エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜







『昇給だけさせるのも難しくなってたし(バレないように操るのも限界だった)。』


 夢だ。


 課長が、グニャグニャと不定形だ。

 副音声まで聞こえやがる。


 ああ、ムカつく。

 俺はスパイだった。


 騙されていた。

 それがわからなかった。


 クソが!

 チクショウ、ムカつく。


 ムカついて、どうすんだ?

 ガキみてーな癇癪か?


『……――っ♡ はっ♡ あんっ♡ きもちーよ♡ 晴ひっ♡ ああんっ♡』


 パンッパンッパンッ!


 はっ、そんなに俺の一物は美味ぇかよ結菜!


『あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡ きもちっ♡ あんっ♡ いいっ♡』


 そうかよ……チクショウッ!!

 クソがっ!

 クソがっ!

 クソがっ!

 クソがっ!

 クソがあっ!


 そんなに欲しけりゃマンコ中出ししてやるよっ。


 ――ドクドクドクッ、ドプッ、ゴポッ。


 ああー、スゲー出る。めちゃくちゃ出るじゃねえか。


『はあっ♡ はあっ♡ はあっ♡ はあ……♡ 気持ち良かったです♡ 晴彦さん♡』


 クソがっ!

 余裕ぶっこきやがって!

 どうせ結菜も口では気持ちいいとか言って、心中じゃ俺を嘲っているんだろうがっ!



「……ですよー? お……ぁしちゃ……ね?」



 ふにゅんっ。


 なんだこれ、スゲー気持ちいい。

 好い匂いだ。

 なんか、抱きしめられてるみてーな……。


「もぉ、……ですよ? 遅こ…………よー。……ぁわい……ぃこさん。」



   *** ***



「……ぁる彦さーん。朝で……よー。」


 好い匂いがする。

 なんだ、これ。


 すーはー。


 ああ、ホッとする。


 ググッ。


 頭に力がかかって、柔らかクッションに埋もれてく。


「晴彦さーんっ。朝ですよー。寝坊ですよー。遅刻しちゃいますよー。」


 ……何言ってんだ。頭押さえて起こさないようにしてるのは結菜じゃねえか。というか、腕枕みたいになってるな。重くねえか?

 というか、いつの間に横向いた?

 ああー、これ、俺も左腕痺れて動かなくなるぞ。


「……おはよう。」


 彼女のおっぱいに埋もれて喋るのは、中々滑稽な光景だろうな。


「お早うございますっ。……あの、もう結構ギリギリなので、ご飯にしましょう?」


 ああ、遅刻するって言ってたような?

 ……というか。


「結菜。」

「はい?」

「起きる前に聞きたいが、なんで布団の中に結菜がいるんだ? それと、腕を解いてもらわないと起きれない。」

「あっ、そうでした。」


 言うが早いか、結菜は名残惜しそうに俺の頭を撫でながら、解放していく。


「今朝も、ちょっと早く来たんですけど、晴彦さんは疲れてるみたいで、起こしても起きなかったんです。」


 チラリと時計を見れば、まだまだ十分余裕があった。

 けれど確かに、ゆっくり朝食を取っていたいつもより、20分近く遅れていた。


「悪かったな。」

「いえいえっ、ボクが疲れているなら起こしちゃ可哀相だと思って添い寝しちゃったのが悪かったんですっ。」

「そんな、」

「晴彦さん、謝ったらダメですよ。」


 は?

 そんなヤツ、人としてどうかと思うぞ?

 起こしに来てもらって、柔らかクッションに包んでもらって、しかもこのあと旨い朝飯まで付いてくる。


 ああ。


「ありがとう。今日も気持ち良く起きられた。」

「むふふー、どういたしまして。」


 満足そうな結菜の声が上の方から聞こえてくる。

 そう、いつそんな体勢になったかわからなかったが、いつの間にかひざ枕されていた。

 さっきまで抱きしめられてたよな?

 おっぱいと太股のダブル柔らかクッションに挟まれて思う。


 さてはお前、起こす気がないな?



