エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜


 


 え、、、なんで?


 なんでこんなことになってるんだ!

 だってそうでしょ? ボクは男だったんだよ?

 それが、なんで女の子になってるのさ!?

 神さまだって、落ちた時の衝撃は、事故を回避するためのもので、その後はおじさんの方に引っ張られるハズじゃんか。


 って、そうだ!


「ボクの身体は、どうなった!?」


 うん、ちょっとわけわかんないよね。

 今はちょっとお尻が痛いくらいで、全然大丈夫。

 問題は、あっちの方。

 どうなった――


 ――――ドクンッ。


 あ、あれ?

 ヘンだな。

 ボクの身体を見ただけなのに、動悸が……?


 ドクン、ドクン、ドクン。


 おちついて? ね?

 っていうか、おじさん大丈夫かな。早く見にいかないと。

 さっき、反対から来たトラックとぶつかって、ちょっとだけ飛ばされて。

 そういえばおじさん動いてない?


「おじさ、ん。」


 え、動いてない。

 死んで、る?

 待って、待って待って待って待って!!!!


 ようやく会えたのに!!!


「ハルにいさんっ!!」


 だってそうでしょ? この人、絶対そうでしょ?

 10年前にも交通事故から助けてくれた、ボクのヒーロー。

 晴彦さんでしょ!? ボク自身が一番よく知ってるじゃんか。


 死んじゃ、ヤだよ。


 でも、変なんだ。こんな時なのに、また助けてもらえたことが嬉しくて、どうしようもないんだ。


 ドキドキするっ。


 って、それじゃダメだ。ハルにいさんが死にそうなんだから。


「う……。」


 ――ああ!! 生きてる! 生きてるよ!!

 あ。あ。あ。そうだ! 救急車。


 スマホ!


 ああもうっ! 遅い早くかかって!

 

「ぅわ~。これ、ホントに事故っちゃった?」


 ――キッ。


 は?


 何言ってんの!? ボクがハルにいさんに駆け寄るより早く来れたくせに!

 アンタのトラックがハルにいさんにぶつかったんでしょ!?

 そうだ。なんでアンタがもっと早く救急車とか呼ばないんだ!


 プッ。


 ――あ、繋がった。


「あの! ボク、希埼 結菜っていうんですけど、あの、交通事故が起きて、晴彦さんが!」

「――い、こちら、」


 ――ダメだ。落ち着かなきゃ!


 ふう。はあ。


 よし。


「はい。大丈夫です。えっと、人身事故で――、」


 息を吸って、吐いて。そうして落ち着いたら、結構スラスラ喋れるようになって、電話も終わってた。

 こういう時って、動かさない方が良いんだっけ。たしか救急隊員の人が来るまでは安全確認をしてなるべく動かさないようにとか、今さっき、言われた気がする。


「うう……。」


 ――あっ。


 ハルにいさんは、ちゃんと生きてる。


 生きてるよぉ……っ!!


 良かった、、、本当に。。。


 ……っていうか、神さまがこの方法で事故を回避したんだから、反対側から来たトラックに轢かれて死んじゃうとか、よく考えたら……いや、そもそも、ボクがこっちの身体に入っちゃうっていうのを予測できなかった時点でやっぱり信じられない。


 そんなことは、今はいいや。

 ハルにいさん、大丈夫かな。なんだか右半身が痛そう。


 ボクを、助けたから、ああなっちゃったんだよね。


 はぁ。。。


 カッコいいなあ。

 ハルにいさん。

 これで二度目だもん。

 運命、、、かな。だといいなあ。


 あ、家に連絡してない。


 いつもだったら、もうそろそろ家に着いてるはずだから、お母さんも心配しちゃう。

 そっちにも電話しなきゃ。


「あ、お母さん?」


 ああぅ。やっぱりお母さん心配してた。

 でも交通事故に遭ったわけだし、っていうかハルにいさんとようやくまたあ逢えたわけだし。

 そこは大目に見てもらいたいというか。


「え、ボク? ボクは、ハルにいさんに助けてもらったから、転んだところが少し痛いくらいだよ? そう! 久しぶりに会ったんだ。だから大丈夫。……あ、でもハルにいさんの意識が戻ってないから、ボクはこのまま一緒に病院に着いて……え、大丈夫大丈夫。」


 そうだ!

