エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜




 俺の、人生。


 ツイてない。


 いや、俺も生まれた時からツイてなかったワケじゃない。それなりに頑張れば、それなりに成果がついてきた。だからか、勉強すれば明確に成果が見える数学とか、物理とか、後は英単語の記憶とか、そういうのが少し得意なくらいの、まあまあその辺にいくらでもいるクソガキだった。


 で、大学の試験なんざ、ある程度数学の要領が良くて英単語もできれば、国語がまあまあでも、そこそこの大学に行けるもんだ。ぶっちゃけ、理系だとか文系なんてのは専門知識が要らないとこなら、採用する企業的には意味ない話で、大方の奴が目指すような企業なら、まあ、あんまり重要じゃないんだろう。


 で、なんとか一応大企業って言えるところの企画部に入ったところまでは良かった。

 なんだかんだ、失敗も成功もあったけど、結局はイイトコの企画部だ。運が良かったなんてもんじゃない。ちょっと小躍りしたよ。で、そんなところに入れたもんだから、仕事も頑張った。

 その結果、色んな部署とも交流して、社内恋愛で彼女もできた。3歳年下の、俺が最初に受け持った部下だった。


 順風満帆だった。


 今日も事故りそうだった、かつての結菜ちゃんを救って、俺は有頂天だった。

 当時の彼女もいつも以上に積極的で、搾り取られた、って言った方が合ってるんじゃないか? とにかく。凄かった。


 とまあ、ここまでは良かったんだ。


 そこから10年。何もかもが上手くいかなくなった。

 その結菜ちゃんの家が近かったのはまあ、わかる。で、俺に助けられたってわかったからなのか、結菜ちゃんが俺に懐いたのもまあ、わかる。そしたら土日、時々公園で遊んだりすることもあるんじゃないか?

 だが、俺は当時26歳で、別に結菜ちゃんのことを性的な目で見ていたとか、絶対にない。なにせ彼女が積極的だったからな。


 なのに、ロリコンの謗りは、酷すぎないか?


 で、だ。

 色々あって、会社での仕事もなんでか上手くいかなくなって、もちろん、それまでバリバリやってたわけだから、取り返そうって頑張った。


 けど、何やっても裏目に出てさ。


 例えば、企画部だから、新商品の販売戦略とか考えるわけだ。売り上げの予測をしてみようって、大学とかの入学者予測に関わる論文調べて、数式組んでExcelにぶち込んだ。で、これまでの資料とか漁って商品の宣伝効果とか、売り上げの初速とかのパラメータから、いくらくらいの商品が、この期間でこの程度売れれば、その後、どの程度の売れ行きになるか、予想できるようにした。まあ、新設のマーケティング部とかあるのに、売り上げの解析がボロボロとか大丈夫かよって思ったくらいだった。


 で、ちょっと大きめの会議で、議題だった新商品の販売戦略について、プレゼンした。こういう数式は嫌われがちだから、Excelも、よっぽどバカじゃなければ誰でも使えるようにした。

 実際、それが役に立って、ほとんど予測値の通りの売れ行きになった。

 当時の課長からも凄く評価してもらって、運も良くなったかなって思うだろ。


 そう思ってたら突然、部長から呼び出しを食らったわけだ。で、しこたま怒られた。ウソだろ。


 理不尽な話だが、当時の課長にハメられたんだ。俺の組んだ数式を、さして理解もせずに使って、ミスって部長にバレた。しかも、それを俺の所為にしてきた。そういうことだ。部長は、読みづらいラインの商品を成功に導いた秘訣が知りたかったってわけだ。


 どんなバカに処理させたのかわかんないけど、間違いなく統計解析を何も知らないバカが、使えないバイトの粗だらけの仕事みたいなことを、通常業務の時間にやってたことは間違いなかった。

 けど、どうやらそれが部長の肝いりだったらしく、自信満々で俺の式を使ってた課長は、その責任を俺に押し付けてきたってわけだ。どうやら、予測値を出したのも俺だって、言ったらしい。知らねえよ。後から知らせてきたじゃねえか、お前ら。


 ホント、何言ってんのって話じゃないか。


 俺は前の新商品の売れ行きを予測するための、類似品のデータセットしか入れてないんだから、他のジャンルの商品の予測とか無理でしょ? って、説明しても、メンツを潰されてる部長には意味ない話だったのか、なんなのか、俺は30歳手前にして、アッサリと企画部の窓際に追いやられちまった。


 俺が今いるのは通称、企画部の雑務課。窓際族を楽しんでる課長の下に、名ばかり係長として配置換えされてしまった。二人しかいねえよ!


