エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜





「ふぅ。」


 今朝の晴彦さんも、かっこよかったなあ。


 ガタンゴトン。


 んん~。昨日頑張りすぎちゃって、変な筋肉が突っ張っちゃったのかな? ヘンなところが痛かった。だからストレッチを中心にしながら、ちゃんと腰の動きを意識して強化してみた。ダンスとか、陸上のトレーニングで腰を強化するのがあったから、部屋でもできるものを取り入れてみた。

 お尻だけ床につけて踵をつけないようにしながら、体を捻って後ろに動く運動とか、括れから腰にかけていい刺激になった。

 月曜日だから母さんがお弁当作ってたんだけど、久しぶりにバトルして半分だけボクに作らせてもらった。


「ううん。」


 やっぱり英語の小テストのために電車で見直すのって、非効率だなあ。少なくともボクには合わないよ。関係ないことばっかり考えちゃう。

 ああ、やめやめ!

 どうせ昨日までに5回も見直して、少なくとも範囲の部分は全部覚えきったの確認したじゃん。今更不安になってもどうしようもないよ。


「はあ。」


 でもそうなると途端に手持ち無沙汰になって、どうしたらいいかわからなくなる。

 いつも見てる風景。晴彦にとっては目新しい。いつもと逆方向なのに、懐かしい。


 そういえばボクはカバン派だけど、可愛いリュックを背負ってる子も多いよね。あれって痴漢対策なんだって。晴彦は知らなくてさ。ホームでゆるゆるな長さのストラップにしてる子を見かけて、結菜も入学前にどうするか悩んだなあ。結局、生徒手帳を見たらカバンの方が正式っぽかったから、容量多めのスクールバッグにしたんだけど。


 あ、ボクはブラウスを着崩したりはしてないよ? リボンも長さピッタリだし。さすがにスカートは少し巻くって短くしてるけど、クラスでも長い方だし。

 何より晴彦が恥ずかしいしね。元々の着こなしが清楚な感じで良かったよ。事故の後に急にスカート伸ばし始めたら、何かあったんじゃないかって思われちゃっただろうし。女子って、そういうところは目敏いからね。

 そういえば、爪一つとっても大変なんだ。たかが爪と侮れないよ、何種類も塗るんだから。しかもテカテカするのはNG。一発アウトだもん。お化粧だって、生の肌を生かしたナチュラルメイクを日々研究だよー。


 でも今のボクって、きっと普通の女子より無防備だから。ガードが緩くなってるって思う。たぶんきっとそう。でも、男性の視線を感じると、身体がゾワってするのは土曜日に病院に行く時からわかってた。平日になって、朝早いからそこまで人もいないけど、駅に着いてから何度も鳥肌になって、ちょっと寒気がする。気を付けないと。痴漢とか絶対にヤだし。


 とかなんとか思ってるうちに最寄り駅について、後は10分くらい歩くだけ。

 周りにも同じ高校に向かう学生服が増えていく。

 あ、途中のコンビニでジャンプを立ち読みしてる。男子ってそういうこと出来るからいいなあ。昔は晴彦もやってたっけ。


 女の子って難しい。可愛いポイントを押さえないと、スタートラインにさえ立てない。その上で、少し外して個性だっていうんだけど、正直晴彦じゃわからない。だから結菜の記憶に頼ることになるんだけど、これから新しく入ってくるトレンドとか情報に晴彦が対応出来ないといけない。それは結菜の感性に任せっきりにできない。

 判断や経験を伴わない感性は、大体滑るっていうのが相場だよね。


 んー、なんだかんだ結菜の記憶をたよりに歩いてみたらあっさり着いちゃって、なんだか物足りないような、ホッとしたような気分。


「おっはよー! ゆいっ。」

「あ、初香! おはよ。」


 ボクの下駄箱はどこかなって記憶を頼りに探してたら、初香がやってきた。

 ボクは髪の毛を伸ばしてるけど、初香はショートボブで少し茶色に染めてるから、元気いっぱいなのが良くわかる。カーディガンは腰に結んであるし、ボクよりスカートが短い。しかも校則が緩いから、他校の可愛いスカートを履いてきてる。プリーツが細かい。