 交通事故なんだから、保険とかそういうのが、関わって来るハズ。


「うん。うん。だから、大丈夫、というか、救急車の人が来たら、どこの病院に行くかとか、また連絡するね?」


 ――ぴ。


 よし。

 さっきから、うわーとか、やっちまったかー、とか至ってボケた事しか言ってないトラックの人の連絡先とか聞かないと。あと、未だに無反応なコンビニのバイトはどうしてくれようか。というか、トラックの人は会社に電話はしなくていいのかな。


「あの。」

「へ!? あ、オレ?」


 突然声を掛けられてビックリしたのかドライバーさんがこっちを見て、、、目つきがちょっと変わる。ジロジロ見られてるような、そんな気がする。


 ――ゾワッ。


 へ?


 な、に、これ。


 嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌無理無理無理っっっ!!!!!!


 怖い。というか、なんだろう。嫌悪感?

 そういう感じの塊が、胸の奥に一気に広がって、指一本でも触れたくないって思っちゃう。

 別に、目の前の人が凄く不潔だとか、そういうわけじゃない。普通のおじさんだ。


 なのに、すごく嫌。


「えと、おじさんもトラックの荷物運ばないといけないって思うんですけど。とりあえず、救急車を呼びました。それで、きっと警察の人とかも、来ると思うんですけど、どっちにしろ、保険の関係とかで、あなたの会社とか、もしくはあなた個人に連絡を取らないといけないと思うんです。」

「はあ、、、そう、ですかね?」

「はい。なので、名刺……が、なければ会社の連絡先と、あなたの連絡先を何かに、ボクの持ってるルーズリーフに書いてもらっていいですか?」

「え、あ、はい。」


 ぅぅ。ルーズリーフ渡すとき、指先が触れそうになるのも気になるけど……よし。何とかなった。

 心の中では今でも嫌だけど、冷静になれば、事務的に対応はできる。


 おかしいなあ。ボクの好みってハルにいさんみたいな年上の人だったハズなのに。。。

 あと、最初に事故りそうだった方のトラックの人とも、話して、それで警察の人が来たら状況を話さないと。


「うう……。」


 ああ、可哀想な晴彦さん。

 事故が起きたら、なるべく動かさないようにしなくちゃいけないから、動かせなくて、でも、何かできることはないのかな。


 あと、どうしよう。

 すごい渋滞ができてしまったみたい。

 事情を知らないから、後ろの方の人が引っ切り無しにクラクションを鳴らしてる。



 *** ***



「今は、寝ているだけですね。」


 よ、良かったぁああ。

 救急車とパトカーが着いて、運転手さんたちに事情を聴き始めた。


 ハルにいさんは明らかに重症だたけどCTスキャンが済んで、脳内に出血は見つから無かったって。

 ただ、トラックにぶつかった衝撃で、前腕と脛の骨が一本ずつ折れちゃって、ヒビらしいんだけど正確には骨折とかなんとか。それで、右手と右足がギプスでぐるぐる巻きにされちゃってた。

 でもでも、担当の整形外科の先生がいてラッキーだった。


 ボクも大事を取って一緒の救急車で運ばれたけど、CTスキャンで脳内出血が見られなかったから、ハルにいさんの処置の間に、警察の人に何があったか話した。


 メチャクチャ怒られた。


 うん。だってさ。そもそもの原因、ボクじゃん?

 信号無視で横断歩道に出て、事故りそうになったところをハルにいさんに助けてもらったら、運悪くハルにいさんは対向車線のトラックにぶつかって骨を折ったわけだし。


 ぶっちゃけトラックのドライバーさんは運が悪かったとしか言いようがない。

 それでも、夜間にかなりの速度で運転していて、歩行者との対人事故だからペナルティーは発生しちゃうんだけど。


 え? 真実なんて言えるわけないじゃん。

 というか言っても信じてもらえるハズないし。だからボクが予備校の勉強疲れで不注意だったとしか言えなかったとしても、仕方ないでしょ?


 どっちにしろ、ドライバーさんのトラックに車載カメラがあったとかで、ボクの話とも矛盾が無かったらしいとかで、明日ハルにいさんにもう一度確認を取ったら、ハルにいさんは保険会社や運送会社との交渉になるらしい。なんだか色々言われたけど、こういう場合、運送会社を通したドライバーさんとの示談を成立させて、ドライバーさんの刑事罰については不起訴処分になることが多いとか。


「夜も晩くの事故だったからショックで意識を失っているし、朝まで目を覚まさないでしょう。ただ、頭を強く打っているわけではないから、明日、起きてから保険などの……ところで、貴女は――?」

「え、あ、はい。ボクは、ハルにいさんの――、」


 なんだろう。むむむ? 

