〜分析結果サンプル〜
中華邪仙ド貧乳エルフ師匠をちんぽでこらしめるやつ@NEO/鵺野新鷹
Hong-Kong!!!
過ぎ去りし日々を求めるは人の業なるや!
翻り幾重にも時を刻め天空街都!
今や十二国志の第十三国! 風と共に去りゆかん!
Hong-Kong!!!
/
――春節祭。
2月半ばの3日間、開催される祭りだ。
祭りとしてはその期間だが、前後を挟み祭りのムードはある。
日本で言う年末年始みたいなものだ(と言うか、実際に旧正月――年末年始時期ではある)。
「ふっ」
衣装はまだ着ずに、片手で木刀を振るう。
左手は何かを抱え持つように丸めて、動く。
同じく木刀を持ったアランが、それを受ける。
どちらも大仰な動き。
見栄を切ったり、お子様たちにも見える程度の速度であったり、だ。
最初と最後の動きだけは決めているが、基本的にはアドリブの予定である。
しっかり決めるよりもこっちの方が動きがいい、という判断によるものだ。
俺がケイを抱えるときのセリフなど、同じような判断は色々と行われている。
ともあれ一応の呼吸だけはつかんでおかねば支障が出る。だから、こうしている。
……今日は師匠とは別行動(用事があるらしい)なのだが、予定が早く片付けば見に来るとのことで、少し気合いを入れている。
「本番用の剣は光るが」
と、アランが言った。
「打ち付けあって、最悪折れてもよいと許可を頂いている」
「分かった。……どうせなら最後、俺の方だけ折れねえかな」
「そちらの剣の方が頑丈だが……」
「まあ、そっちの剣だけが折れても、残心の時に俺は倒れる。でもいいだろ。最後まで剣がお互い残ってたら全力で打ち付ける方向で行くか」
「そうするとしよう」
軽いアップだ。
ここから先は、お互いに衣装を着こむために動けなくなる。
「っと」
「む」
受け損ねて体勢が悪い。
つばぜり合いになっている。
押し込んできているが、かなり力が強い。
俺も怪力の自信があるが、こいつもかなりのものだ――あるいは俺以上かもしれない。
まあ単純な腕力で勝っていても、ウチの師匠とか「力を逃がすのじゃよ」とか言って微動だにしなかったりするんだが。
脚を持ち上げて、突き出す。
つばぜり合いになった場合、蹴って距離を離すことになっている。
アランが、それこそ蹴り飛ばされたように離れて、くるりとトンボを切って着地する。
あと決めておくべきは何かあるかな、と、軽く考える。
「アラン、なにかあるか?」
「いや。特にはない」
「俺も……多分、大丈夫だな。多分足元が揺れっから、お互い転ばないようにだけ」
「ああ」
木刀を逆手に持って、軽く汗をかいた身を実感する。
ふうう、と息を吐いて整調し、行こうぜ、と声をかける。
アランは無言で頷いた。
舞台裏のプレハブ小屋で、着替えることになっている。
"お姉さん"である金髪巨乳さん、それとサクラであるケイは私服だが、俺達はコスチュームを身にまとう事になっている。
野郎側プレハブに入ってみると、すでにイエロー――師範代さんが、コスチュームに身を包んで横になっていた。
俺よりも大柄な、クマのような男性である。
ブルーさんも着替えている最中で、シャツ姿だ。
「そろそろかな」
「そうですね、と……」
ケータイで時間を見れば、開始までは一時間と少しある。
俺の場合はメイクも必要だが、着替えるには十分な時間だろう。
……うわ、緊張してきた。そわそわしてきた。
「君たちが主役だ。頑張ってくれよ」
と、ブルーさんも言う。
政庁八卦衆の一人――"輝光剣"と呼ばれる男だ。
時空系魔術師のホワイトさん(女性だ)と合わせて、最後の必殺技の演出を担う役目の方でもある。
「は。努力します」
「アランは堅いねえ……」
全くだ――と思いながら、ジャケットを脱いで、シャツを脱ぐ。
2月も半ばとあって段々と暖かくなってきた。
「予告状が来て、ピリピリしているのは分かるけれどね」
「はい」
……予告状。
俺も話は聞いている。
新月の夜、総督の命を頂きます、なんて予告状を送りつけたそうだ。
新月の夜とは、すなわち今日である。