 朝からボクのテンションも急上昇だよね。


「もう大丈夫なの?」


 初香は苗字が板楠だから、希埼の下駄箱の隣だ。


「ん? ボクはケガとかもしてないし、大丈夫だよ?」

「そっか。」


 ふーん。っていう割に、初香はボクの方をちらちら見て、ちょっと心配そう。たぶん、週末のボクが割と素っ気なかったからだと思う。

 ズキって、心が苦しくなった。


「ていうか、初香のそれ、新しいスカート?」

「あ~。気づいた? 前まで緑のチェックが入ったのだったけど、これ、見つけたんだ。赤の細いラインが3本のチェックなんだ。ベースが紺より赤寄りだから、そこまで派手じゃないでしょ? どうどう?」

「うん。初香、似合ってると思うよ。……ボクもスカートとか変えた方が良いのかな。」

「どうだろ? ゆいは黒髪ロングだし、清楚系だからむしろ着崩さない方が良いって私は思うけど。メークはむしろパッチリ系? だし? それならもうちょっとかわいい系でもいいのかな。話してると私よりテンション高いじゃんって思うよね。ボクって言うし。でも清楚系なのはズルくない?」


 あれ、いつの間にか話が脱線してる。


「え? そうかな。ボクは初香みたいにショートボブにして染めても似合わないと思うよ? だから染めてないっていうか、染められないっていうか。」

「そう?」

「そうそう。」


 ともかくボクたちは雑誌のファッションって正直流行ってるのかなとか、朝一の英語の試験についてほとんど意味ないような予想を立ててみたり、そういうことを話しながら教室に向かった。