 ハルにいさんは、は、初恋の相手だし、そういえば、ボクはハルにいさんに今は恋人がいないって知ってるし、え、じゃあボクがハルにいさんの恋人に名乗りを上げてもいいのかな、なんて。きゃっ。


 って、そうじゃなくって。


 ボクとしては、小さな家でいいから、二人か三人くらいハルにいさんの子供が欲しいかな?

 だとすると、最終的に、年収800万円以上は必要になるから、先々のことを考えると、ボクも働きに出ないといけないよね?


 いやいや、そうじゃなくって。


「――え、と。一番の知り合いです。」

「ご家族の方などは?」


 ですよねー。

 でもこのメガネかけたお医者さんも、夜中の当直で機嫌悪いからって、それを隠そうともしないのはどうだろう?


「近くにはいないみたいです。……でも、ボクならハルにいさんの家も知ってるし、保険証とか、そういうのも、明日ハルにいさんが起きてから確認できます。それに、どっちにしろ、ハルにいさんの家族に連絡を取るにしても、明日じゃダメなんでしょうか? ハルにいさんは別に、危篤とかそういうわけではないのでしょうし。」


 メガネの神経質そうなお医者さんは、ちょっと考えてから言った。


「まあ、それでいいでしょう。」


 これはあれだ。自分は面倒なのはご免だって顔に書いてある。

 とか何とか思ってたところで、廊下が騒がしいなって思ったら母さんだった。


「ゆいっ!」


 化粧っ気もない母さんは、すっごく急いできたのか、ちぐはぐな格好で。


「ごめん、なさい。」


 気づいたら、ボクは泣いてた。

 そうだよね。

 うん。そうだよ。



 *** ***



 母さんと一緒に、家に帰ってきた。


「はあ。」 


 母さんを酷く心配させてしまった。

 はあ、何をやってるんだろう。

 ポスン。とりあえず、ボクはカバンを置いて、、、ん?


 ん?


 ん?


 ふにっ。

 あ、やっぱり柔らかい。だってFカップだもんね。

 じゃないっ!!

 そうだ! ボクは女の子になってたんだ!


 え、え!? どうしよう?

 女の子って何する生き物なの?


 えっと、え――っと?


 あれ、わかる?? うん、わかる。


 わかっちゃった。


 スマホ?

 

「わ、初香とかみんなからすっごい心配されてる。」


 当然だ。コンビニで最後に返信打ってから、2時間近く無反応。

 心配されても不思議じゃない。


 でもなんでボクはこの子たちのこと知ってるんだろう??

 というか頭の中から急に、あれをしないと、これをしないと、っていう衝動に駆られてる。


 くぅー。


 ご飯食べてないし。

 お風呂入ってないし。


 眉毛とまつ毛とか目の周りとリップだけとはいえメークも落とさなきゃだし、そのあとお肌のケアとかまつ毛を育てる謎の液体塗ったりしなきゃ、っていうか、こんな夜晩くにご飯食べたら太らない? でもでも、お腹すいたし、明日まで持たないし。

 でも、デブったらハルにいさんに嫌われたりして、え、それはヤだな。


 とりあえずまずは、返信して、ポチポチ。


 お風呂入って。ふぅ。


 おにぎり一個なら大丈夫だよね? ね? パクパク。


 お父さんは深夜に帰って来て心配してたけど、事故が未遂で怪我しなかったことを喜んでた。


 日課のストレッチを少し省略してこなす。


 やっと落ち着いた!


 うん。ビックリだよ! 何にも考えないで衝動のままに勝手にさせてたら、上手いこと全部済んでた! なんでか知らないけど、身体見ても、太ってないかとか、お尻にアザが出来てないかとか、手をちょっと擦りむいちゃって、水が染みたり、そういうことばっかり気になった。


 全然ムラムラしないんだね!


 こういう話だと、大体は憑依したり、TS転生したりした自分の身体に欲情してオナニーするとか、王道じゃん?


