〜分析結果サンプル〜
中華邪仙ド貧乳エルフ師匠をちんぽでこらしめるやつ@NEO/鵺野新鷹
Hong-Kong!!!
深々積もり轟々嘶く!
白銀で渾沌隠せし天空街都!
今や十二国志の第十三国! 無音なれども音に聞け!
Hong-Kong!!!
/
「む」
と。俺の膝に頭を乗せてすやすや眠っていた師匠が、ぴん、と長耳を立てた。
「……客ですか?」
こんな日に――言外にそう込めて、問う。
外は猛吹雪だ。
二日前から続く吹雪は、止む気配がない。
なんでも香港浮上以来約20年のうちでもっとも強い寒波が来ているとのこと。
香港は高度的に雲の中にいることもある。
環境調整用の結界――周辺環境を高度500メートル程度に調整し、激しい風などを防ぐ、香港の実質的な国境線――が不調らしいことも相まって、凄まじい吹雪が続いている。
昨日の晩にはラジオの電波も通らないレベルの吹雪になったために、今はラジオの音すらしない。
「んむ……」
師匠がどっこいせと身を起こしつつ頷く。
ごしごしと目をこすり、ぱたっ、と長耳を羽ばたくように動かす。
流石に昨日今日は外での修業はせず、午前は薬学、食休みに本を読んでいたら師匠が膝の上で寝だして動けなかった、という現状だ(寝顔は本当女神じみてきれいだし起こそうとしたらヘソ抉られて悶絶させられたし)。
そろそろ足が痺れてきたので立ち上がりたいところだった。渡りに船と言えば船。
本――ハリウッド映画ノベライズ――を閉じつつ立ち上がると、師匠が手を引いてきた。
「ん」
見ると、師匠は櫛を持っていた。
と、言うことは、髪を梳けということだが――
「師匠が応対するんですか?」
「うむ」
分かりましたと頷いて、ちょっと寝癖のついた髪を梳いて、師匠からリボンを受け取り、ポニーテールにする。
師匠はさらりと銀髪を流し――そしてドレス姿になっている。
首元までしっかりと覆う、露出がほぼないドレスだ。寒いもんな。
先ほどまで着ていたどてらは右手に。普段ドレス姿ならば腰に剣があるところだが、今回はない。
いつもながら、いつの間に、と思うしかないタイミングだ。俺の瞬きの間に編んでいるのだろうとは思うが、毎度毎度違うドレスを編むのには感服するほかない。
わりとよくファッション誌を読んでいるが、趣味と言えるものなのかもしれない。
師匠は俺を見て、ン、と顎先に手を当てて思案し、言った。
「おぬしは……そうじゃなあ。どこぞに行っておれ。今日は帰ってくるでない」
「えっ」
「小遣いがないか。ほれ、これで美味いものでも食ってくるがよい」
「えっ」
「なんじゃ、足りんのか? 仕方ないのう……じゃが、風俗の類には行くでないぞ。土産も忘れるでない」
「ババァ熱でもあるのか?」
熱を測ろうとした右手の指が全部逆パカした。
「あッあッおーゥ……!」
変な声が出た。
師匠はうずくまる俺の尻を蹴りつつ言う。
「ほれ、さっさと行かんか――と、来てしもうたか」
ほぼ同時、ぴんぽーん、とチャイムの音。
この気配には覚えがある。
気配が薄いが、これは、
「マウス……?」
右手を治癒して立ち上がり、……師匠に睨まれ、部屋に引っ込む。
玄関の方から、師匠と、やはりマウスの声が漏れ聞こえてくる。
「……相分かった。印璽の約に従い、おぬしの願いを聞き届けよう――弟子が出て行ってからじゃが」
「……そうしていただけると、助かります」
「うむ。――じゃからとっとと出て行けい馬鹿弟子!」
……聞き耳を立てていたのがバレたので、大人しくズボンを履きかえてジャケットを羽織り、さらに今日は帽子とマフラーも着用。
"銀杖"、手袋と、今日に限ってはフックロープも準備して――ブーツは玄関先だ。
部屋から出ると、応接間に向かう二人の姿があった。
師匠と、やはりマウスだ。
……なんと師匠が茶と菓子を持っている。
「マウス」
と声をかける。
振り返ったマウスの顔色は悪い。
寒さのためもあるだろうが、何かひどく緊張している面持ちで、俯き気味なのもあるか。
わずかに濡れたキャスケット帽と、ポンチョに近い外套を抱えるように持っている。
「あ、銀さん……」
「あのピエロ野郎の報奨金な、おまえの分、ジェームズさんが預かってるんだが、どうすればいい?」
「ん、」