「しかし、ケチな盗人風情が、どうしてまた総督を害そうと言うのだろうね――私としては、騒いだ隙に何かを盗もうとしているのでは、と思っているんだが」
"快盗"マウス。
ドッペルゲンガーの、灰色の髪と瞳を持つ少女の盗人。
金持ちから義賊的な盗みを行うことが多く、最近――というか、なんだが、ジェスター・クラウン逮捕の一件で決め手ともなったということで、盗人としてはまあまあ名前が通っている。
過程で人を傷つけることはあっても、命まで奪うことはなかった――と、聞いている。
「あいつが、そんな人をぶっ殺すようなやつだとは、思わないですけども」
「そういえば、君は知り合いなのだったか」
「そうですね」
窓から外を見る。
全損した総督府の瓦礫は撤去され、今こうして、特設会場になっているわけだ――元々儀礼的な場所だったこともあり、別の場所に改めて新設するという話も持ち上がっていると聞く。
あの時、あいつがクソピエロの眼を覆っていなかったなら。もしかしたら、俺は今、ここにいないかもしれない。
「……なんか、事情があるんだろうとは、思いますがね。それこそ、ブルーさんが言ったみたいに、盗みのための陽動なのか」
コスチュームを身に着けながら、思う。
一度会って話をしたかった。
さようなら――と、ケイに伝えたらしいが。これのためだったのか。
無理を言ってでも連絡先を聞いておくべきだった。クソが。
「総督閣下も……まあ、悪いことをたくさんしているのでな、13年前のことを思い出せ――と言うことであれば、前総督の死去に関してだろうか……」
「うむ、清廉潔白という嘘だけは、恥ずかしすぎて言えないな。顔を見れば納得できるだろう?」
「まあ、そうですね」
「昔から悪人悪人言われて心根が歪んでしまってね。その上醜化と老化の呪いも食らって、この様相だ。おかげで、兄を殺したなどと、あらぬ誤解も受けている」
「そうなんですか――って、ん?」
振り返ると、総督がいた。
「うぉっ」
と、アラン以外の全員が一歩引いた(アランだけは当然のように一礼していた)。
プレハブの入口に、豚のように太った豚のような男がいた。
腹がパツパツに張ったスーツが見苦しい。
ニマァ、と、獲物が罠にかかった時のような笑顔をうかべている。
歩けば床がギシリと鳴るはずだし、ドアも音を立てるはずのものだってのに、いつの間にプレハブに来たのか全く分からなかった。
正直に言って、強さの底が分からんと言うか――かなり強いのではないか、と感じる。
「命を狙われることも、年……いや、月一回くらいはある。いつものことと言えば、いつものことなのだよ。伊達に10年以上香港で一番えらいやつをやっているわけではない。既得権益で美味い汁も啜っているのでな、腹がこうなるまで! ハッハッハ!」
ブルーさんとアランが頷く。
大丈夫なのかアンタ。
「今の君たちの仕事は、私の護衛ではなく、事件の予防ですらなく、子供たちを楽しませることだ。励んでくれたまえ」
「はっ。全力を以て」
「堅いのは治らんなあ、アラン……」
やれやれ、と言わんばかりに、総督はぶひーとため息を吐く。
俺たちも頷き、それから――
「おい! 誰か豚ァ見なかったか!!! あの肥満ロリコンまた脱走しやがった!!! なぁーにが視察だふざけやがってあのデブ見つけ次第オレが刺殺してやるッッッ!!!!!!!」
――という、外からの叫びを聞いて、4人で豚を囲んだ。
総督は、俺たちを見上げ、見回し、頷いた。
手のひらを俺たちに見せてきて、真顔で言う。
「――うむ。待とう」
「皆が迷惑しています、父上」
「とっととおかえりいただけますか」
「チャーシューにしますか」
「いい出汁が出るのではないか」
「コスチュームが壊れたらどうするつもりなのかね?」
「そうなる前に大人しくさせますロリコン閣下」
「おおっとセメントだなぁ。だが、一つだけ訂正したい」
総督は胸を張って腹を揺らし、言う。
「私はロリコンではない。たまたま、愛人に、妖精やドワーフ他、子供のような外見の種族が多いだけだ」
