほどうっかり。制御が甘い証拠じゃのー。然らば、そのあたり鍛えてやることにしようかの」


 師匠がにまりと笑う。

 嫌な予感がする。


「ホレ、外に出ておれ。わしも着替えてから出るからの」


 と、ケツを軽く蹴られる。

 いつの間に後ろに回りやがったこのばばぁその尻をまた張ってやろうか――そう思って睨むと、師匠はさっと腰を引いた。


「…………えーと。外出てますね」

「おう、そうせい」


 真っ赤な顔の師匠から目を反らし、外に出る。




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「ぐぉぁばッ!!!」


 と、吹っ飛ばされて錐もみして大木を三つほどブチ抜いて、四つ目で止まって血を吐いた。

 背骨が嫌な音を立てた――常人であればびしゃりと大木に巻き付くか。そも、蹴り飛ばされた時点で血の霧になるか。

 めぎめぎめぎ、と四つ目の木も折れかけている――押しつぶされぬように逃れて、意識して背に生命力を回す。

 動けるようになるまで0.5秒――いてぇいてぇいてぇ――それが長い。


「――どうしたぁッ! 気を回せと言うておろうがッ!!!」


 言葉と同時に、棍が降ってくる。

 打ち下ろしが大木を根元から掘り返しクレーターを作る。

 腕だけで跳ね上がった俺を、爆裂しめくれ上がった地面が追い打ちする。


「ババァああああ! クソが――ッ!」

「ンンン耳に罵倒が心地よいわ――ッ!」


 適当に見える薙ぎが、真空波を作って肌を裂く。

 目を庇ったが、これが失敗だった――ぞわ、と背後に殺気が来たかと思えば、棍の打ち下ろしが、背骨を折ったからだ。


「がぁッ!?」


 飛びあがった身がクレーターの中央に叩きつけられ、クレーターを拡張する。

 半ば埋もれながら、必死で回復する。


「く、クソッ、流石にマジでいてぇッ……!」


 思わず呻くと、口の中に土が入ってきた。

 ここに追い打ちを食らったら死ぬほかない。

 つまるところ、敗北だ。

 こつん、と、後頭部に棍が当たる。


「ホレホレ、さっさと回復せい。わしがおぬしならば折られた瞬間治癒できるぞぅ。未熟未熟、無駄がアリアリじゃのう」


 コンコンコンコンと後頭部を連続で突かれる。

 ふんぎぎぎぎ、と5秒使って背骨を治し、埋もれた身を起こす。

 頭を振って土を払い、


「クソババァめ、そんな――そんなカッコされて集中できるかってのッ……!」


 現在の師匠の装備。

 木棍。

 さらし。

 ぱんつ。

 沓。

 ――以上!!!!!!!!


「うむ、おっ立ておって、未熟未熟。その体勢、地を犯す気かの? わしなどホレ、クッソ恥ずかしいにも拘らず制御は完璧じゃぞ」

「恥ずかしいならやるなよ!!」


 師匠は顔が真っ赤である。

 股間を隠すように腰をよじっているが、そうすると尻の丸みが強調されるわけでな。クソが。

 ――本日の修行は、半裸の師匠を相手に模擬戦である。

 普段だったら避けられるはずの蹴りとかうっかり受けるし。

 肉体強化が遅れるし。

 食い込み見ちまうし。

 汗が飛ぶし。

 棍で戦ってるってのに妙に近づいてくるし。

 いやまあ、この状況で集中できりゃあ、うっかりで師匠の骨折ったりはしなくなるだろうがよぉ!


「……む。なんじゃその目線は」

「自分の恰好鑑みろぉ!!! 尻は隠せ尻はァ!!!」


 胸はわりとどうでも――あ、いや、嫌いじゃない、むしろ好きだが、師匠っつったら尻だろ。尻。ビート板みたいな胸なら我慢できる。尻丸出しっていきなり集中難易度ベリーハードじゃねぇか!!!


「エロスのために集中するかと思ったのにのう」

「思い付きでやんなよそんなこと! 尻放り出してんじゃねえよ! ツッコミ疲れるわアホだろこの永遠の発展途上胸!」


 踏みつけは流石に避けたぜ。


「あっぶねぇだろばばぁ!」

「でぇい避けておいて何を言うか、その首へし折ってくれるわ――ッ!」

「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 ごろんごろん転がってクレーターから脱出してチンポジを直し、改めて棍を構える。

 2時間前に習ったばかりの構えだが、この120分で50回くらい殺されかけてんぞクソが。


「ひょっと」


 掛け声と同時に、師匠が跳んで、俺を飛び越えて、広間の方で着地する。


「わしが美人とは言え、色香に弱いのは問題じゃのー。やれやれ。――来るがよい、仕切り直す」

「……クソが」


 自称を否定する気にはなれない。

 おかしそうに笑う師匠は、わりと本気で美人だからだ。




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 結局その後135回ほど"殺され"て、俺は風呂に入った。