と、マウスは視線を揺らした。
「……私は、いいかな。銀さんが全部持って行ってよ。私の分も」
「そうはいかねぇな……と、と」
師匠が鋭い視線を向けてきている。
殺気までは乗っていないが、ナンダカの約束とか言ってたんで、俺には聞かれたくない話なんだろう。
正直猛吹雪の中出たくはないが。
「連絡先でも置いて行ってくれ。また今度話そう」
「……うん、わかった」
それだけ言って、玄関でブーツを履いて、外に出る――と。
びゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、
と、しか形容ができない風景があった。
「え……アイツこれン中来たのか……」
すげえ根性だなマウス。
ともあれ出て行けとのお達しだ。
帽子とマフラーの位置を直して、歩みを進める。
マウスが歩いてきたのであろう足跡をたどるように、だ。
フックロープの具合を確かめつつ、気を回して体温を上げる。
暖まるが、体温で雪が解けるのが難点だ。
「……そういえば、マウスのやつ……」
全然濡れてなかったな、と、思い返しながら、目を凝らし進んでいく。
/
銀精娘々が領土たる山を繋ぐ鎖は3本。竜双子様の島に1本、本島に2本、の構成だ。
どの鎖も鎖を束ねただけのもので、太く頑丈――人がすれ違えない程度の太さだが――とはいえ、今日みたいな日は流石に移動できたものじゃない。
だが、本島側から歩いてきたらしき小さな足跡があった。
じゃあやるしかねぇわな、と、反対側から軽くラッセルしつつ、そしてたまにフックロープを活躍させつつ、本島へとたどり着いた。
クソピエロの褒章金は受け取ったし、余分な金もある。帰りは《転移》業者を頼んだ方がいいかもしれない。
「さみィー……」
仙人道士と言えど寒いもんは寒い。
渡り切ったころには夕方で、マフラーが凍ってパリパリと音を立てるかのようだった。
草野球助っ人の時はだいぶ雪は融けていた。多少乾燥魔法をかけるだけで野球ができるコンディションになったが、今は無理だろう。
真冬に逆戻りというか、今こそ真冬だぜと主張せんばかりの天気である。
「1月も末だってのになァ……」
フー、と息を吐いて、さて何をするかな、と思う。
今回は屋外系はちょっとな、と思う。
映画、ゲーセン――春物ジャケットもそろそろ探しておきたい。
そろそろ晩飯時だし、たまには雑に美味いものを食うのもいいか。ラーメンとか。
いや、映画を見ていい感じに腹を空かせてからの方が雑に美味くなるだろうか。
飯を食ってからレイトショーもありか。
午後動いてないんであまり腹は減ってないんだよなあ――と、つらつら悩みつつてくてくと歩いてバス停を目指し、……半分埋もれているのを見て、動いてなさそうだな、と諦めて、屈伸運動。
「はー……」
あまり速度を上げると滑って転びそうだな、と思いつつ、足元の雪を踏み固め――よっ、とホップ。
軽く飛び、空中で身を回し、街灯をブーツの底でとらえ、ステップ。
高く飛び、二本目の街灯をブーツの底でとらえ、ぎしり、と街灯を揺らす力を込めて、大ジャンプ。
暴風雪の中を跳躍する。
風にあおられる身を制御しつつ、次の目標地点となる街灯を見つけ、着地し、そして思いっきり滑った。
「あっ」
雪が電熱で融けていたのだろうか。
吹雪く空を見上げながら思った。
漫画みたいなズッコケ方をした。
つま先が視界の下に映っていた。
『凹』の字みたいな姿勢で、尻を先端にして、俺は飛んでいた。
それから、着地点の次の街灯が俺を照らした。
うん、そうだよな、そりゃあ落ちてるよな。
そして何が来るかと言えば、着地、あるいは着弾である。
辛うじて一度は除雪したのであろう道路に尻がヒット――雪によって巧妙に衝撃は吸収され、バウンドすることなく、しかし速度は殺されず、俺は背と尻で道路を滑った。
痛いものは痛い。あああああああ、と思わずの悲鳴を上げながら、俺はカーリングじみて道路を滑り、そして雪山に突っ込んだ。
身が半ばまでめり込み、そして上側の雪が揺らされて落ちてくる。
「グワーッ!」
と、叫んだ口の中にも雪。
どさどさどさ、と雪がぶっかかる。
常人であればこの時点で凍死確定だが、
「……ク・ソ・が――ッ! 帰りてぇ――っ!」