 クソが。


 そんなことになれば、もう、彼女だって見放すわけだ。

 ロリコンで落ち目の、出世コースから外れた男だもんな。

 彼女も当時20代半ば、俺なんかに係っているくらいなら、他の男に乗り換える。実に実利的な思考だった。いや、もしかしたら体のいい理由を探してた……止めよう、そう考えるのは辛すぎる。


 それでも乗り換えた相手が俺の式を使ってバカな予測値を出した、バカじゃなけけりゃ、まだ救い様があったかもしれない。それだけじゃなく、その男も踏み台に、アイツは取引先の係長、今は課長になった男と結婚した。出世頭との電光石火だった。寿退社しなかったのは、もはや図太いなんてもんじゃないだろう。なのに表立って嫌われてる節もない。

 打算的過ぎて、ビビった。――というか、やっぱ。初めからそっち狙いだったんだろうな。クソ。


 なんだろう。


 それから俺は、通称、雑務課の名の通り、目下の後輩からのどうでもいいような仕事もさせられるようになった。


 まあ、今じゃどうでもいことだけど。


 あと俺の数式は部長が嫌ったこともあるのか、表立って使えなくなった。

 とはいえ、前から親しかった人とか、ちゃんと中身を理解してくれるような人からは、予測値の出し方とか教えてくれって言われたりもした。


 結局、ソイツらの出世を手伝っているに過ぎないんだけどな。


 そんなふうに時折、聞かれるもんだから、どうせ業務も暇なものばかりだし、昔のペーパーベースの資料とか整理するかって、独り、黙々と資料のデータ化とか、その解析とか、そういうのをして暇を潰す毎日だ。


 それに飽きたらネトゲな。勤務時間にもできるわけだから、かなりやり込んでるのは間違いない。

 とはいえツイてないのは明らかなのか、アイテムのドロップ率とか軒並み低い。


 まあ、どうせ暇つぶしだしいいか、と、昼間っからゲームにいるような不健康な奴らとチャットを楽しみつつ、ゲームをしつつ、データを整理しつつ過ごしてる。そういや、ここ10年で会うこともある友人と言や、ネトゲで知り合った道楽ニート野郎くらいなものか。


 俺ももう、36歳だ。この10年が全部パアになったわけだ。


 未だ自殺するほどじゃないって思えているのはおそらく、26歳までのありきたりな成功体験が、俺に無駄な希望を持たせて、もう諦めてるのに、心のどこかで諦めきれてない、って思わせてるんだろうな。


 つまり踏ん切りがつかないんだ。


 何もかもから逃げるほど落ちてないのか、そうなのか。それもあるだろうし、今の生活に慣れちゃって、どうにかなってしまっているから。

 強豪チームに勝てないってわかってるリーグ戦で言うところの消化試合の、残りの試合数を数えるような生活から抜け出せないんだろうな。


 無駄に冷静に自分を見てる。企画部の雑用で身に付いたスキルだなあ。


 いつの間にか死なねーかな、なんてことばかり、考えている。





 ……そんな、俺のコピーの情景が見えた。


 俺の、コピー。


 魂が、死んでいる。


「うぐ……っ。」


 目の奥が軋むように痛くなる。

 頭がおかしくなったんじゃないのか?

 ダメだ。吐く。


「うっ、――く。なんで。」


 吐けない。


「それはそうだよ。君はエネルギーの塊、魂の状態なんだ。吐くなんていう事ができると思う方がおかしい。――それより、見てごらんよ。あの様を。帯の左から右にむけて時代が進むように、今まで集めた人たちの、魂を並べてみたところだ。家とか、建物とか、そういう小道具も加えてみたらあんな風に、生き生きと動き出す。」


 この、クソメッセージボックスが。


「ねえ、すごくない? だってさ、あんな風に生きてるように見えて、彼らは全部、決まりきった行動しかとってないんだ。彼らが死んだとき、その魂とも呼べるエネルギーの塊を引っこ抜いて持ってきて、適当な条件に設定してほっといたら、機械的って言えばいいのかな? 創造性の欠片もないような、プログラム通りみたいな行動を、四六時中やってるんだ。まるで、生前を再現してるみたいに。」


