〜分析結果サンプル〜
日曜日。
いつも通り5時に起きて、体操して、お掃除して、勉強して、ご飯を食べて。
そして、病室に着いた。
そういえば、今日も今日とて、母さんはニヤニヤしてた。オシャレしてないように見えて、実は気を使いまくってる服装なのは、女性目線でバレバレだからだ。
まったくもう。
病室に着いたとき、晴彦さんはちょうど着替えが終わったところだったみたい。
昨日持ってきた洋服の内、ジーンズが履きづらそうだって思ってたんだけど、普段着だとそれしかなかったんだよね。10年の間に、オシャレする気が失せちゃったからなー。
「おはよう、ございます。」
ボクの視線は晴彦さんのアソコをチラ見してしまう。
でっかい、凶悪なおちんちんっ。それをジーンズの上から想像してしまう。
うーあー!
ダメだ、こんな想像ばっかりしてたらまるっきり厭らしい女の子みたいじゃないか!
「あー。おはよう。」
晴彦さんは、昨日、ボクにAVを見られたショックから立ち直ったのか、至って朗らかな顔だ。
荷物もまとめてあって、後は出発するだけ、みたいな状態だ。
「そういえば、もう退院なんですね。」
「そうだね。でも明日からまた、会社だし。」
「もっとちゃんと休んでからでも良いって思うんですけど。」
「仕方ないよ。」
「あ、そうです。晴彦さんのご両親はなんて?」
「え、ああ。昨日結菜ちゃんが帰ってから電話したんだけど、結菜ちゃんも来るらしいし、知り合いが助けてくれるからって、言ったら、じゃあ来週末まで大丈夫よねとか何とか言ってて。」
「来週の日曜日に会いに来るんですね?」
「うん。そう。」
「良かった。」
「え、うん、そう、かな?」
「そうですよ。それくらいのケガだからって言われて、放置されたわけじゃないですから。」
「うーん。まあ、来なくても。」
「ダメです!」
「う、はい。」
ふふ。
かわいい。
なでなでしたくなっちゃいます。でも、ボクじゃちょっと身長が足りない、かなあ。
うーん。晴彦さん、おっきいなあ。ボクだって身長160センチくらいあるのに、晴彦さんってば180センチ以上だもん。
ちょっと、、、遠いなあ。
「じゃあ、ちょっと早いけど、行こうか?」
「はい。」
そう言って、ボクは晴彦さんの荷物をひったくる。だって、晴彦さんてば、まとめた荷物を自分で持とうとするんだもん。
あ、晴彦さんの汗のにおい。やっぱり服を新しくしても、肌に残った汗のにおいはどうしようもないね。
どうしようもないのは、それを嗅いでるボクが、むしろもっと嗅いでいたいって思っちゃってることかな?