叫びながら満身に力を込めて、雪山ごとぶっ飛ばす。
すり鉢状に吹っ飛んだ雪山の底で身を起こし、ずぼり、がぼっ、とそこから出て、
「く、っくっく、ふふ……」
と、笑い声を聞いた。
女の、ややハスキーな声だ。
「あ゛?」
と、声の方向を向いてみる。
まるで保護色――そこにいたのは、真っ白なコートを着た、白い女だ。
アルビノじみた、色素が欠けたような――文字通り雪のような白さの美女だ。
外見だけは20そこそこ――師匠よりもやや年かさに見える。
アルビノと違うのは、その瞳だ。
通常アルビノであれば、目は確か赤くなるらしい。
だが彼女の瞳は、金色で縁取りされており、内側はやや青味がかっている。
風によって煽られる髪を押さえながら、人が悪い笑みを浮かべている。
コートこそ着ているものの、吐息はほとんど白くならず、そして雪も身に付着していない。
つまりアルビノなどではなく、これが彼女の色。
恐らくは、日本で言うところの雪女系――東欧の血が見えるので、雪姫と言うべきだろうか。
――それも特上の。
「いや、失礼……こんな日だから出歩いていたんだが。面白いものを見てしまったね」
差し出された手を無視して立ち上がり、ぱすぱすと尻を叩いて雪を払う。
「こんなところまで、かい」
ケ、と毒づいて、雪女を見る。
厚手のコートだが、それを着ていてすらわかるスタイルの良さだ。
……乳のことではない。いや違う乳もそうだが手足が長い。
「うん、君たちだって、よく晴れた日には散歩くらいするだろう? 私にとっては、これがよく晴れた日なのさ――友達の家も、近くにあるしね。訪ねてみようと思ったんだが」
「そうかい」
「怒らないでおくれよ、静かなところを歩いていたら、急に人が落ちてカーリングだよ? 笑わない方が失礼だろう?」
ククク、と雪女は笑って、踵を返した。
軽く前方を指さして、問うてくる。
「ちなみに、街ってこっちの方で合ってるのかな? 迷っちゃったし、友達に連絡もできないし……。雪で視界が悪くなるのは、スネグーラチカでも同じでね」
「……ああ、そっちに行って、デカい道で左折すりゃあ街の方だ。バス停もあるが、埋もれてんな」
「なるほど。感謝するよ」
雪女はにこりと笑って、ふぅっ、と俺の方に吐息――それは指向性を持って漂い、俺の足元にまとわりついた。
ぞわり、と寒気が来る。
ブーツの周りを、きらきらと光るダイヤモンドダストが覆っている。
「《橇》――橇のように、君の脚は雪に沈まない。これはお礼だよ」
にこり、と彼女は笑って、じゃあね、と言った。
滑るように、彼女は遠ざかっていく。
……いや、実際に滑っている。
スケートでもやっているかのような動きだ。
なるほど、雪女にとっては、こんな天気こそが"いい天気"だろう。
吹雪の中に消えていく女を見送り、……ともあれ、一歩踏み出してみる。
もふっ、と。雪を広い面積で踏んだような感覚があった。
少し毛足が長い絨毯を踏んだような感触と言えばいいだろうか。
「……本当に沈まない、な?」
かんじき、と言ったか。足裏の面積を増やして体重を分散させ、雪に沈まなくする道具を履いたようなものか。
それでいて脚を閉じられないというわけでもなく、引っかかるというわけでもなく、バランスが悪いわけでもない。
それこそ雪国用の魔法なのだろう。
「いいね……効果時間がわからんが」
と言うか、足がつめたい。ブーツを浸透して、魔法の冷気が骨に染み入ってくる。
俺が道士じゃなかったら、1時間もすれば指が凍って落ちるのではあるまいか。
……ちょっと念入りに足に気を回しつつ、街の方向を見る。
香港外周を走る道路近辺は元々海底であったため、平地である。
もふっ、ぱふっ、と雪山を乗り越え、直進する。
「街中はここまでじゃないといいんだが……」
/
街中は閑散としていた。
そりゃあ、こんな日に出歩くやつはそうはいないか、というところ。
店の中にはいくらか人も見えるが、大通りと言える場所だというのに、外に見える人影は三つだけ――防寒具を着た巨人が、恐らく臨時で作成されたのであろう巨大なスコップで道路を除雪しており、前後に交通整理員がついている。
車通りもほぼゼロで、前後の交通整理員はほとんど立っているだけである。