 や、ちょっとはボクってやっぱり奇跡みたいに身体がキレーだなーとか、脚長ってビックリしたり、本当にFカップなのか確認したり、そういう事もしたけど、だからって、胸揉んだら気持ちよくなるとか、いや、普通に胸を揉んだら気持ちよくなるんだろうけど、数回揉んだところで、普通に真顔だし?


 全身ほとんど産毛だけで、パイパンじゃんって思って、、、ハルにいさんって、もっと毛が生えてる大人の身体が好みなのかなって考えたら、死んじゃいそうなほど苦しくなったりしたけど、アソコも普通に洗って、それだけ。


 ボクは、むしろおかしいのか!?


 いや、そんなことはないハズだ。むしろ、なんていうか、こう、考えてることのベースは晴彦だった時のものっぽいんだけど、どうにも感情とか、衝動とか、行動の指針が結菜ちゃんに委ねられてるような。そういう感じ。

 そうじゃなきゃ、普通に考えて、さっきまで入ってた自分自身に、こんなに恋い焦がれるとか、あり得ないし。仮に、ボクが晴彦のまま女体化とかしたら、きっともっと、、、なんだろう、こういうふうに考えるのも、嫌だな。


 悍ましい。


 晴彦さん以外がボクの身体に触れるとか、それ以前に、ボクが晴彦さん以外に恋愛感情向けるとか、そういうことを考えることも、仮定してみることも、全部、晴彦さんを裏切ってるみたいで、本当に、もう、ヤダ。


 なんで、こんなこと考えてるんだろう。


 っていうか、ボクはハルにいさんじゃなくって、晴彦さんって呼んで、甘えたい。

 思いっきり腕にぎゅーって抱き着いて、匂いとか付けて、晴彦さんの匂いもいっぱい嗅いで、他の女が近寄れないようにしたい。


 ああもう! こんなこと考えてたら、眠れないじゃん!

 せっかく、ピンクのフリフリしたパジャマに着替えたのに!

 っていうか、さっきからスマホ煩い!


 事故ってたテヘペロ。で十分じゃん! 生きてるし! 五体満足でピンピンしてるし。まあ、初香とか、奈緒とか麗とか、みんな心配してくれるのは嬉しいんだけど! 同時に噂話の聞きたがりみたいなふうに迫ってくるのはどうなのかな!?

 もう1時だよみんな。


 寝ようよ。


 うん。既読にもしてあげない。


 っていうか、あっちのぬいぐるみの中に、ぽいーして、、、バイブも、うるさく、ない、ように…………。



 *** ***



「ふあぁ。」


 うん、目を覚ましてもやっぱり女の子。


 あんまり、実感がないや。昨日まで女の子してたみたい。いやいや、結菜は、昨日までも女の子だったんだけどね?

 記憶的なものはなんだか、どっちも微妙に思い出しづらい節があるかな。ちょっとは結菜の記憶の方が思い出しやすいけど。


 だから、昨日は気にしなかったけど、ボクは、まず違和感を持たれないように生活できないといけないんだ。とはいえ、これはそんなに難しくない。むしろ、結菜の記憶がほとんどオートでボクの身体を動かすから、ボクとしては考えない方が上手くいく。習慣って恐ろしいな。


 ところで現在5時です。なぜでしょうか。

 答えは簡単です。いくらボクが可愛いのも、日々の努力の裏付けによるものだから。不摂生を極めれば、直ぐにダメダメな状態にまっしぐら、というわけです。


 なので!


 ボクの朝は顔を洗ってから、体操と、部屋の掃除と、平日ならお弁当制作から始まるんだ。といっても、お弁当は母さんとの交渉で、二日に一回だけど。どうやら、未だに父さんとラブラブな母さんは、毎日愛妻弁当を作りたかったらしいんだけど、ボクが花嫁修業的なアレで、お弁当を作りたいって言ったら、両方のお弁当を所望した父さんの鶴の一声で、月水金が母さん、火木がボクっていうふうになった。


 まあ、どっちにしろ、今日は土曜日。学校もないからお弁当も作らなくていい。体操と、部屋の掃除を入念にして、空いた時間は勉強だ。

 うん。なんて真面目な姿勢だろう。晴彦さんが知ったら驚くかな。


「ふぅ~。」


 よし、起きてきた。体操をするときはパジャマから着替えてるわけだけど、パジャマ→体操着→洋服って朝から着替えすぎじゃない?