 くだらねえ独り語り。


「でも、それなのに凄いのはさ。まだ彼らは繰り返しの行動パターンを見せたことは無いってことなんだよね。それがいいんだ。彼らは、まるで生きているみたいに、同じ状態を、同じ時代を繰り返す。これはあれだ。博物館で展示物見ている気分に似ているのかな。それとも列車のジオラマに馳せる思いに似ているのかな。取り残された光景を切り取ったノスタルジーなのかな。」


 ああ。クソが。


 クソ野郎だった。


 とんでもないクソ野郎がいた。


 一人一人の顔を見ても、瞳の奥を覗いても、全力で生きてるように見えるのに、どういうわけか、忌避感しか抱けない。彼らは、まるで機械が動くみたいに、無機質で無感動な感情を俺に抱かせる。


 きっと、本能的に、あれが生きてないことをわかってしまったからだろう。


「そこに、君も加わったんだ。良いだろう?」

「クソ野郎。」


 あそこにいるヤツラと、俺が、同じだと?


 クソ。


「なら、なら今俺が考えたり喋ったりしてるのも、全部、アイツらみたいな、」

「それは無いよ。安心していい。」


 ああ、ああ。良かった。

 ――クソが。良かった、なんて思っちまったじゃないか。

 俺は、俺なのか。


 だが、それより。


「どういう事だ?」

「彼らが本質的に創造的な行動や判断が出来ない最たる理由は、エネルギーの形を変質させるための身体を持ってないところにあるから。君の場合、確かに魂の状態だとは言った。それだけを見れば彼らと同じ状態だけど、今は疑似的にそのエネルギーが変形できるよう、つまり、疑似的に身体があるような状態にしてるから、彼らと違って、ちゃんと考えたり、判断出来たりする。」

「なるほど。」


 わからん。


「で、なにが面白いかって、話だよね。これはもっと簡単な話なんだ。魂がエネルギーなら。それが他の身体に移ったり、増えたり減ったりしてもおかしくはないよね?」

「まあ、そうだな。エネルギーなら、特に体重が重い方が良いのか?」

「そういう質の物じゃないから、赤ちゃんと大人を比べてもエネルギーの総量は変わらないよ。君らの言うところだと、身体を孤立系と考えて、エネルギー保存の法則が働いてるようなものだから。」


 はあ。


「いや、待て。その話が本当なら、魂を構成するエネルギーの総量は、個人内での増減もしないし、他の系への影響もない……つまり他人に魂が移るとかそういうことも無いハズだ。」

「うんうん。理解が早くて助かるよ。普通はそう。平均的なヒトの魂のエネルギーを100とするなら、歴史上の人間も含めて、ほとんどのヒトのエネルギーは大体99~101の間に納まる。たまに、最初から110くらいのヒトとかもいるね。ちなみに120以上となると、地球史上でも数えられるほどしかいない。」

「だろう?」


 なら、何がそんなに面白いのか。


「君の場合はもっとおかしいんだ。魂の総量は他人と同じくらい、なのに、それを他人に渡すことができるんだから。」

「――――は、は?」

「だからさ、君は、魂を削って、運とか、運命とか、カリスマ性とか、そういうものの一部を、かつてあの子にあげちゃってるんだよね。もちろん、あの子くらい波長が合わないと渡せないだろうけど。」


 嘘つけよ。


 でも、だったら。


 もしかしてとも、思った。


 俺がここ10年くらいずっと不幸だった理由。それが明かされるんじゃないかって、一方では期待している俺がいる。


「で、今の状態だと大体70くらいかな。逆にここまでエネルギーが低い人もいないよ。史上では君が初めてさ。……だから、いくら頑張っても、何をやっても、どれだけ評価されるようなことをしても、何もかも裏目に出てたんだ。むしろこれからもっと不幸が訪れることになると思う。よくリストラされてなかったね。」


 なんだよ。


 やっぱり。


 そういう事かよ。


 ……いや、なんで納得してんだよ。


 でも、そうか。すっぽりハマった感じがしたからか。足りないピースが埋まった感じ。

 そりゃ、無理だ。無理ゲーだ。鬱展開しか用意されてないシナリオで、ハッピーエンドを願うくらいの無理ゲーだ。


 だが、リストラされなかったのは単純に、この不景気にもかかわらず、我が社はそこまでしなきゃいけない状況にならなかったってだけじゃないかね。


「ハハハ。」


 笑える。乾いた笑いが出るよ、そりゃ。


「でさ、10年位前だっけ、あの子と最初にぶつかった時、あれは偶然だったんだけど、彼女と君の波長って言うのかな。そういうのが偶然ピッタリだったのか、君の魂の欠片が、彼女に移っちゃって。その所為で、君と彼女の運命が交錯するようになった訳だ。つまり今回のは必然。」