「さぁーむぅーいぃー!」
「バッカ喋るな雪崩起きるだろうが!」
「俺たちだって寒ィよ! ガンバ! ジャイアントガンバ!!! ビッグになれ!」
「もぉーう、でかいがぁー!」
大変だなあ、と思いつつ、映画館の方へ向かう。
ソリの加護でついついと移動し、中心部の方へと向かう。
まともに歩くよりは早いが、普段よりはやはり遅い。道なりに進むしかないからだ。
それでもスクーターくらいの速度は出して、映画館にたどり着き、雪を払って、いい加減足先が冷えてきたので加護を踏み砕いて、
「あ」
「むッ」
と、知り合いを見つけた。
トンボのような羽をもつ、10歳くらいの男の子、そして男の子と手をつなぐ、やたらとナイスバディな美女だ。
男の子は、天使のような笑顔を浮かべていた――が、俺を見つけた瞬間、露骨に嫌そうな笑顔になった。
「ファック」
と小さく呟いたのも聞こえた。
水色の髪に、棒のように細い手足。小柄で、ピーターパンに出てもおかしくない――そんな姿には全く似つかわしくない、ひどく言い慣れたような響きだった。
……彼の名は、レイモンド・張。御年38歳、妖精系ハーフの、華僑系マフィアの幹部格である。隣の女性は奥さん。
「奥さんとデートですかこんな日に」
「これがどうしてもと言うのでな。オレにも予定もある。空いている日が今日しかなかったのだ」
と、奥さんを指さして言う。
だいぶ身長差がある――張さんは身長140センチを切っているが、奥さんは170半ばほどの長身だ。
奥さんはころころと笑い、
「あら、いやですわ、レイ? 映画最終日だから絶対に見に来なきゃって駄々をこねたのはアナタでしょう?」
「駄々などこねていない。嘘を言うんじゃない」
ちらりと上映中の映画を見てみる。
今日が最終日のものを探し、
「……張さん」
「なんだ」
「俺も、ディスティニー社の映画は好きですよ」
「待て。違う。ファック。やめろ、そんな目でオレを見るんじゃぁない! やめろその哀れな視線を!」
「恥ずかしがることもございませんのに……❤」
「やめろ頭を撫でるな! 家の中だけにしろ! 抱き上げるな! ファック! オレはディスティニー映画など見に来ていない! 違う離せェエエ!!」
奥さんに抱き上げられていいこいいこされながら、張さんはわたわたと暴れ、――何年か前のディスティニー社映画の主題歌が流れて真顔になった。
張さんの、コートの内ポケットから。おそらくは、ケータイの着信音か何かだろう。
……奥さんが張さんを降ろす。
張さんは、ケータイを取り出し、電話に出る。
「張だ。……ああ、オマエか」
ちらり、と見られたので、聞こえない距離にまで下がる――まあ俺の耳は性能がいいので、声を拾ってしまったが。
電話口にいるのは、恐らくジェームズさんだ。
奥さんと一緒に遠ざかり、何事かを放す張さんから視線を外す。
聞き耳を立てない、という意図を込めて、口を開く――と言っても、出るのは天気の話題くらいだが。
「それにしても、すごい吹雪ですね」
「ええ、浮上後最も強い寒波だそうですわね」
「らしいですね。去年はこんな雪降らなかったよなあ、って驚いてます」
「確か、去年……一昨年ですわね、こちらに来たと、レイから聞いておりますわ。 こちらに来てから、色々と驚くこともあるのではなくて?」
「そうですね。日本はわりと他人種に寛容な国ですが、地元は香港ほど雑然と混ざってはいなかったので」
「日本と言えば、妖怪の国、ですわね」
「よく言われますが、個人的には付喪神の国なんですよね」
「ツクモ……というと、器物の?」
「ええ。実は世界一ゴーレム系が多い国なんですよ――」
古来のゴーレムは泥人形であり、術者の意のままに動くそれであったが、第二次世界大戦後しばらくして、機械技術を用いたゴーレムが製造された。
そして、とあるチップが、何かのバグでもあったのか、意思を宿してしまった。
"最初の彼女"は、自己を別のチップに複製し、気付いた時には"大家族"になっていたとかそんな逸話もあるが。
ともあれ紆余曲折があって"彼女"はきちんとした機械の体を与えられ、繁殖に関する――自己の複製に関する制約こそ課せられたものの、"家族"も全員それぞれの身体が与えられ、42の氏族を作って主にアメリカに拡散。