 ――師匠家は、香港を浮かせたとき――まあだいたい20年前に、上手いことやって作らせた家らしい。

 故に洋風の混じった建築で、豪華で頑丈、かつ洒脱なものだ。

 勿論ライフラインなんか通じてないので、電気が必要な時は発電機を回すし、水も基本的には俺がタンクに入れているし、飯も薪だし、薪ストーブだし、風呂も薪だが(幸いにして薪式と言っても20年前の技術だ。熱効率はいいし、その気になれば温熱の魔法式を起動すればいい)。

 ……まあ俺は、部屋も余ってるってのに、裏でログハウス生活してたが。

 ともあれ、風呂場は広く、湯船も2,3人が容易に浸かれるほどには大きい。

 こびりついた土や血の汚れを洗い流して、湯船に浸かり、天井を見る。


「マジで服どうにかしねえと小遣いが死ぬ……」


 そもそも師匠が暴れて家吹っ飛ばされたせいで服も何着かダメにされている。だいぶ服がねえ。

 師匠がたまに使っている服を作る術はすぐに覚えられるものかどうかすら分からん。

 裁縫でも覚えてみるか? 経費で落としてくださいって言ってみるか?

 ……間違いなく俺の未熟のせいにされるだろう。

 今月早くもピンチなんだが。


「黄さんに頼むとか……ジェームズさんには頼みたくねえなぁー……」


 あの人たちの善意には頼りたくない――善意なんて欠片もない度し難い人たち、あ、いや、一部人間じゃねえな。……度し難いモノたちなので、借りを作ったら何をされるか分かったもんじゃない。

 黄さんは悪党で悪人だが、まあ師匠の恐ろしさもよく知っているらしいので、頼むなら彼だろうか。

 流石に張さんみたいに服に監視カメラ仕掛けてきやがったりはしないと思う。

 でも知ってる中で2番目にやべー人も黄さんなんだよなあ(一番は師匠)。

 マトモそうな人たちって意味で言えば、他の仙人様たちがいるが……流石に他の仙人様たちにお願いしに行ったら師匠にぶっ殺されるし。と言うか、黄さんたち以上に後がおそろしい。


「……あ゛ー……」


 流石に、服も小遣いも、今日明日でなくなるほどじゃない。

 補充しておきたいが、っつー程度だ。なくなるまでに度し難くない知り合いができるかもしれない。ゼロ%じゃない。たぶん。

 ……っていうか小遣いってホントなんなんだよ畜生。むしろお駄賃か。

 師匠、それなり以上に稼いでいるはずなんだが。


「……駄目だな、これはヒモ思考だな。弟子入りしておいて金貰ってる時点で恵まれてら」


 飯もだいたい俺が準備しているが、香辛料とか買ってくる分には師匠の金だし。

 周囲の環境も師匠の術で整えられてるわけで、衣食住を、曲りなりとも師匠に依存しているわけだ。

 そこで文句を言ったらバチがあたる。


「……ん」


 かたん、と物音。

 すりガラスの向こうに、バイオリンじみたシルエットが見えた。

 そのバイオリンには手足と頭がついている。


「邪魔するぞーい」


 扉を開けて、師匠が入ってきた。

 全裸だった。


「はっちょっおまっばっ」

「なんじゃ面白い顔しとるのー」


 けらけら笑われる。

 特にタオルやら手ぬぐいやら持っていない、マジで隠すものなしのすっぽんぽんババァである。


「わしの方も汗が我慢ならんでな」

「わしは水浴びするからおぬし風呂入れってアンタが言ったんだろババァ何考えてんだ!!!」

「いやあ、ちょっと寒かったもんでのう」

「俺は俺が水浴びするからいいってっつったぞババァアアアアァマジで何考えてんだ! 分かった何も考えてねーな!!!」

「やかましいわい、ほれ、そこのけそこのけ」

「いや待て俺が出るからそこで待て、いや待て身体を先に洗えよマナーだろ!?」

「やかましいわい」


 とぅっ、と師匠は飛んだ。

 風呂場としては高い天井(日本にいた時は天井低かったなあ)に頭をこするような高度まで飛んで、だっぽーん、と、風呂中心点に着弾。お湯を盛大に飛ばしやがって、ホント馬鹿だろ! バカ! バーカ!!!!