スンスン。って、そうじゃなくって。
「疲れたら、ボクを杖代わりに寄りかかってください、ね?」
「え!? いやいや! それはダメだよ ――っつつ!」
「ほらっ、言わんこっちゃないです。右側に体重を掛けたら悪化しますよ? 昨日、一日しかリハビリしてないんですよね?」
「え、あ、うん。でも、だから、松葉杖の使い方とか、わかってるんだけど。」
「なおさらです。昨日一日松葉杖の練習をしたなら分かるはずです。左の腋とか二の腕が擦れて、それも結構痛いんじゃないですか?」
「う。」
「ほら。だから、疲れた時は、ボクの肩に手を置いて、杖代わりに休憩してくださいねっ。」
「で、でも。」
「ほらほら、こんなところに晴彦さんの右手を置いておくのに、ちょうどいい高さの肩がありますよ~。」
「……結菜ちゃん、結構強引になったんだね。」
「怪我人が、遠慮するのがいけないんです。」
「……いいの?」
「はい。大丈夫ですよ?」
にっこり。
「じゃあ。カウンターでお金払う時とか、エレベーターでちょっと立ってなきゃいけないときとか、よろしくね? ああ、でも俺、結構太ってるから、どれくらい重いか試しておく?」
「はいっ。どんとこいです。」
「じゃあ。」
ズシッ。――う。
これは、重い。
伊達に、3倍差があるわけじゃない。
「ほ、ほら、やっぱり重いって。」
「大丈夫です。晴彦さんだから。」
「そ、そう、なんだ。」
*** ***
病院に料金の支払いを済ませたあと、晴彦さんに言いくるめられて、タクシーで晴彦さんのマンションに帰ってきた。やっぱり歩くのが大変みたい。なんでも最初の1週間だけは大事を取って、体重の1/2~2/3以上かけないようにしなくちゃいけないらしい。ギプスも足の方は2週間で取れるけど、腕の方はもっとかかるみたい。
「よい……しょ。やっぱり、タクシー使って正解だったでしょ?」
晴彦さんは疲れたとばかりに、ダイニングの席に着いた。……そういえば、このテーブルだって元カノと同棲する前に先走って買ったのが、そのままだったっけ。
なんかフクザツ。
はぁ。
あ、そうだ。ボクはもうあんまり暑く感じてないんだけど、っていうかちょっと肌寒くなってきたかなって感じなんだけど、晴彦さんは暑がりだっけ? って思って、クーラーをつけてリモコンを晴彦さんに渡した。
なんだかんだボクも少しだけ汗ばんでた。晴彦さんがおっきいから、マンションの狭い通路で苦労して、ときどき肩を貸したせいだ。パタパタ。
「……明日からは、タクシーも使っていられないんですよね?」
「それが問題なんだよなあ。」
「です、か。」
「でもさ、足の腫れも退いてるから、一日ごとに歩けるようになって行くハズだし。大丈夫だよ。」
「そうですけど。」
早く良くなって欲しい。
歩いたりすると痛みがときどき走るみたいで、ちょくちょく顔をしかめてた。
なんでかボクが、もどかしい気分。
「えーっと、そこら辺にお茶っ葉があったハズだから……よっこいs、」
「ああ! 座っててください! ボクがやりますから。」
「そんな、悪いよ。」
中腰だと余計辛いですって、早く座ってくださいってば。
「大丈夫です! 昨日だって来たんですよ? 言ってくれれば場所くらいわかりますって。」
「うん。……はあ。」
晴彦さんはちょっと落ち込んでる。たぶん、ケガしたこととか、世話をかけてることとか、後は部屋が散らかってることとかかな?
まあまあ、そもそもここはボクの部屋だったんだから、どうなってるかなんて、当然知ってるし、晴彦さんが言ってるお茶っ葉だって、最初からどこにあるかも知ってる。このマンションは、ちょうど会社から近いところを探してたら、掘り出し物件として見つけた安い割に広いけど、ちょっと年季が入ってるところだったっけ。ちょうど入社して2年が過ぎたくらいの頃、実家暮らしもそろそろ止めにしようかって思って探した物件だったっけ。そう思うと懐かしくなる。内装だけは10年ちょっと前の時の、今風だ。
とはいえ、ボクがこの部屋に来たのは、まだ2回目なんだから、晴彦さんの指示で茶葉と急須と、あとお湯を用意する。
ちなみにAVは、晴彦さんがテーブルに座るときのどさくさに紛れてテレビ台の上に置いた。昨日、スマホとかを取りに行ったとき、テレビの前のローテーブルの上に並べてあったものは、全部まとめてテレビ台の端っこの方に重ねておいた。
ふぅ。一服。
ときどき実家から荷物が届いたかと思えば、貰ったお茶っ葉が古くなる前に処分したいのか何なのか、だいたいは同じ銘柄の茶葉のことが多い。
一応、心配されてたんだろうなぁ。
「これから、どうします?」
「どう、するって?」
「お昼ご飯です。」
ボクはここの冷蔵庫に、まともな食材が残ってないのを知ってる。だって、土曜日に買いに行けばいいや、って思ってたから。
そのことに晴彦さんだって、すぐ気づく。
「あ……冷蔵庫に、何もない。」
「じゃあ、買ってきますよ。」
「えっ。」
「悪いよ、とか、気を遣わなくてもいいみたいなことは言わないでくださいね? これはボクのお節介なんです。……むしろ、お節介なボクは嫌いですか?」
こういえば、よほど嫌われてない限りはオッケーって言うよね?