通常の生物と"繁殖"したい場合は、自己を複製した後、配偶者の人格データを添加したデータをチップに込め、自ら考え出すことを待つのだというが、構造上"単為生殖"も可能であるため、制限があっても人口増加速度は早い。
それが生命なのか……と言われれば諸説あるが、日本では付喪神の一種と考えられ、いち早く人権が認められた(そのことは学校でも習った)。
産まれた当初に色々とあって、生命の定義云々を毛嫌いするようになったのはご愛敬と言うか、なんというかだが。
10年ほど前にアメリカより日本の方がゴーレム人口が多くなったとは聞いている。
日本原産の付喪神と合わせれば、世界一ゴーレム系が多い国の完成だ。
何らかの形で大量に電気を必要とする種族であるため、イマイチ外周部への送電が安定しない香港では滅多に見ない種族だ。
「――学校でも、ゴーレム系のクラスメートが3人くらいいましたからね」
「そうなのですか。……お隣の国ですけれど、実は日本には行ったことがなくて。レイは何度か行っているのですけれど」
「隣と言っても飛行機を使う場所ですし、張さんも忙しそうですからね」
「ええ、いつも忙しそうにしていて。最近は娘に身長を抜かれて不機嫌なことも多いのです」
張さん涙拭けよ。
「女の子は成長が早いって言いますからね。張さんも、ハーフとは言え妖精系ですし、ある程度はやっぱり仕方ないんですかね」
「小さいころの方が可愛かった……なんて。ふふふ❤ 今でもかわいいし、レイはずーっと可愛いのですけれどね?」
「男の子には可愛いはやめてあげてください」
「そういうところが、かわいいのですけれどね?」
「張さんも形無しですね。……まあ、一度日本に来てみてください。香港の賑やかさには及ばないですし、人の種類では、やはり香港には負けるでしょうがね――」
日本はなんだかんだ言って、異人と認められているのは人口の3割ほど――純人間が3割以下の香港には負けるというものだ(俺は一応、種別としては純人間だ)。
「――というか、香港がおかしいだけですね。さっきは雪女まで見ましたよ」
「あらあら……」
と、言ったところで。
「――おい、それは本当か」
張さんの、声を聞いた。
電話が終わったのか、いつの間にか近づいてきていた。
「……あっ、嫌な予感しかしねぇ……」
「なんだ、オマエもか。オレも嫌な予感しかせん。――すまない、エリザ。仕事が入った」
「ええ。それでは……家で暖かいものを作って、待っていますわ」
「シチューがいいな。今人を呼ぶから、ここで待っていてくれ」
そのあたりで目線をそらしておく――ちゅ、と音が聞こえて、仲睦まじいことで、などと思ったり。
見た目はほとんど親子だが。
ややあって、小さな手に腕を握られ、引っ張られる。
「――おい。"シルバーロッド"。オマエには聞きたいことがある。抵抗は無意味だ。洗いざらい吐けついてこい」
「言われずとも」
手を軽く振って払い、張さんについて歩く。
張さんはケータイを操作して、部下の人だろうか、電話をかけて、
「映画館で嫁が待っているから連れて帰れ。転移できる者は空いているか?」
などと奥さんのことを話しつつ、館内喫茶店に入る。
「お二人様ですか?」
「そうです。奥の方をお願いできますか」
「かしこまりました」
そうして席に着き、コーヒーとサンドイッチをふたつ、と注文し、張さんの連絡が終わるのを待つ。
流石に人が皆無というわけでもないが、今日はきっと店を開けるだけ損だったろう。
細々と連絡をして、張さんはケータイを机に置いた。
それから、頭痛を堪えるように、額をおさえた。
「……雪女と出会ったと言ったな」
「はい」
「どんな女だ。金と青の眼の、スネグーラチカか」
「はい、瞳は青で、その周りが金色の」
「20歳ほどに見える女だったか」
「……そうですね」
「オマエが見たならば、自由ではあったのだろうが……追われている様子だったか?」
「いえ、とくには。散歩気分だったみたいですが」
抑える手が両手になった。
「間違いない……"白雪姫"だ……!」
「しろ、ゆき……って、彼女が!?」
思わず声が大きくなった。
雪姫の中でも特異なる――姫中の姫、最高位の冬精霊!