 可愛いを作るには努力が必要なんだけど! あと、さすがに1時間も体操してたら激しくない動きだって言っても、パジャマじゃダメなんだけど。

 とにかく、ささっとお掃除して、ご飯を食べようっと。

 もう6時も回ってるし。



 *** ***



 さてご飯を食べて、朝の勉強も終えて、外出だ。


 当然、晴彦さんに会いに行くため。面会の時間は朝9時からだから、それにピッタリ合うようにばっちり時間調節をするよね。ちなみに、服装としてはあまりバッチリ決めるのもおかしいかなって思ったから、オシャレしてるっていうより、ゆるふわって感じの洋服をピシッと着こなす感じにしてみた。


 お母さんには、昨日事故に遭ったばかりなんだから、休んでいなさいって言われたけど、昨日、とっても心配させちゃったわけだけど、それでも、ボクは晴彦さんに会いたかった。


 そんなことをお母さんに捲し立てたら、ビックリしたような顔になって、ちょっとニヤニヤして、でも晴彦さんて36歳じゃないの? とかいらないこと言ってきて。

 もう知らない! って、半ば飛び出してきたわけだけど、お母さん的には晴彦さんって、大丈夫なのかな? 付き合うとか反対されたりって、、、いやんいやんっ、まだそんなじゃないし!


 そもそも、ボクのこと好きになってくれるかも怪しいし?


 って、あ。そうだ。

 そっか。そうだよね。


 ボクは、なんで晴彦さんのことが好きなんだろう。

 結菜が、晴彦さんに抱いていた淡い気持ち。


 それが、昨日の事故で高鳴っちゃった。


 でも、それは偶然というよりは、必然の事故で。晴彦が入ってくるまで、結菜はそのことを知らなかった。つまり、それは惚れ薬的なものを仕込まれたのとあんまり変わらないんじゃないか。


 だとしたら。


 そうなら、晴彦さんに惹かれているのが結菜の感情だったとしても、それを押し殺してでも他の人に目が向くようにする責任が、晴彦にはあるんじゃないか。結菜本来の運命を、潰してるんじゃないのか。


 流されていいのか。


 とはいえ、これはおそらくなけなしの晴彦の感情の所為で、そもそも、男が結菜の顔とか身体とか見て、仲良くなろうとするのがどうにもダメだ。たぶん、結菜も普通に持ってる女の子としての警戒心に、晴彦が抱いた男の目線に対する嫌悪感が乗っかって、まともに男性と話すのも難しい。


 相手も事務的なら大丈夫なんだけど、昨日のお医者さんみたいな。


 って、話がそれてる。


 ボクは、ボクの衝動が命じるまま、晴彦さんに恋心なんて抱いてて、いいのかなって話なんだ。

 結菜がどうしたいかっていうところのホントが、わかってない。


 そう、ボクは、怖いんだ。


 なまじ、ボクの意識が晴彦寄りだから、本来の結菜の未来を全部奪って、好き勝手してるんじゃないかって、そういうふうに思ってしまって、すごく、怖い。


 晴彦の中に残ってる記憶が、失敗の悲劇を連想させるんだ。ある日、晴彦の魂が晴彦の身体に戻ることがあったら、結菜の意識に拒絶されるんじゃないか、とか。そうじゃなくても、今は意識できなくても、もともと結菜の意識があったわけで、その意識は今もボクの裏でボクの行動を見てて、それで、晴彦さんの下へ行くのをすごく嫌がってるとか。


 そういう事ばかり考えてしまう。


 あと、どっちにしろ、今はいいとして、ボクって意識は晴彦じゃん? だとすると、今後、大変困ったことにならないかな。主に男性の身体を見る的な意味合いで!


 なにせ、ボクの意識は男だからね! 感情面でいくら女の子を気取ってても、やっぱり男じゃん!?


 歩き方とか、今のボクは超綺麗だよ? わずかに内股の気がある、とっても女の子っぽい歩き方だけど、足とかスラッとしてて、なにこれ羨ましくない? 奇跡の成長を遂げてるよ!


 なにこの美少女!


 すでに好い女に差し掛かってるのすごいし!