自信満々で言い放った言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
アイコンタクトで結論を出す。
「ギルティ」
「有罪」
「ここで処した方が世のため人のためなのではないか」
「……ノーコメント」
「アラン、おまえもか! 私は総督だぞ許せ! 純粋無垢な少女に甘えるくらい良いだろう!?」
「総督だったらロリコンが罪じゃなくなるんですかね」
「おっといかんそろそろ時間だな! 頑張ってくれたまえ!」
逃すか、と伸ばした手が、高速回転で弾かれた。
ギギギギギギギギギ、と音がしている。
プレハブ内を冷気が支配していく。
冷気は、総督の足元より漂っている。
腹が遠心力で持ち上がっている。
総督の顔が、俺の動体視力でも見切れぬほどに加速し、肉が外側に、うっわキッモ。
「ぬうッ、やはり噂は本当かッ!」
すげぇキモいが、回転速度は本物だ。
俺も、ブルーさんも、叫んだイエローさんも、攻めあぐねている。
香港浮上の立役者の一人、だとは聞いていたが――
「まさか本当に、フィギュアスケートを戦闘技術にまで昇華しているとは……!」
「腹が引っかかって足が上がらんがなッ! さあ、逃がせ! でなければこのまま加齢臭を回転によってふりまき続ける! 特にだ! "銀杖"くん! 女の子を抱える君は、『うわっ加齢臭がする』とか思われたくないだろうッ!?」
「な、なんて嫌な脅し文句をッ……!?」
一歩引いたところで叫びを聞きつけた人(秘書さんだろうか)がプレハブのドアを蹴り開けて入ってきて回転を続ける総督にロープを投げて絡みつかせてセルフ簀巻きにした。
自らの回転で自らチャーシューと化した総督は、
「プギ」
と短く豚のような断末魔を上げてブッ倒れた。南無。
「――あ、失礼しましたー」
秘書さんが総督を引きずって去っていく。
怪力から察するにドワーフ系だろうか――スーツを着た、小柄な美少女にしか見えない女性であった。ギルティ。
「……着替えよう」
「おう」
アランの言葉に頷き、改めて着替え始める。
メイクは別のひとにやってもらう予定で、15分もあればできる予定だから、時間的には少し余裕がある。
ピアスどーすっかなー、と思いつつ、……ちょっと気になったので聞いてみる。
「……なあ、アラン。におい大丈夫か俺」
「問題はないだろう」
仏頂面のまま、アランは言う。
「においなど気にならぬ程度に、動いてやればいい」
「なあ、それにおい付いてるってことじゃねえ? 付いてるってことじゃねえの??? 俺マジで大丈夫なの???」
/
さて――ショーの大雑把な筋書きはこうだ。
1."お姉さん"(セシリアさん)が、子供たちに向けて見る際の注意を促す。
2.香港をぶっ壊そうとする悪い怪人の"黒剣"(俺)が登場、「この総督府跡地に俺の基地を建設し、香港を乗っ取ってくれるわーっ!」とか言う。
3.観客席側で戦闘員(ケイの兄弟子さんたちや、八卦衆のうちの数人)を呼び出し、子供たちを浚おうとする。
4.せしりあお姉さんの呼びかけによって、させないぞ、とキメラレンジャー(日本の特撮の香港ローカライズ版らしい)がやってくる。
5.女の子を浚い壇上に戻り、殺陣を開始する。
6.いい感じのところで、黒竜(ジェームズさん竜体)を呼び出し、ステージ上でクライマックス。
そして今。
戦闘員さんたちがキメラレンジャーと殺陣を行っており、そろそろ5番のステップに来ている――の、だが。
『ン……んん。ふーむッ。誰を生贄にしてやろうか、なァ~ッ!』
セリフを誤魔化す。
マイクの声に動揺が乗っていた。
眼前にはケイがいる。真ん中に座るように指示をしておいて、きちんと真ん中あたりに座っていてくれたのだが。
ケイは外から見えないようにしつつも、必死で隣を指さしている。
隣には、銀髪の少女が座っている。
切れ長の瞳、大きなリボンのポニーテール。ぴょいんと伸びたエルフ耳。
12歳くらいの少女であるが、どうにも、どこかで見たような顔だちと表情をしている。
ニッコリ笑顔で、悪戯が成功した、みたいな顔だ。
……ええと。と思う。用事あったんじゃねえのかよ。