「わかった。……でも、お金は出すから。」
晴彦さんが慣れない左手だけで、お財布の中をゴソゴソ漁って、5000円を渡してきた。
透かさずボクは、使ってなかった空のお財布にいそいそ仕舞う。
名付けて新妻ごっこだ。生活費を貰った体です。
えへへ。
「うん。行ってきます。――あ、そうだ。これで今週分の食材も買ってきた方が良いですか?」
「え、あ。あーどう、だろう。……俺、こんな腕じゃ料理もできないし、コンビニで何か買って食べるよ。」
痛そうな右手。足の方は、ヒビだけだったらしいけど、腕の方は割とポッキリ折れちゃってて、ひと月くらいはギプスもとれないっていう話だった。そのあとも、しっかり骨がくっついて回復するまで、早くて2週間くらいかかるっていう話だから。少なくともひと月は不自由なまま。
「あ、あの。」
それは、咄嗟に口を突いて出てきた一言。
「ごはん。ボクが作りに来たら、ダメ、ですか?」
「え……。」
沈黙が流れた。
ちょっと、気まずい。
そして、最初に口を開いたのは、晴彦さんだった。
「なん、で?」
「だって、晴彦さんのご両親だって、少なくとも来週末まで来ないんですよね? その間、足も腕も不自由な晴彦さんを、誰かが助けたっていいじゃないですか。」
「それは結菜ちゃんじゃなくてもいいよね?」
「う。」
「それに、これでもニートしてる友達だっているんだ。連絡さえすれば、澤田のバカが飛んできてくれるさ。アイツの家はここからだって近いんだし。」
「だ、ダメですっ!」
あっ。
つい、言っちゃった。
もういいや、言っちゃえ。
「ボクが、ボクが晴彦さんのことをお世話したいんです! 知ってます!? 晴彦さんにボクの命を助けられたの、2回目なんですよ? どうやってその恩を返したらいいんですか!? 今回なんて晴彦さんが怪我を負っちゃって、、、身体を張ってくれたんですよ? ボクだって、少なくとも晴彦さんが不自由じゃなくなるまでは、身体を張って恩を返すしかないじゃないですか。他に、どうやって恩を返していったらいいんですか?」
ふー、ふー。
息も荒い。凄く捲し立ててた。
気づいたら、ほとんどキスの距離で力説してた。
っていうか恥ずかしい。
でも、そういう空気じゃないし。
早く、何か言ってよ。
「返さなきゃ、いけないものなのかな?」
かぁーって、顔が赤くなった。
なんで、そんなこと言うの?
そんなにボクのことが嫌いなの?
そう思ったら、涙が出そうになった。
それが見られたくなくて、ボクは下を向いた。
「お、お節介なボク、は、キライ、なの?」
半分くらい鼻声。
でも、拒絶されて、こんなにも悲しい。
なんで?