「ぶぇっ、クソが! 信じらんねぇ!!!」

「わしんチの風呂じゃ、わしが何をしようと問題あるまいよ?」

「理屈じゃそうだけどよぉ!!!」


 顔を拭って、師匠を睨む。

 師匠は肩まで浸かって、にまにまと笑っている。

 手で胸元を隠し、脚を組んで股間を隠し――それでも肌は見えている。

 鎖骨やら何やらに注目してしまいそうだったので、天井に視線を逃がした。


「……クソが」


 出よう。流石に師匠と風呂場に入ると、ヤった時のことを思い出しかねん――今度こそ破門を食らってしまう。

 決めて、立ち上がろうとすると、足に何かが絡み、引っ張られた。


「う、ぐぉっガボッ!?」


 立ちかけたところだったのでバランスを崩して湯船のフチで顎を打った。

 頭の先まで温熱に包まれる。

 がぼぼ、と水中を引っ張られた。

 とは言え湯船、そう深いわけでもなし。足を掴む何かを振り払い、腕で水中から脱出。


「あがっ、顎っ、にゃにしゃぁがるババァアアアア!」


 骨はイってないが、それでも痛いもんは痛い。舌を噛まなかったのは幸いだ。


「うむ。わしのながーい足でおぬしの脚を挟んで引っ張った」

「そこじゃねーよ! そこじゃねぇよ!」

「毎度思うがおぬしそんな怒鳴って喉痛くならんのか?」

「アンタのせいだよこの胸部デザイン流線形!」


 顎イったぜ。


「まったく、裸の付き合いってやつじゃよ、日本じゃ一般的なんじゃろ?」

「男女じゃ一般的じゃねえよ」


 脳震盪を起こして水没した俺を、師匠は引っ張り上げて、隣に据えてきた。

 ありがたすぎることでマジで夜這いでもかけてやろうかって気分にはなる。


「カカカ。――なに言っとるか全然わからん!」

「師匠のせいだろうが。まったく……」


 ともあれ、逃がしてくれる気はないらしい。

 尻半個分師匠から離れて、湯船のフチに肘をかける。

 俺よりも低い位置にある頭を視界の端に収めつつ、諦めて長湯することにした。

 ……エルフという種族柄なのか、師匠は手足が長い。

 身長差はあまりないが(一年前に拾われた時は俺の方が低かったくらいだ)、こうして座ると、頭半分くらいに差が広がる。

 そう言えばキッチリ身長計ってないが、何センチになったんだ俺。170は超えたと思うんだが。


「……固まっとるぞ、どしたんじゃ?」

「アンタ見ねーようにしてんだよ分かれよ!!!」

「おうおう、そうかそうか。見ては眼が潰れるほどに美しいてか?」


 ぐ、と喉の奥で言葉が詰まる。

 数秒悩み、頷いた。


「……そうだよ、見たら襲いそうになるから我慢してんですよ。っつか、アレだ、師匠。一昨日のことなんだが……」


 昨日、今日と、不自然なほどに話題に出なかったが。

 ちらり、と、銀髪を結い上げた頭を見降ろす。

 師匠は足を延ばして湯船に浸かり、股のあたりに両手を置いていた。

 つむじの位置が見えて、細い肩が見えて、桜色の乳首が――いや、それより、アレだ。

 風呂に入っていれば、そりゃあ血行もよくなるが、それにしてはちょっと、耳が朱すぎる。


「……師匠?」

「~~~~ぅ、お、おう。一昨日のことがどしたんじゃい」

「いや、その、……一昨日のことそのものについては、謝ってなかったなと」


 めっちゃ犯してごめんなさい。……とは流石に言えんというか、それホントに謝ってんのか。なんで、どう謝ったものかって件ではあるが。

 だいたい師匠が悪いが、俺がやりすぎたのもまた事実。


「……もう二度としねぇので。許してください」


 言うと、ぴこん、と、長耳がハネた。


「……正気か?」

「おい待てどこをどういう思考ルート通った今アンタ」

「馬鹿弟子めが!」


 ざばっ、と師匠は立ち上がる。

 わざわざ俺の正面にまで歩き、薄い胸に彼女は手を当て、叫んだ。


「この完璧な身体を抱きたくないじゃと!? おぬし齢16にして性欲枯れ果てたか!?」


 ……手を置く微乳ですらない胸はまあともかくとして。

 美しく流れる銀髪。(内面さえ知らなければ)銀の剣のようにすら見える冷たくも凛々しく美しい容貌。

 細く長い腕、剣を振るえば無敵かと思うほどだと言うのに、掌は柔らかい。

 湯水の滴る肌はすべすべとして触り心地がよく白い。

 体毛らしい体毛は、髪の毛と眉毛、まつ毛くらいなものか。

 そもそも骨が細いのだ。それでいて尻は大きく張って、儚いほどの上半身の印象を崩している。

 へそのくぼみには水が流れ、印象を強めてくる。

 決して完璧じゃない。

 人によっては、顔立ちはむしろ氷のような印象を受けるだろう。

 尻のサイズと乳のサイズがあまりにもアンバランスだ。……が。


「…………枯れてない」


 股間が熱くなる――仁王立ちしてすこし開かれた股の間――あの穴の味を、俺は知っている。

 思わずごくりと息を飲む。

 ……一昨日童貞とおさらばしたばかりの俺だ。

 勘違いだとは思うんだが。

 真っ赤な顔で、ひくひくと頬を痙攣させる師匠は、期待しているように見えたのだ。

 手を伸ばし、腕を掴んで引く。


「んっ」


 師匠は引かれる力に逆らわず――くるりと回って、俺の膝の上に尻を落とした。

 軽く湯が跳ねる。

 師匠は俺の腕の中に納まり、カカカ、と笑った。


「おお、いかんいかん……おぬしの腕力には、もう逆らえんなぁ……❤」

「言ってろ」


 ――必死で引いていた手綱を緩める。

 薄い身を抱きしめ、長耳を食む。


「誘ってきたのはアンタだからな。クソが」


 ぞわ、と、腕の中で師匠が震える。

 デカ尻に勃起したちんぽを押し付ける。

 既に師匠の乳首は、屹立し始めていた。