『むっ、そこの貴様ッ』
とりあえず半分アドリブで、セリフを入れて、少女を指さす。
『決めたぞ~ッ、貴様を香港転覆の生贄にしてやろうッ!!!』
ガバッとマントで包むように抱きかかえる。
小柄――ケイと同じかやや小さいくらいの身を、横抱きにする。
精神感応が、『おいいいいいケイちゃんじゃねえの!? 大丈夫なのかその娘さんは!?』とか念波を送ってくるが、すまんなきっと大丈夫だ、と返す。
「きゃ、きゃあーっ!」
高い、しかしどこか楽しそうな悲鳴が上がる。
戻る最中には席からお子様たちにポカポカ殴られる。
いてててて。と思いながら、胸の中の女の子(棒読み)に問う。
『クックック。怪我しないように。しーっかりと抱き着いているんだぞっ。貴様の名前は何と言うんだっ、生贄に捧げるには、名前を知らんとならんからなぁっ! ハッハッハッハ! ――マントを掴むお前! お前も! 生贄になりたいのかぁ!?』
わぁー! と子供たちが散っていく。
そんな中、女の子は言った。
「……シルヴィ」
『そぉうかそうかシルヴィと言うのかっ! ――いい名前だなぁ!』
ハッハッハッハと笑いながら、のっしのっしと壇上に歩いていく。
戦闘員たちが追い散らされてはけて、ステージ上にスペースが開く。
『クッハッハッハッハァ! キメラレンジャー! 貴様らを倒し、俺はこの香港の王となるのだッッッ!』
『させるものかっ! お前の部下は、全員倒したぞっ!』
アランも演技派だなあ、と思いつつ、のしのしと歩いていく。
ヘルメットに変声魔法がかかっているので、叫び声は――まあ聞いたことはないが、多分キメラレッドの人の声なんだろう――変わっている。
「これっ、もっと優しく抱かんかっ……!」
うるせぇ黙って抱かれてろ――と思うが、暴れられるとわりとマジで危ないので、もう少し強めに抱きしめて、演技を続行する。
『ハッハッハッハァ! 部下!? 部下をすべて倒しただと!? ――とぅっ!』
マントを翻し跳躍――横抱きで、縮こまったししょ、ちげえわ女の子、を周囲にアピールする。
膠着の中、ゆっくりと片手を天に掲げ、叫ぶ。
『――来い! "悪竜"!』
瞬間、竜化した(体表面に黒い塗料を塗りたくった)ジェームズさんが、次元を引き裂くように出てくる(裏方さんお疲れ様です!)。
『グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!』
20メートルほどの体長を持つ竜の、ごく軽いとはいえ咆哮だ。
ぴぇえっ、と、前列のお子様どもが一瞬で涙目になる。
ジェームズさんが、俺の後ろに座り、キメラレンジャーを、観客席を睥睨する。
『ハーッハッハァ! シルヴィちゃんはッ! この"黒剣"が頂いてゆくゥッ!!!』
「きゃっ、きゃ――☆ たーすーけーてーっ☆」
『あぁっ! しっ、シルヴィちゃんがあぶなーいっ! みんなっ! キメラレンジャーを応援してあげてーっ!』
だが、セシリアお姉さんの声で、子供たちが再起動する。
セシリアさんも、大丈夫なの、みたいな視線を向けてきているし、キメラレンジャーの面々からも、舞台袖の
『せぇーのっ!』
「「「「がんばれーっ! きめられんじゃーっ!!」」」
子供たちの声と言っても、結構集まっている――これだけ集まれば結構圧がある。
だが、跳ねのけるように俺は笑い飛ばす。
『クッハハハハハハハ!!! その程度かァキメラレンジャー!!! そしてちびっこたちィ!!! その程度では、この"黒剣"を倒すことはできんんンンン!!!』
『みんなーっ! 大きな声で、もういっかーい!!! せぇーのっ!』
「「「「がんばぇーっ! きめられんじゃぁーっ!!!」」」
今更だが決められんじゃーってひでえ名前だな日本語的に。
日本での原題は何だったんだろうか。まあいいか。
『ふっ、ナマイキな子供たちめっ! よかろう! もう少しだけ遊んでやろうッ! 来い! キメラレンジャー!』
『応っ! シルヴィちゃん! きっと救い出してあげるからなっ!』
跳びあがり、腰から剣を抜く。
キメラレッド――アランも、手に光る剣を持ちつつ追ってきた。