あ。ボクって、今、メンドクサイ女の子になってる。
自分の要求ばっかり言って、それが叶わないと駄々を捏ねるみたいな涙声。
自分勝手の典型。
きっと晴彦さんだって嫌そうな顔をしてるに違いないよ。
「待って、今の。。。なし。……なし。ボク、が、晴彦さんの、スン。お世話をしたいから、させて、ください。」
「え、ちょっと、待ってよ。なんでそんな話になるんだ? そもそも! 俺が言ってるのは、結菜ちゃんを助けたのは、、、ある意味俺の気紛れみたいなものだし! だから俺のケガだって俺の自己責任でしょ!? そんなことに結菜ちゃんが気を使う必要はないっていうか。むしろこんなオッサンの部屋に女子高生が一人で来るとか、早苗さんとかの了承は取れてるの!?」
「え、うん。」
たぶん、母さんならニヤニヤしながらいいわよーとか言いそう。
「え!? いいの!? それならむしろこっちがお願いしたって実現しなさそうなプレ――うっとと、じゃなくて! 俺の方が恐縮しそうなほど、、、その、ありがたい話じゃないの?」
「そう、なの?」
「そうそう。」
だから泣かないで。
そんな風に言いたかったのか、ほっぺたに触れた晴彦さんの左手があったかくて、昔みたいだなって思って、ポカポカした。
えへへ。
「じゃあ、やっぱり一週間分、買ってきますね?」
「……お願いするよ。――ああ、そうだ。駐輪場に置いてある自転車も使って。ここ、4階の住人用の場所にある青いのが俺のだから。フレームに部屋番号も貼ってあるからわかると思うんだけど。」
自転車のカギも預かる。
これで買い物も楽になったかな。ボクもいったん家に戻って自分の自転車を取って来ようか考えちゃったし。置き場所どうしようとか。
でも、今の一番の問題は、ほっぺたに添えられてる左手を引きはがさないと買い物に行けないのに、変わらない吸引力なのかな? ボクのほっぺたから離れてくれないぞ。
左手の上にボクの手を添えて、晴彦さんのあったかさを堪能してる所為じゃないハズだ。
*** ***
冷蔵庫に足りないものを考えて、一週間ここに来ることも考えて、スーパーに買い物に行った。
結局、帰ってきたらお昼ちょっとすぎになっちゃったから、スパゲッティを茹でて、間の時間で作ったクリームソースと絡めてみた。ちなみに、薄くスライスしたチキンとキノコ、玉ねぎと、少しだけコンソメを加えてみた。キノコが旬で安かったし美味しそうだったから、このチョイス。
晴彦だったらこんなに手の込んだもの、作らない。なのに今のボクだと、これくらい片手間以下のレベルでしかない。むしろ、ちょっと手抜きのレベルだ。
残った玉ねぎは、コンソメと乾燥パセリでスープにしたし、サラダが欲しいかなって思って、ルッコラを中心に、セルフィーユとか香りと色合いが良い野菜のサラダも作ってみた。トッピングは晴彦さんがおつまみとして買っていたカルパスを刻んだ。ドレッシングは寿司酢があったから、オリーブオイルとマヨネーズ、コショウと刻み玉ねぎ、乾燥パセリを空き瓶に入れてシャカシャカ振ったオリジナル。ちなみに、ルッコラとセルフィーユは母さんが育ててた鉢から摘んできた、採れたてホヤホヤのものだったりする。買うと高いし。
それを晴彦の時の記憶から、これくらい食べるだろうなって計算して、二人分用意した。ボクとしては、こんなに食べるんだ、ってめっちゃ驚いたけど。
「「いただきます。」」
うん。美味しい。さっき味見をした時からわかってたけど、ちゃんと美味しく出来てる。クリームソースの塩分も控えめだし、サラダもシャキシャキ、コンソメスープは味の素様々って感じだった。ただ、スープはやっぱり、少し味が尖ってるから、キャベツとか入れたかったかも。
「……うまい。」
やたっ!