「あ、結菜。それと初香もおはよう。」

「「おはよー。麗。」」


 教室にはすでに麗が来てて、単語帳とにらめっこをしてた。

 麗はボクより短めの黒髪ロングで、初香ほどじゃないけど着崩してる。


「ってゆーか麗、それとってなんでよ。」

「待って、今、このページだけ覚えて……で、なんだっけ?」

「そ・れ・とっ! むしろ私メインでしょ!」

「え、それってそんなに重要? というか、ゆいから教室に入ったよね……? 待って、あ、ああもう。初香の所為で今覚えたとこ、忘れちゃったじゃない。」

「忘れたことは覚えてるんだ。」


 さっきから、ずっと、心が痛い。


「もうっ、結菜も意地悪言わないでよ。私、英語ヤバいんだから。」

「あ、それ。私も英語ヤバい。」

「ボクは大丈夫。」

「ホントゆいはイイ性格してるよね。私らがどんだけ心配したか……そのせいで勉強にも手が付かず、結果こうして英単語のテストで上手くいかず、補習コースに入るんだ!」

「んー。どうしてすでに補習が決まってるみたいなこと言うかな? というか、初香が週末にテスト勉強しないのはいつものことだよね?」

「ひどっ。」


 結菜の日常に入っていくほど、後ろめたい気持ちが増えていく。

 ボクは、ちゃんとすまし顔を作れてるのかな。


「ちょっと二人とも! 私の机の周りで話さないでよ。ああ。単語がどんどん忘れてくー。」

「単語は忘れないよ?」

「私も、結菜を心配してたの、早まったかなあって思ったよね。」

「そもそも、ボクはみんなに心配しなくても大丈夫って送ったじゃん。」


 そんな感じで話してたら、また一人、教室に誰か来た。

 奈緒だった。奈緒もやっぱり単語帳とにらめっこをしながら、半開きのドアに突撃した。


 ごつん。


「あてっ――、ててて。」

「ぷっ。なにやってんの奈緒ー。」

「いったーい。あ、ゆいと麗おはよう。それと初香もおはよー。」


 奈緒はちょっと天然だ。というかちょっとでも集中すると、それ以外が疎かになっちゃうんだ。


「「おはよう。」」

「なあ、なんで奈緒も『それと』なんだよ。」

「んー? どうしたの?」

「ううん。何でもないよ、奈緒。」

「そうなの? ゆい――あ、そうだ。ゆい、もう大丈夫なの?」

「事故のこと? なら大丈夫。ボクはケガとかなかったし。」

「そっか、そんなに大きな事故じゃなかったんだ。」

「うんうん。大丈夫だよー。」

「って、奈緒も結菜も、初香も! 私の机の周りに集まらないでよー。私の点数が逃げてくじゃん!」

「だから麗の浅漬けじゃどっちみち私と一緒に補習コースだから安心して撃沈しようよ。」

「やだ。まきこむなー!」

「あ、じゃあ私は自分の席で勉強するから。麗も初香も、頑張って。」

「ボクはもう少し初香を弄ってよー。」

「弄るってなんだよ!? ゆいは英単語のテスト大丈夫なのかよ。」

「今更見直さなくても大丈夫だよ。」


 だってボクは、それどころじゃなかった。ボクの中で二つの大きな感情が渦巻いてる。

 ボクは、もう結菜じゃなかった。晴彦にとっては、どこか他人事みたいな感覚なんだ。


 裏切ってる様な気分だった。最悪だ。


 しかもそれだけじゃない。

 ボクは自分がこんなにも薄情だなんて知りたくなかった。 

 ボクは、こんなふうにみんなと会話している間に、いつの間にか晴彦さんを天秤にかけてた。ボクは、晴彦さんと付き合っていたかったら、今の高校生活を壊してしまうのがわかってた。

 一年以内に妊娠するつもりなら、高校を辞めないといけない。休学っていう形をとるにしても、どっちにしたって今と同じ形で初香たちと一緒にいることは出来ない。


 みんなと一緒にいたいって思う一方で、晴彦さんとも一緒になりたい。そのために晴彦はどちらかを諦めないといけない。

 普通の16歳にそんなことは決められないと思う。将来がわからないから。

 でも、晴彦は入社までの成功体験があるから。だから、ここで進路を振り切っても特に問題ないって判断できちゃう。


 ガツンって頭を殴られたような気がした。

 基本的にボクは感情のベースが子供なんだ。それを忘れてた。なまじ意識が晴彦を基にしているから、子供の我がままみたいなメチャクチャな命令を、実現可能な範囲に落とし込めることが出来ちゃう。

 これをしたい。こうすればいい。

 これはどうかな。こうするとできるよ。

 ボクは、本質的なところで自分自身がわかってなかった。


 発案・決断:16歳

 ↓

 企画・運営:36歳


 うん。完璧な布陣だよ。これじゃあ結菜が思ったことは大体全部、実現可能な範囲で脳内プレゼンが一瞬で終わって、結局発案の思うとおりになんでもやっちゃう図式が出来てる。外部からのフィードバックがほとんどないんだ。イケイケどんどんなのは目に見えてるじゃん。


 だから、ボクは、みんなを切り捨てられる。

 結菜が離れ離れになることへ恐怖を抱いても、いつか会った時に昔に戻れるよって、晴彦が説得する。

 ここで迷って、たくさんの人を巻き込んで、言うことを二転三転させることの方がずっと、罪深い。ならいっそ、すっぱり決めちゃった方がマシな結果になる。


 そんなふうに結菜は説得されちゃったんだ。

 ボクは、ボクがこんなにも薄情なんだって気づいちゃった。


 だけど、それくらいボクは晴彦さんのことが好きになっちゃった。

 魂が混ざって、晴彦さんのことが全部結菜に伝わって、しかも運命が交錯してるから、ボクは反則的に晴彦さんのことを好きになっていく。

 自分自身だからこそ分かる。晴彦さんが一番怖いのは、幸福からの転落だ。傷つくのが怖いんだ。だって、ちょっと前までは、ボクがそうだったんだから。だから、いっそのこと幸せにならなければ傷つくこともない。そんな、子供じみたことを考えてる。