サンタクロース直系の孫娘――ロシアに名高き冬将軍の、自慢の孫娘!
「超VIPじゃないですかっ……会ったの郊外ですよ、俺!? しかも単独!」
「昨日から外遊に来ていたらしいが、行方不明になっていたっ……誘拐されたのではとオレに連絡が来たが、そうか、単に逃げ出しただけかッ!」
ぐわーっ、と、張さんが頭を抱えて席の上で暴れた。
本当に10歳の子供にしか見えないが、これでも38歳のマフィアの幹部である。
疲れたのか、ぜぇぜぇと息を荒げ、お冷を飲み下し、息を落ち着けるよう一息。
穏やかな笑顔になり、言った。
「――もうボクわかんない。おとなのひとにおねがいしたいなー」
「逃がさねえぞ厄ネタだけ話しやがってクソが」
「おい、放せ、オレは嫁と映画を見る! 愉快な仲間たちがスクリーンでオレを待っているんだ放せファックッ!」
見た目だけは天使のような、クソみたいな大人である。
逃げようとする手を掴み、抑え込む。
店の外を見ると、奥さんがひらひらと手を振っていた。
その隣では、ローブを羽織った女性が足元に魔法陣――簡易転移陣だろうか――を描いている。
張さんはそれに手を振り返し、そして言った。
「……ともあれだ。傷一つなく捕えて、政庁にダンクしろ。この雪でオレのところも手が回らん。頼めるか」
「いいですよ。どうせヒマですからね」
「そうだろうと思ったぞ。この時間に1人だったからな。……オレは事務所に行く。見かけた付近で"白雪姫"を探せ。見かけたのはどこだ?」
「ウチの島から本島渡ってすぐです」
「なるほど。あのあたりか……可能な限りウチも人員は出す。もしオマエが一番に確保できたならば、映画のチケットでもディスティニーランド回数券でも金でも女でも、用意してやる」
「……女だけは間に合ってますんで、いいです」
「そうか。ではな。GoodLuck」
張さんはやってきたコーヒーを一気飲みし、店の外へと出て、奥さんを送ったのであろう転移術士に話しかける――
「――あっあの人コーヒー代」
悪党め。と思いつつ、続けてやって来たサンドイッチを、張さんの分まで含めて食う。
まずは、腹ごしらえだ。
/
―― 一方そのころ。後で師匠に聞いたのだが。
「拾ってくれて――そして案内をありがとう、銀。一度、噂の"九龍背城"には行ってみたかったんだよ」
「なんの。わしとおぬしの仲であろうが。わしの用のついでであるしの。……香港に来ておったなら言うてくれればよいものを。水臭い」
「昔のように、海を凍らせて来るわけにもいかなかったからね。漂い降り舞うのは得意でも、飛ぶのは得意じゃないんだ。落ちたら大変だよ、ここ」
「まあ多少面倒じゃの……しかし、相変わらず、得意苦手のはっきりしたやつじゃのー」
「精霊なんてそんなものさ。……ところで君、マウス君? 大丈夫かい?」
「へへへへへへひきれすすすすす」
「うん、震えで言葉になってないね! すまないね、凍気は抑えているつもりなんだが……」
「おっおおおおきづづづかいななななくくく」
「凍死するでないぞ! カーカカカ!」
……というような。会話が、あったらしい。クソが。