「お粗末様ですー。」
んふふ。
ニヤニヤしちゃう。
やっぱり心を込めて作った料理を美味しいって言ってもらえるのは、いいね。この人のために作ってるんだーっていうのが凄く心地いい。
しかも晴彦さんはたくさん食べてくれるから、ボクもいっぱい眺めてられる。
左腕しか使えてないから、ボクが食べさせてあげようとしたんだけど、慣れないといけないからって頑張って食べてる。そんな姿もいじらしく見えて、でも可愛いしカッコいい。病院では、あーんしてくれたんだけどなー。
「えへへ。」
「――どうかしたか?」
「ううん。何でもない。あ、そうだ、晴彦さん。コーヒーを淹れましょうか?」
「えっ、ああ。場所は――、」
「ふふ、わかります。」
さっき見つけたんですよ、っていうふうを装って。
だって晴彦さん、コーヒー派のくせに、帰ってきて直ぐにお茶を用意しようとしたんだもの。ボクが女の子で、コーヒーが苦手かもしれないからって、気を利かせてくれた。
だけど大丈夫。確かに結菜は苦いのはちょっと苦手だったかもしれないけど、今のボクなら、晴彦さんと一緒にブラックコーヒーを楽しめる、、、ハズ。
焙煎済みのコーヒー豆をエスプレッソ用のミルで曳いて、エスプレッソメーカーの括れたところにセットして、弱火のコンロにかける。
「よく知ってるね。」
――あ。そっか。
つい、晴彦だった時の記憶をなぞってしまったけど、エスプレッソを淹れられる女子高生なんて珍しい生き物以外の何物でもないじゃん。
「――はいっ。料理が好きなので、ついでに色々なことを聞きかじっているんです。」
「へえ。……いい香りだ。」
やば。
正直、コーヒーって淹れ方に人それぞれこだわりが強いから、聞きかじった程度の女子高生がまずいコーヒーを淹れてみようものなら、心証が悪いなんてもんじゃない。
とはいえ、ボクはどのコーヒー豆がエスプレッソ用に買ってあったかを知ってるから、正解なんだけど。というか、たぶん晴彦さんは同じ棚にしまってあるインスタントコーヒーを淹れるんだろうって思ってたんじゃないかな。
ちなみに、晴彦さんがコーヒーに凝ったのは大学生時代の研究室の教授がコーヒーの鬼だったから。インスタントなんて認めない! なんてスタンスだった影響を受けて、コーヒーの淹れ方をマスターするに至った。でも、インスタントだって、さらに手軽だし、そこそこ美味しいものもあるから疲れしだい、気分しだいで飲みたい方を飲んでいた。
「えっと、コーヒー、、、どう、ですか?」
「……うん。おいしい。」
「やたっ。」
わかってたことだけど、心配したし、嬉しい。
ご飯の後のコーヒーブレイク。
ふぅ。
*** ***
「さて、と。」
お昼ご飯の食器洗いも終わった。
「ああ、そろそろ帰る?」
時計はもうそろそろ2時を回る頃だ。
「ううん。まだやることが残ってますよ?」
「……?」
少し眉根を寄せて、考えている。ちょっと、訝しんでいるようにも見える。
「汗を流すことですよ!」
「……は?」
何を想像していたのかな? ボクは美人局とかじゃないですよ?