 ああ、そうかい。


「で、本題は、せっかくそんな面白おかしいことが起きてるって気づいたのに、しかも歴史上そんなことが起きたのは地球上じゃ君も含めて片手で数えられるくらいしかないわけで。コレクター的には、そんな面白サンプルが、こんなところで死ぬのももったいないから、じゃあどうしようかなって思って、こうなった。」

「よくわからんが、とりあえず、なんだ。レアキャラを、何とかしてやろうじゃないか的精神で助けられたわけだ、俺は。」


「うん。そう。」


「ん? だが、助けられたといっても、さっきの光景だと、結局死ぬよな? どうやったら助けたことになるんだ?」

「ああ、やっぱりそこが気になるよね。」

「当然だろう。」

「単純に言うと、君らの宇宙の状態を、0.5秒ほど戻して、魂の君を交通事故直前の二人の間に落とした時の衝撃で、両側に軽く吹っ飛んでもらえれば、ちょっとはケガするけど、生き残る算段が付いたから。」


 待て、待て、待て。

 コイツは何を言った?

 状態を、戻す? それは、時間を戻すってことか?


「時間、を、巻き戻す?」

「ああ、やっぱりそういう勘違いをしたか。違うんだ。そうだな。わかりやすく言うと、動画を見て、あるところで止めて、逆再生を少しして、で、もう一度再生をする。この時君は動画内で時間が行ったり来たりするのを認識できるはずだ。」

「ああ。」

「でも、この時、動画内に影響を及ぼせるなら、さっき見た、少し先の内容とは違う内容になる、よね?」


 え、いや、まあ。

 あれか、エロゲの選択しでセーブしておいて、AルートもBルートも見る感じだな。


「君の中では時間経過は一直線だ。でも、影響を及ぼしてしまったら、もともとの動画が辿ったであったろう、本来の映像は見ることができなくなる。」


 そこは、ゲームとは違うわけか。


「まあもっと厳密には、過去に時間を進めるから厳密には0.5秒分戻ったような状態へ、0.5秒分状態が進むように操作するんだけど。」

「なるほど。」

「これが、これから行うことだよ。ただまあ、そんな訳だから、なるべく元の状態に戻るよう頑張って、何もしないで再生し直しても違った結果になっちゃう。それを最小限で押さえておけるのが、大体0.5秒。だから、事故直前までしか戻さない。」

「そ、うか。」


 いまだ、何を言ってるか、完全には理解できていない、と、思う。


「まあ、ちょっと前に膨大なエネルギーが手に入ったから、100年くらい状態を戻そうとしてみたんだよ。そしたら君らの世界の歴史が変わっちゃってさ。……あれは面白かったな。」

「いやいやいやいや、何言ってんの!?」

「誰も知覚出来ないんだから、いいじゃんか。あと、そうだ。今だって、状態を停止したまま時間が経過していることは、誰も知覚できてないし、停止を止めても、あの宇宙の中の誰も、状態が止まってたことを観測することも知覚することも出来ないだろうね。それにさ。一番重要なことは、こうしてここで君が時間経過とともに、魂のエネルギーが変形していくことなんだから。」


 は?


「いやいや、君は一番重要なことに気づいてないよね? 仮に、状態を戻して、君をあの現場に落としたとしよう。でもそれって結局さっき言った、結果が変わらない巻き戻しの範疇だから、君を戻したところでグチャってなるだけじゃん。」

「そうだ。そうだった。」


「だから、さらにもうひとつ、君の魂のコピーを作ったわけだ。」


「は?」

「もうひとつのコピーを君の身体に戻して、君自体は二人の間に落とす。空間にエネルギーの塊が急に出現するからね。ある種の衝撃が起こるんだ。その衝撃を使って二人を両側に弾き飛ばすっていうプランだね。」

「ちょっと待て、それじゃあ。この俺は、」


 どうなるんだ!