他4人は、ジェームズさんと戦う手筈だ。
『はぁっ!』
『甘いわッ!』
キィン、と剣を打ち付け合う金属音。
ジェームズさんが、その身では狭苦しいステージ上で暴れまわっている。
『ぬんッ!』
『くっ!』
右手一本の振り降ろしを受け止められ、押し返される。
距離が離れたために、くるりと回ってマントを翻し、剣を走らせ、受けられ、落とされ、体勢が崩れそうになったところで踏み込み耐えて、大振りの一刀で間合いを離す。
逆にアランが飛びかかってきたために、笑いながら回避する。
『遅い! ははは! その程度かキメラレッド!』
『うおおおおっ!』
とか言いつつ、踏み込みが上手いと言うか、間合いの詰め方が上手い。
早くはないが鋭い動き、というべきか。回避にはあまり余裕がない。
『ふんッ!』
「きゃーっ☆」
問題はこの胸元でぎゅーっと抱き付いてくるロリババァだよ。
『フフフっ、暴れるんじゃあない、シルヴィちゃん! 貴様は生贄だっ! 傷をつけるわけにはいかんからなぁッ!』
「やだーっ、たすけて、きめられっどーっ☆」
うっわクソウザ。
――と思いつつ、飛んで跳ねて剣を振るう。
ジェームズさんの頭の上までアランを攻めて、そして跳躍で後ろに回られ一転ピンチ――そこでジェームズさんが頭を振って俺たちを飛ばした。
背中に戻って、今度は翼の上、更には観客席の方まで。
「がんばれーっ、キメラレッドーっ!」
「まけるなーっ!」
「ぶっころせー!!!」
ああ、こいつだけ、決められるぞ、って意味合いの言葉になるんだなあ。などと思いながら、周囲に気を配りつつ、観客席の中央、あるいはその上を飛び、縦横無尽だ。
お子様たちがきゃーきゃーわぁわぁ、がんばれキメラレンジャーと叫んでいる。
ところで最後のガキ将来大丈夫か。
『グゥウウウウオオオオオオオオ!!!』
光系魔法の応用によるエフェクトだけの魔法を食らったジェームズさんが、苦しむように咆哮する。
――そろそろ時間か。
ステージに跳んで戻って、ジェームズさんの上に。
アランもこれに追随してくる。
『その程度か、キメラレッドッ!』
叫ぶと同時、俺は大上段に構えを取る。
キメラレッドも、装飾過多な剣を構える――
『遊びは終わりだ――これでなァッ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
――交錯。
高い音がして、俺の方の剣だけが砕けてくれた。よし。
一瞬胸の中から手が伸びて剣を裏から突いたような気がしたが。
『ぐっ、ぐおっ! ぐわぁああァ!』
と、俺は苦しむ演技をする――その隙にキメラレッドが、おんなのこを回収。
ジェームズさんも、苦し気な声を出している。四つ足には、光が拘束具じみてまとわりついている。
『さぁっ! いくぞ皆っ!!!』
『むっ、いけません、キメラレッド! エネルギーがっ……!』
『なっ、なにぃ!?』
『ええーっ!? みんなーっ! 最後にもういっかい、キメラレンジャーを、応援してあげてーっ!』
せーの、で、子供たちが叫ぶ。
セシリアさんにあおられて、これまでで最も大きな声で、だ。
おいクソロリババァ、アンタまで叫んでんじゃねえよ。
『エネルギーが……溜まっていきます!』
『みんなの力があれば……俺たちは、戦えるっ! いくぞぉっ!』
レッドが叫び、そしてどこからか大砲を取り出す。
『『『『『必殺! キメラバーストストリームッッッ!!!』』』』』
かっ、と、ブルーさんが使ったのであろう、七色の光魔法が俺とジェームズさんを照らした。
威力はないが、すげえ眩しい――マジで目が眩む。手加減してください。
『ぐっ、ぐわっ、ぐわぁああああ――っ!』
『グゥウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオ!』
ジェームズさんが、非常に加減した咆哮を発し、光の中に溶けるように消えていく(竜化解除。お疲れ様です)。
当然と言うか、上に乗っていた俺はステージ上に落ちることになる。
よろめきながら立ち上がり、眼がまだ見えないまま、五人を指さし、捨て台詞を吐く。