確かにワイルドな感じの晴彦さんも素敵だけど、結菜の乙女センサーが毎日身体は綺麗にしないとってお花畑なことを考えてる。
「だって、晴彦さん、金曜日からお風呂にも入ってないでしょう? そもそも、骨折とかで明日からお風呂に、ぬるま湯なら入ってもいいって言われたと思いますけど、晴彦さんにはまだ、暑い時期でしょう? 身体とか結構ベタついているんじゃないですか? なのに、左手しか使えないから、背中とか、左腕とか、足だって満足に洗えないじゃないですか。」
「うん? うん、まあ、そうだけど。」
「ここまでお節介しているんです。最後までさせてください。」
晴彦さんは最初、呆気にとられたような顔をして、少し唸るみたいに考えて、でも結局了承してくれた。
*** ***
「準備できました。入っていいですか?」
晴彦さんにはタオルをいっぱい渡して、寝室で服を脱いでもらっていた。
そのあいだ、ボクは洗面器とか、使ってなかったくずかごとかにお湯を溜めて、持ってきた。
「どうぞ。」
「はーい。」
晴彦さんは、タオルを一枚腰に巻いた姿で、ベッドに腰かけて待っていた。三角巾で吊っている右腕と、ルーズソックスみたいな右足が目立つ。
でも、どきどきする。晴彦さんの裸。晴彦さんの裸だ。どうしよう。
うん、どうしようじゃなくって、背中を拭いたりするだけだってば。
あ、そうじゃなくって、ここで固まってたら変な空気になっちゃうじゃん。
「あ、、、じゃあ、汗とか、タオルで拭きますね? 晴彦さんも、右腕とか、自分で拭けるところはやってくださいね。早く済ませないと、冷えちゃいますから。」
「わかった。でも、ありがとう。確かに病院だとお風呂の曜日じゃないとか実質1泊2日みたいな感じだったから、まともに汗も流せてなくて。背中だけでも本当にありがたいよ。」
「いえいえ。」
そうして、晴彦さんの身体を拭いていく。
大きな背中。脂肪が付いちゃってるから、ごつごつはしてないけど、ちょっと絞ったら昔の、千代の富士みたいな凄いタフな感じのおじ様になるんじゃないかな。
うわぁ……カッコいいなあ。
汗がベトついてるから普通は汚いって思うんじゃないかな。でも、なんでか知らないけど、ボクはそう思わなかった。晴彦としても初めて見る背中だったけど、やっぱり元々は自分の背中を拭いているからなのか、嫌悪感が全くない。それどころか結菜の乙女思考が、好きな人に奉仕することへの幸福感でいっぱいで、ボクの頭はそれだけだ。
ゴシゴシこするだけで、ちょっとだけ赤くなって綺麗になっていく背中を見ていると、凄く幸せになる。
痛くないですかって聞いても、痛くないよって、凄く紳士な晴彦さんにきゅんきゅんする。
「背中は終わりましたから、左腕も拭きますね。」
どこかを拭くときは必ず一言告げる。
がっちりした肩から、たぷたぷする二の腕、ずんぐりした前腕、おおきな手のひら。
ふふふ。
ちょっと擽ったかった?
「はい、これで腕もおしまいですね。」
「じゃあ、」
「はい。じゃあ次は足ですね!」
「へ?」
ん?
何をポカンとしてるんですか?
だって、右足は洗えないでしょう? それに、晴彦さんだってジーンズを脱いで待っててくれたじゃないですか。
ボクは晴彦さんが冷えないように、肩にバスタオルをかけて、新しいお湯を持ってきた。
晴彦さんの前に正座をして、左足は足湯みたいにタライに張ったお湯につけ、折れた右足は痛くならないように膝にのせて、指先の汚れとかを拭っていく。
けど、動かすとやっぱり少し痛むのか、顔をチラッと見たらちょっと顰めてて、申し訳なくなる。
ともかく、足の指先は絞ったタオルで拭ったから、後はひざ下から、フトモモ――を?
あれ、なんで晴彦さん、パンツ履いてないんですか?
え、だって、なんで? タオル一枚みたいに見えたけど、それはパンツ一枚だと恥ずかしいからじゃ。
っていうか、え、じゃあボクはずっとほとんど裸の晴彦さんにご奉仕してたってこと!?
それって何プレイ!?
っていうか、落ち着くんだボク!
だってアレはボクだぞ!?
そんな風にボクが一時停止してると怪しまれる。というか晴彦さんはボクが一時停止した時点で気づいてるだろう。なにせパンツまで脱いでたのは晴彦さんだ。
というか晴彦さんもなんでだ!?
何を期待して――あ、そうか。そうだ。
そういえばボクたちって高校時代からの部活の教育で、据え膳は美味しくいただく方針だっけ。
しかも、晴彦さんはずっと紳士的な感じだった。うん。忘れてたよ。あれは、膳が据えられるのをエスコートする時の感じだ。
あはは。
ボクって美味しそうな据え膳だった。
というか、乙女思考で暴走してたけど、普通に一人暮らしの男の人の部屋に入って、服を脱がせるようなことをしているんだから、小娘とはいえ、美味しくいただかれちゃうよね!?