「それも大丈夫。ちょっと形が変わってるけど、元々君の身体に入ってたモノだから、おそらくそのあとは君の身体に引っ張られて、で、コピーの魂と融合して、エネルギーの総量も増える計算になる。たぶん140くらいかな。人類史上初の濃さの魂の誕生だね。良かったじゃないか。まあ、融合したとき、全く同じ形のエネルギーだと、反発する可能性があったから、そうならない程度にエネルギーの形が変わるのを待ってたわけだ。このお喋りだって、君が考えたり、何かを感じたりするために、敢えてやってることで、教えた情報だって、どうせ元の世界に戻ったら、不必要になる。」


 どこまでも、自分勝手な野郎だ。


「いや、どっちにしろ、俺はアンタのモルモットで、しかも次死んだらあの帯に入るっていう恐怖が付き纏うわけなんだが。」

「うーん。あの中の人たちも、何かを感じれるわけじゃないんだから、諦めたらいいんじゃないかな。」

「さらっと言うな。」

「だって、なんで君らのことをそんなに尊重しなくちゃいけないか、メリットも何もないし。」


 そうかよ。


「そうそう。だいたい、こんな面白い魂でもなければ、そもそも会うこともなかったんだから、もう二度と会ったと感じることも無いと思うけど、この世界について知れて、良かったんじゃないの?」

「はいそうです、なんて言えるかよ。」

「どうしろってのさ。それに、このお喋りだって、ちょうど良いくらいの時間稼ぎをしているだけなんだから、もうそろそろ充分で、あんまり長く話してると君の魂が身体に合致しなくなって、衝撃とともに霧散するようになるよ? たぶんだけど。」

「なんだそりゃ!?」

「だからもうバイバイ。どうせ今ここで時間を稼いだところで、ここでの事を咀嚼して、納得する程度のことしか出来ないんだから、今戻しても一緒じゃないか。」


 ――グズッ。

 ぅわっ、なんだ地面が無くな――、


「ぅあっ、おおおああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 落ちる、おいっ! 落ちてる!!

 おい、おい!

 ってか隣にもう一人の俺!

 ソイツが加速して俺の身体の中に――っていつの間にかホントに0.5秒くらい戻ってる!

 今、俺はあの子のおっぱいを全力で押し返してる!

 ってそうじゃない!

 衝撃ってなんだ!?

 どうな――



 ――――バチンッ!!


 うわっ、引っ張られる!!


 グギュゥウウウウウウウウウウウウンンンンンンンン!!!!!!!!!!!


 痛い、痛い痛い痛いって!!

 なんでこんな全身の毛をむしられるような、


 グリンッ!


 あ゜?


 ゴキッ!


「あ。」


 グチュ。プリンッ。


 わ。


 ――あれ、なんで?


 神様が言ってた衝撃。確かにあったよ。

 でも、なんでだろ。

 目の前に、ボクが見えるのは。


 スローモーション。


 ボクも、目の前のボクも、別々の方に弾き飛ばされて、きっとボクはさっき見たような驚いた顔をしてる。

 目の前のボクも、何が起こったんだろうって、不思議そうな顔だもん。

 ふわふわというよりは、動けないときの感覚に近いかな。


 きゃっ。


 痛っ、お尻から地面に落っこちて、目の前をトラックが過ぎていく。

 長いような短いような、その後に、おじさんのボクもボクを見てる。


 あっ。


 対向車線、忘れてた。尻もちをついたおじさんも咄嗟には動けない。反対側のトラックが、おじさんのボクに突っ込んでいく。

 でも、もっと早くからブレーキを踏んでたから、すごくゆっくりと、ゆっくりと、近づいて、


 ――ドガッ!


 うわあ、痛そう。

 ブレーキで遅くなってたところに、重いボクの身体だ。車の衝撃が、もろに身体に伝わってると思う。

 絶対、痛い。


 スローモーションが終わる。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。」


 心臓が急にバクバクと鳴り出す。

 目の前を通り過ぎたトラックも、反対側のトラックも、全部止まる。

 え、ボク、跳ね飛ばされ、てない。


 あれ?


 どういう事?


 だって、落ちてきて、それで、元の身体に吸収されるハズじゃんか。

 イタタ。

 そっか、お尻を打ったっけ。

 って、それより、跳ねられたボクは――だから、なんで跳ねられたのが見えて、ってもしかしてまだ幽霊?


 ふにっ。


 じゃないみたいっっっっ!!!!!!!!????????

 おっぱい!!??

 なんでおっぱいっていうかブラウスっていうかスカートっていうかさっきの吐息も女の子!!


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 それは無いって。

 無い。

 無いでしょ。


 だって、神様だってゆってたじゃん。

【おそらくそのあとは君の身体に引っ張られて】

 お・そ・ら・く!?

 おそらくってなんだよ!


 もしかして。

 ひょっとして。

 いやいや。


 でも。


 ぅあ。


 神様の言うところの可能性、そしてこの状況……もしかして、ボク、ツイてない?









~to be continued~