 怖がってる。

 でも、子供と違って、感情の起伏が激しいなんてことが無いから、幸せを避けて傷つくことが無くて良かっただなんて、もっと自分を苦しめてる。

 ボクは、どうしたら彼の心を預けてもらえるようになるんだろう。

 そんなことを考えてる。


 ボクは、結菜の意識について後ろめたかったんじゃなかったっけ。

 もっと考えないといけないんじゃないか。

 そのくせ、なんだかんだ言って晴彦だって、結菜みたいな可愛い女子高生と付き合えたら良かったのになあ、なんて考えて、悩んだフリをしてるみたいにして、やっぱり結菜を応援してるじゃん。


 そういう二面性って、晴彦さんのことだけ考えていればよかった週末には気づいてなかったよね。

 今、ボクは見た目よりずっと動揺してる。


 そんなふうに考えてるくせして、あっさり小テストで満点を取ってたりして。 

 もうヤダ。



    *** ***



 俺に、彼女が出来た。

 久しぶりに、出来た。

 ヘンな気分だった。なにせ、他人に話せない。

 だって、16のJKだ。高校2年生だ。どう言い訳をすればいい?


「クソ。」


 痛ってえなあ。おかげで目が覚めてくよ畜生。

 今日から一週間は、朝10時までに来れればいいって言われてるが、それもいつもと同じようにやって遅れる分を考えての話だろ? ああ、クソ。どっちにしろもう起きないとダメじゃねえか。


 ピンポーン。


 ああ? こんな朝から誰だ?


 カチャ。ギイッ。


「おはようございまーす。晴彦さん起きてますかー?」


 朝から元気だね俺の彼女は。……なんて気取って現実逃避してる場合か?

 何やらガサゴソと音がするから、、、昨日まとめたゴミでも持って行ってくれるのかね。

 ありがたいことだ。


 コンコン――キイッ。


「あ、やっぱりまだ寝てたんですね? 朝ごはん、昨日の残りですけど温めておきますから、目が覚めたら食べてくださいね?」

「え、ああ。」

「それと、ボクは昨日まとめたごみの内、今日が出す日の分を持っていきますから。晴彦さんは無理しないで大丈夫ですよ?」

「わかった……すまんな。」

「ヤだなあ、晴彦さん。ボクは晴彦さんの彼女なんだから、気にしないでくださいね。」


 やっぱ結菜、いい嫁になるよ。


「あ、そうだ。」

「ん?」

「ぎゅって、して……いい?」

「お――おお。」


 言うが早いか。結菜は俺の右手が痛くならないように気を付けて、首に腕を回して優しく左から抱き着いてきた。メチャクチャいい匂いがした。


「10分だけ、このまま。」

「ああ。そう。」

「低温でレンジを動かしてるので、どっちにしろ10分くらい温めが必要なんですけど。」

「ああ……そう。」


 嗅がれてる。耳元でクンクンって音がするから絶対。

 こんなオッサンの匂い嗅いで、嬉しいのか?


 ぼーっとした時間が過ぎていく。

 朝の起き抜けのむくみが原因の、腕と脚の鈍い痛みが引いていく。

 代わりに心臓が早鐘を打っていく。

 こんなおじさんの動悸を早めて、どうしたいのかね。

 本当に10分も抱き着いてるつもりなのか。


 俺も怖々結菜の背中に手を回してみた。

 瞬間、ビクッと反応して、少しだけ首に回った腕に力が籠る。

 俺に当たってるおっぱいが、その分だけ余計に潰れて主張する。

 耳許で、小さく笑う。「えへへ。」じゃねえよ可愛いな畜生。

 俺は結菜の背中に手を置いただけだぞ?