とはいえ晴彦さんも骨折してるし、いきなり襲われるとか、えへ。
えへへ。襲われちゃったら、どうしよう。
AVみたいにメチャクチャになっちゃうのかな。
――じゃない!
なんだこれ! なんでボクには危機感が足りてないんだ! というか恐怖心的なアレはどこ行った!?
ふつう、好きな人が相手だって、襲われそうな状況になったら怖いって思うよ。なんで結菜はこんなポンコツ思考なんだ?
というか、ボクはちょっと危ないとか、晴彦ベースだから恐怖は薄いって言ったってあるじゃん。なんでそれが感情につながらないんだよ!
ドMかよ! って思ったけど、別に結菜は痛めつけられて喜ぶような子じゃないし。
えへへ。
って、痛めつけられても嬉しそうなんだけど、ボク!
もうヤダ。この子。昨日だって、いつか晴彦さんにするかもしれないからって、深夜までAVでセックスの勉強しちゃったし、ネットのいかがわしいサイトで色んなテクニックを調べちゃったし! ボクって物覚えはいいから、すぐ覚えちゃうし!
得意教科かよ!
ピクっ。
あ。
おちんちん。
「どうかした?」
この人、絶対ボクのこと美味しくいただいちゃう気なんだ!
ぅああ。
どうしよう、晴彦さんのおちんちんが、ちょっとだけ、タオルを押し上げてる。
っていうか、ボクがお世話しやすいように晴彦さんの脚の間に座ったのが悪いとはいえ、それでもタオルでスカートになった股間の奥は暗くて見えない。もしくは黒くて見えない。
だけど、タオルを持ち上げ始めた山の部分は、はっきり見えちゃうんだよー!
「え、えええええっと、どどどうもしてないですよよよ?」
ぅわ。
そもそも、太腿だってパンツが覆ってるところまで拭けば良いって思ってたけど、履いてないならどこまで拭けばいいの!?
あ、とりあえず膝までにして、左足に移ろう。
「左、あしも、拭きますね?」
反対を向いたら、一瞬中が見えるんだけど、何も見えてない気がするんだけど、それはともかく、足湯になってる左足を膝にのせて、こっちも指先から丁寧に拭いていく。
なるべくゆっくり。
だって、考える時間が欲しいじゃん。
晴彦さんにはおっきいバスタオルをかけたから、寒くならないはずだし。そもそも暑がりだしいいかな?
でさ、そうじゃなくって。
え、この後どうなるの?
どうするの?
二択。おちんちんも洗う。もしくは逃げる。
逃げたら、もうここに来ることも、晴彦さんに会うこともないんだろうな。
スマホに電話番号だけ残ってるけど、それだけ。
どの面下げて会いにくればいいのかって話だし。
じゃあ、洗う。
洗う。
触る。こする。扱く。
そうなるだろうなあ。
というか、据え膳かあ。
もし晴彦さんと付き合いたいなら、告白する→エッチな関係になるっていう段階を踏むわけだから、先にエッチな関係になるのは難易度が高い。けど、セフレとか、援交みたいな関係なら。エッチな関係になるのが目的みたいなところもあって、むしろ告白して付き合う方が断然難しい。
晴彦さんは、ボクが据え膳に見えてるんだろうけど、というか実際、結菜に忌避感も拒否感も無いから優良案件の据え膳なんだけど、それはどういう意味としてとらえてるのかな。
結局、なんの結論も出せないまま左足もひざ下まで終わって、残りは腰回りと太腿だけになった。
やっぱり、セフレみたいな感じなのかな。
だってさ。晴彦は10年くらい裏切られ続けて、特に女性に対して人間不信みたいなことになってる。結菜がいくら昔の晴彦さんのことを知ってても、本当に知らない他人よりは少しマシっていうくらいで、信頼できる相手でもない。