『く、くくく、やるな、キメラレンジャーっ……だがっ、俺は何度でも舞い戻ってくるぞッ! 首を洗って、待っているがいいッ!』
そして観客席へ向けて。
『お前たち! お前たちが悪いことをするとき! 俺はいつでも、浚って、仲間にしてやるぞっ! ふは、フハハハハハハ――ッ!』
叫び、そして跳んで舞台袖へ。
――これで俺の出番はひとまず終わりだ。
"黒剣"は今回のヒーローショーオリジナルの敵なので、写真撮影などはキメラレンジャーの5人だけになる。
忘れずにマイクを切って、ふう、と一息。
……目の方を再生し、ぱちぱちと何度か瞬き。そして、下の方を見る。
「…………なにやってんですか、師匠」
「んんー?」
舞台袖には、ここにいてはいけない、ロリババァがいた。
にまにまと嬉しそうな笑みを浮かべており、しかもぐったりしたジェームズさんの上に座っている。鬼か。
「おケイが姫抱きされると聞いての。無理を言うて、替わってもらったのじゃが」
「あんたなぁ……」
はぁあ、とため息を吐く。
「どうしたんです、その姿。薬でも飲んだんですか?」
「おう、おう。そのとおりよ。大ざっぱに200歳ごろの姿じゃの」
エルフは寿命と比して、幼少期の成長が速い。
その分二次成長期までの期間が長いそうだが。
200歳ごろ――人の寿命スケールに合せるならば3、4歳くらいだってのに、10歳少々くらいには、見える。
「随分と、楽しそうだったではないか?」
普段より高い声だ。
くすくすと笑っており、そのたびにジェームズさんが苦し気な声を出した。疲れ切って気絶してるんだからマジで許してやれよ。
「……まあ。わりと、こういうのって憧れだったんですよ。地元の祭りで、たまにやってましたんで」
「それで、おぬしもやってみたと」
「誘われましたんで――断っても、良かったとは思うんですけどね。でもまあ、師匠は今日用事があるってことでしたし、デートもできねえだろうから、いいかなと」
「むっ――うむ。いや、都合を、開けてきたのじゃよ。一応な」
デート、のあたりで、師匠の頬と長耳が、リンゴのように朱くなった。
言葉にもはっきりと動揺が乗っている。
見た目が幼くなったせいか、普段よりも言動そのものが幼くなったように見える――いや、実際に幼いわけだが。
「……ところで、師匠」
「なんじゃ」
「名前は、……その、本名だった、か?」
んふ、と、師匠は笑った。
「わしは、"銀精娘々"じゃよ。――まあ、もう900年くらい前には、そう呼ばれていたこともある」
「本名って言えよめんどくせ、ぇげげげげげげ喉゛喉゛喉゛」
一瞬で絡みつかれて喉をシメられた。死ぬ死ぬ。
四つん這いになってゲボッと血を吐く俺に座りながら、師匠は語る。
「……まあ、もう捨てた名じゃ。父とも800年は会っておらんし、母も200年ほど前に死んだらしいしのう……」
座られているので、どんな表情をしているのかは、分からない。
だが、声に寂しげな調子が乗っているのは、気のせいだろうか。
「ともあれわしは、おぬしの師である"銀精娘々"である。このようなナリであっても、の」
そうですか、と言いかけて――いや、と思い直す。
「……じゃあ、師匠を超えたら、そう呼んでもいいですか」
背の上で、小さな尻が跳ねた。
もじ、と尻が動き、
「……生意気を言うでないわ!」
「ぐおっふぅ!!!」
子供が椅子に座って足を振るように、踵が2発腹に入った。子供でも師匠は師匠だった。
「~~~~ではの! ついてくるでないぞっ!」
ずかずかと、師匠は舞台袖から出てどこかへと歩いていく。
地面に頬を付けながら、それを見送る。
……すみません。ちょっと今ついていけないです。今多分内臓何個か破裂してるんで。
「お、お疲れ様です、銀兄さ――って、きゃっ、ぎ、銀兄さんっ……!?」
「お゛ォ……その声……ケイか……替わってもらってすまんな……ウチの、ロリクソババァが……」
「へ、変な痙攣してますけどっ!? や、やだ、銀兄さぁーん!」
大丈夫大丈夫、と手を振る。
このくらい、稀によくある。