 まあ、そんなこと考えてたら、病室に着いちゃったわけだし。

 とりあえずは、その辺については棚上げしとこうか。


「おじゃましまーす。」


 晴彦さんは、普通の4人部屋にいた。ただ空きが一つあって、晴彦さんは通路に近いところにいた。


「あ……、えっと。」


 晴彦さんが、いた。


 晴彦さんがいた。


 晴彦さんがいたよ。


 ボクに声をかけてくれてる。


 何を話したらいいかって思ってるんじゃないかな。

 もしかしたら、今日来るかもって、起きてからぼんやりしてた頭で考えてくれたのかな。

 でも、考えがまとまる前に来ちゃったのかな。


 えへへ。


 晴彦さんだぁ。。。


「身体は、大丈夫、ですか? ……ハルにいさんっ。」

「あ、うん。腕が腫れてて痛いけど、大丈夫みたい。それより、俺のこと、覚えてたんだ。」


 当たり前じゃないか!


 だって晴彦さんだよ? 初恋の人だよ!?


 覚えてくれていたことがすっごく嬉しくなる一方で、ボクと会ったからこんなケガまでして、っていう罪悪感が沸き上がる。


「はい! あ、でもごめんなさい。ボクの所為で、こんなケガ。。。」

「まあ、気にしないで、っていうのは無理か。でも、足も腕もどっちも骨一本だし、まあ、尺骨って言ってたっけ、腕の方はギリギリギプスが必要だったみたいだけど、足の方は場合によってはギプスも必要ないくらいだったみたい。先生が面倒くさがりだったのか、大事を取ったのか。でも治りは早いって、言われてるよ。」

「うん。うん。」


 それから、ボクたちはいっぱい話した。


 昔みたいにハルにいさんの膝に乗ったりとかそういうことは無かったけど、だって、晴彦さん、ケガしてるし。

 でも、後から後からいっぱい言葉が出てきたんだ。

 むしろなんでボクの身体は一つしかないんだって恨みがましいほど、もどかしかった。

 さっきまで感じてた不安とか、そういうのが全部消えたみたいな気分だった。

 ボク、メチャクチャ女の子してるっ。


「あ、そうだ。晴彦さん。ボク、リンゴ持ってきたんだ。剥いたら食べますか?」

「大丈夫?」

「む、それはボクがちゃんとリンゴを剥けるのかっていう話? これでもボクは高校に入ってからお弁当だって自分で作ってるんですよ? リンゴくらいへっちゃらなんです。」

「じゃあ、お願いしようか。」


 そういって、微笑んでくれる。

 そういうところが全部、好き。なんでか、加速するようにボクはどんどん晴彦さんのことを好きになっていく。

 晴彦さんは、太ってるのを気にしてるみたい。だけど、それが何だっていうの? 晴彦さんはカッコいいよ。

 そういえば、いつの間にかハルにいさんから晴彦さんって呼んでる。

 さっき話してた時の途中からだっけ、まあ、いいや。

 リンゴリンゴ。テーブルに置いて、ペティナイフを出し――、


 あ。


 ころん、ぽす。


「ああ、ごめん。リンゴが布団に転がっちゃいまし――、」


 ナイフを机に置いて、ボクは、晴彦さんのお腹辺りに乗っかってるリンゴを手に取った。

 どうやら反射的に晴彦さんも手を伸ばしてたらしい。

 ボクがリンゴを掴んだ時、ちょうど晴彦さんの左手がボクの右手に重なった。


 ドクンっ。


 ――わっ。


 ニュートンはきっと、リンゴに自分が落ちた錯覚を抱いたんだ。

 居眠りしそうなとき、落ちたみたいな気がして身体がビクッてしちゃう感じ、って言えばいいのかな?

 きっと、リンゴが地球に落っこちたとき、自分も地球ごと、リンゴに落っこちたみたいな、雷みたいな衝撃が体中を走って、それが頭の中で弾けたんじゃないかな。


 ボクの全部も晴彦さんに落っこちた。


 世界が、止まったような感じ。


 パっと顔を上げた先にあった晴彦さんの顔。


 顔が、真っ赤になっていく感覚。


 喉の奥が掠れていく。


「あ、の。リンゴ。剥いちゃいますね?」

「え、あ、うん。」


 きっと、晴彦さんも同じ顔。だったらいいな。二人して顔を真っ赤にしてるのがいいなって思うのはちょっと変かな?



 でも、そうだったらいいなって思った。

 はぁ。こんな時にボクって自分勝手だなあ。









 ~to be continued~