だとすると、なんでボクがこんなに献身的なのかっていうのもワケが分からない。
でも、安直に告白なんてできない。
それは嘘になるから。ボクがいくら本当の気持ちを話しても、ボクの身に起こった不思議な体験も併せて話しても、信用も信頼も何もない状態のボクが何を言っても、晴彦さんにとってはウソにしか聞こえない。
自分をだます甘言にしか聞こえない。
だから、すべてが嘘になるようなマネは出来ない。
だから、強引でもとことんお節介にならないと、最後までお節介でいないと、打算の疑いを消せない。
「じゃあ、太腿も拭いていきますね?」
ボクは、晴彦さんの腰に巻かれたベールを解いた。
解く前から主張してるおっきな晴彦さんが、ぴくぴくムクムクするのが見える。
それと、晴彦さんも息をのむ。
だって、ボクが言うのもなんだけど、可愛い女子高生が自分からエッチなことをしてる。
ボクが晴彦さん100%なら、AVかエッチな漫画くらいでしか見たことない光景。
自分の脚の間に跪いた女の子が、自分からおちんちんに向かって、手を伸ばしているんだから。
むわっと、濃いスルメみたいな匂いがする。洗ってない、暑がりの晴彦さんの股間周りの、おちんちんの匂いが鼻腔を犯していく。
あ、って思ったらダメだった。さっそくボクの脳みそが、晴彦さんのおちんちん周りの匂いを記憶して、しかも好きな匂いに登録して、しかももっと嗅ぎたくなるように命令してくる。
けど、ボクは焦らす。というか普通に太腿を綺麗にしてない。
だから晴彦さんの脚を持ち上げたりして、左足、右足の太腿の裏まで、下から上に向かって綺麗にしていく。
途中から、ボクたちはずっと無言だった。
ついに、晴彦さんのおちんちんを持ち上げる。思ったより、嫌悪感は少ない。元々自分のだったから見慣れてるとはいえ、顔を近づけたことなんてなかったし、こんなにおっきいなんて思ったことは無かった。
でも、まるで介護をするみたいになるべく無心で股関節周りの汚れを落としていく。
最後に残ったおっきな晴彦さんは流石にタオルで拭うなんて出来ない。
だから、濡れた手で、直接触って、洗うしかない。ボクの両手で握っても、余裕で先っちょとかが見えてるくらいおっきな晴彦さん。
ぎゅ。
ビクン。
「あっ。」
晴彦さんが、吐息を漏らした。沈黙して、タオルで拭く音とボクの息だけが聞こえてた部屋に、晴彦さんのあられもない声が加わった。
「気持ちいい、ですか?」
「ああ。」
ボクだってAVを見て勉強した。おちんちんとか、たまたまを、どういうふうに触って欲しいかだって知ってる。
痛くならないように手を濡らして、でもベッドにまでは染みないようにたまたまの下にもう一枚タオルを敷いた。
もう汚れを落とすなんていう目的じゃないことくらいわかってるはず。だから、ただおちんちんを扱くだけじゃなくって、親指でぐりぐりしたり、たまたまを手のひらで転がしたり。
そうやって弄んでる間はなるべくずっと、晴彦さんを見上げた。
途中から、鈴口からヌルヌルした液体が出てきた、ぐちゅぐちゅって卑猥な音がし始める。
「っく、はあ。」
晴彦さんの余裕がなさそうな声。
いつも、どれくらい弄ってイッてたっけ?
というか、久しぶりに素人が触ってるから、ボクだってどのくらい扱いてたら晴彦さんが射精するかわからない。
「はあ、はあ。く、咥えろ。」
え?
「結菜。それ、咥えろよ。」
「はい♡」
ボクは晴彦さんに命令されたら絶対に逆らえない身体にされてしまったのだ。
~to be continued~