「晴彦さん。。。おはようございます。」


 抱き着いた腕を解いて、至近距離で可愛い。なにせ、慣れてないのかメチャクチャ赤い顔だ。

 このままキスしたい。

 そしたら怒られるかね? 雰囲気もへったくれもないって。


 だなんて阿呆みたいなこと考えてたら、ふっと行ってしまう。


「えへへ。じゃあ、ボクは先に行きますね。本当は晴彦さんのお着替えも手伝いたかったんですけど、このままだと遅れちゃうから。」

「十分だ。ありがとう。」

「こっちこそ。晴彦さん。行ってきます。」

「あ、ああ。行ってらっしゃい。」


 ドキッとした。その笑顔に。

 もうずっと言ってなかった言葉に。

 結菜に。


 ――チン。


「――あ。ご飯だけ、ダイニングにおいて行きますから、冷めないうちに食べてくださいね? それとも、ダイニングまでボクが支えた方が良いですか?」


 こんなセンチな気分は初めてだな。悪くない。が、ガラじゃない、か。

 ケガ治ったら、また絞るか。少しくらい。


「一人で大丈夫だ。結菜は遅刻しないように行ってこい。」

「うんっ。じゃあ、ゴミだけ持っていきます。」


 口調は元気いっぱいなのに、仕草は煩くない。

 寝ぼけてる時に騒がしいと鬱陶しいハズなのに、目覚めが良くなった。

 姿勢とか動作に落ち着きがあるからだろうなあ。

 やっぱいい嫁になるよなあ。

 言いくるめられてカギ渡してたが、もう金取られてもいいって感じだ。


 さあ俺も朝ごはん食って行くか。


「よっこらせーの、どっこいしょ。」


 ――ビックリした。

 朝飯だけが、並んでるかと思ってた。

 ダイニングテーブルに朝飯と、弁当。深い紺一色の包に、カードが差し込まれてて『タッパーを一つ借りました。たくさん食べてくださいね♡ 結菜』なんて書いてあった。なんの配慮なんだか。タッパーなんて100円じゃねえか。

 部屋に合った一番デカいのを持って行ったんだな。偶に炊いたご飯を保存しておくために、いくつか買っておいたヤツだ。ああ? 確か3つで100円のじゃねえか?

 盗まれたって文句も言わねえよ。

 でも、昨日こっそり持ち帰って、今日弁当にしてくれたのか。


 本当に、結菜はいい嫁になるよなあ。


 なんで俺なんかと付き合いたいのかね。

 どうせそのうち飽きてどっかに行くだろ。

 ま、昨日フェラしてもらっただけでも儲けものだろ。


「旨いんだよなあ……。」


 レンチンしただけの昨日の残りなのに。



    *** ***



「ああ、望月くんは勤勉だねえ。」

「寺田課長。まあ、見た目ほどひどくはないですから。」


 通勤は散々だった。上りだったから、まず、電車に乗れねえ。俺も大概デカいが、そんな奴がえっちらおっちら松葉杖ついてくるんだ。迷惑でしかない。

 だから結構遅れるかと思って、いつもよりは気持ち早めに出たつもりが、なぜか運良くいつも通り来ることが出来た。

 久しぶりに幸先が良い。

 ま、骨は折れてるわけだが。


「そうなの? ギプスもしてるし、入院したって聞いたから、ひと月くらい来れなくなるかもって思ってたけど、そうでもないんだ。」

「そんなもんですよ。」


「おー? 望月いるかー?」


 とかなんとか話してたら事情も知らないバカが、朝から仕事を押し付けてきた。


「これ、昼からの会議での資料だから印刷……何その腕、と足? 折ったの? やめてくれよな~。こっちの仕事が遅れるだろ? ……はぁ。寺田課長、すんません。コピーお願いできます?」

「やっとくよ。」

「さっすが雑務課っすね。じゃ、お願いします。」


 舐め切ったやつだった。寺田課長でさえ明らかに格下扱いしてる。


「うーん。いつも望月君が完璧にやってくれるからなあ。久しぶりに僕がやったら、イチャモン付けられちゃうかな?」

「大丈夫じゃないですか?」

「そうかい? どっちでもいいか。じゃあ、ぼちぼち今日も働こうか。」

「そうですね。ああ、俺はこんなんなんで、デスクワーク中心でお願いしますよ?」


 これでひと月くらい仕事も楽できるなあ、なんて思ってたら、パーテーションの向こうが少し騒がしい。


「望月、というのは君か?」


 そこにいたのはマーケティング部の部長。

 どうも今日はお客さんが多い日っぽいね。

 というか、俺に何の用なんだろう。





~to be continued~