   *** ***





   *** ***



「えっ!? 同棲してないんですか!?」


 昼休み、弁当を突いていた。

 三日と経たず、雑務課に馴染んでいる山下は、結菜に対抗心でもあるのか、やたらカラフルでゴチャゴチャした弁当を持参してきた。


「え? そうだったの?」


 課長も山下も、信じられないと驚いている。

 実際、俺も慣れつつあるとはいえ、夜に送っていったハズの結菜が次の日の朝にはベッドに潜り込んでいる。

 俺の脚はどうやらもう大丈夫っぽいとわかって、結菜をヘロヘロにした夜から、結菜が帰るときは自宅前まで送っていっている。リハビリだ、なんて言いながら、今更夜道で襲われるんじゃねえか? なんて独占欲がムクムクと鎌首を擡げたからだ。


「ええ、そうですね。」

「モグモグ……ごくん。じゃあ、彼女さんがお泊りに来た、次の日の朝とかに作ってくれる感じなんですか、、、ね? え、でもこれとかメッチャ手間も時間もかかってそう。しかも体力付きそうなオカズだし。」

「あれ? 望月くん先週はずっとお弁当じゃなかった?」

「……かかりちょー? 毎日お泊りに来るってゆーのは、世間一般では同棲って言うんですよー?」

「いや、昨日は夜来なかったし。」


 火曜日と金曜日は予備校があるから結菜は来ない。

 それでも変わらず用意されていたご飯を温めて食ったが、どうにも味気なかった。


「ぬむむー? ぱくっ、あ、おいしー……はっ、かちょー! 山下は今、かかりちょーからスゴいノロケを聞かされています!」

「ふむ。どういうことだね? 山下くん。それと食べながら話すのはいただけないな。」

「かかりちょーから、彼女さんのお泊りの日程を聞かされるとか、セクハラなのは置いといて、ですね! お泊りも無いのにお弁当を貰ってる……つまり山下が思うに、これは朝にどこかの駅で会ってるということになりますですハイ。しかもかかりちょーは怪我をしているようなので、きっとかかりちょーの通勤途中の乗換駅とかで、待ち合わせをしている可能性などなどあると山下は考えますですよ!」

「なるほど、話を聞いてないね。それはそうと、僕が妻と冷戦中だというのに望月くんは随分と楽しい思いをしているというのか。はぁ……。」


 いやそこ、はぁ、じゃないだろ?


「なんにしても山下くん、名推理じゃないか?」

「ありがとーございますっ。……ぱく、モグモグ。」


 俺には、この陰謀渦巻く空間で飯食ってる方が、よほど嫌だった。課長の黒いニヤケ顔に慣れてきたとはいえ、もはや以前のように課長を見ることができない。それに山崎専務の娘である山下が、言動通りの馬鹿かどうかも定かでない。

 話題が結菜の事なのが、むしろ救いであるほどだ。俺もガキじゃないから、結菜が何歳だとか、どこで働いているだとか、そういう事を聞かれるのを避けられれば、ある程度喋らない方がむしろおかしい歳だってのも理解している。


「でも、あれですよね。かかりちょーのお弁当を見る限り、しっかりポイント押さえてくるのとかレベル高いですよ。むむむ。なのに上品なイメージってゆーか、お高いお弁当感あるのも凄いですよね。ほらっ、これとかですよ! ニンジンとか紅葉型じゃないですか。なんかスッゴく仕事ができるお姉様じゃないですか? スッゴくおいしそーです、じゅるり。」

「確かに、彼女はよくできた人ですよ。あと俺の弁当に箸を伸ばすな、な?」

「ちぇー、で、いつから付き合ってるんです?」

「それは僕も知りたいな。何せ先週、交通事故で怪我したと聞いて心配していたら、急にお弁当を持ってくるようになったんだ。それはどんなふうに関係しているか、気になるよね。」


 こういうのの答えっていうのが一番面倒だ。


「つい最近ですよ。課長に長いこと隠せるわけないじゃないですか? ほら、ひと月前だって一緒に飲み屋廻りをして課長は奥さんにコッテリ絞られたって事件が、、、ああ、山下さん、そんなことがあって。……あのとき俺にも彼女がいたら、同じ穴のムジナだったハズでしょうよ。」

「……なるほどね。そうかもしれない、、、はぁ。今月の小遣いが、さぁ、」

「むむー、付き合いたてで彼氏が怪我したんで、彼女さん的には心配で、って感じですかー。パクっ、んー、モグモグ、、、ごくん。おいしかったー。それでも付け焼き刃感薄いですから、どっちにしても、いつか山下たちはかかりちょーのノロケ地雷を踏んでたってワケですね! もう山下はお腹いっぱいなので爆弾処理はかちょーに任せますね!」

「え、あ、うん。」

「そうだ! かかりちょー、彼女さんをちゃんと労ってます?」


 っち。

 グサッとくるじゃねえか。急にそんなこと言うんじゃねえよ。


「彼女さんかなりスペックが高いお姉様っぽいですから、ちょっとやそっとじゃヘコまなそーですけど、溜めに溜めて爆発しそうです。」

「なんでそんなことを山下さんが気にするか、わからないけど、、、問題なんて無いな。」

「そうですかー。」


 ちょっとやり返してやろうか。

 大分大人気ない手段を使って。


「ああ、ピロートークの内容まで山下さんに心配されるほど、俺も落ちぶれちゃいないつもりなんだが。」


 そもそも、会って三日の25、6の女にそこまで心配される36歳なんて、(笑)じゃ片付けられない寂しさしかないだろうに。

 そして山下は判りやすく赤面して、口答える。


「なっ、これはセクハラですよっ! 山下は挨拶みたいなお節介をしただけじゃないですか!」

「そのお節介が、爆処理ミスってボカンといっただけじゃないか?」

「はいはい。……今のは望月くんがちょっと大人気なかったよね?」

「そうですね。寝室にベッドが二つもあると愚痴をこぼす課長殿。」

「……マイナス評価かな。冬のボーナスは期待できないと思うよ。」


 そりゃ無いぜ、セニョール。


「はいはい。俺が悪かったですよ。」


 降参のポーズ。

 そのまま食べ終わった弁当を包み直す。


「無駄口叩いてないで、午後の仕事でもやっつけましょうか、って話ですね課長。」

「そうだね、そうしようか。」


 一足先に食べ終わっていた課長は、いち早く席から離れて俺の後ろを通る。


「ようやくエンジンがかかったかい?」


 だなんて小声で言うものだから、俺は上げかけた腰を落としちまった。


「あ、かちょー待ってくださいよー!」


 ああ、そうだ。俺もデスクに戻らないと。

 なのに言葉が引っ掛かる。


 ようやくエンジンがかかった?


 何の、だなんて愚問だ。

 今の一瞬、唖然としちまって俺も気付いただろ?


 イライラして、灰色で、クソつまらなくて、評価もなくて、張り合いもなくて、何を無駄な努力を続けてと卑下して、腐った。


 ハハ。


 くたばれよ!! クソがっ!!


 今更俺は、何かが始まりそうだと期待しているのか?

 馬鹿か。

 大馬鹿者か。


 だから、さっさとニヤけそうになる顔を叩いて戻して弁当箱を引っつかむ。

 それがやけに軽くて、次の一歩のバランスを崩して蹈鞴を踏んだ。


「かかりちょー、置いてかれますよー。」


 ちっ。



   *** ***



 最近気付いたことがある。

 どうやら俺は午前中のパフォーマンスの方が圧倒的に高いってことだ。頭がずっとクリアな気がするし、なんなら運だって午前中の方が良い。

 山下にさえ、「かかりちょーって午前中の方がキリッとしてカッコイイですよねっ。」なんて言われる始末。

 課長は、骨折を治している関係でエネルギーがなんたらで、疲れが蓄積するからだとかなんとか言ってるが、そんな話か?


「はぁ……。」

「かかりちょー溜め息ですかー?」

「……幸せは逃げないから大丈夫だ。」


 山下はお節介というか、一言二言が多過ぎる。


「山下さんに友達が少ない理由がよくわかるよ。」

「ギクッ! そそそそんなななこととなないでですよよよ?」

「吃りすぎ。というか、冗談だから。」

「ですよねー! 山下は地元じゃ人気なんですよー?」


 売れないご当地アイドルの言い訳かよ。

 はぁ。

 運に見放されたか、広報の磯ケ谷さんに電話も通じない。


「まあ、明日でもまだまだ余裕がある案件だから、そこは放置するとして、山下さん。」

「なんでしょう?」

「山下さんの杜撰な処理を修正していこうかな。」

「はぇ?」


 まあ、とりあえず直さないと使い物にならないのは、数日で変わるものじゃない。


「ええー! ちゃんと言われた通りに作りましたよ?」

「それが出来ていたら、修正は入れないよ。」

「うー。はい、お願いします。」


 この山下、専務からの指示を受けているハズなのに、このポンコツだ。正直本当に指示なんて受けていたのか、ということさえ疑いたくなる。そして仕事が増えたせいで、ネトゲもおちおちしていられなくなった。


 ああ、イライラする。


 とはいえ、そんな苛立ちが表に出ないように生きてきたんだ。苛立っていることさえバレないだろう。

 結局根底にあるのは、知らない間に馬鹿にされていたんじゃないかという猜疑心だ。一方で、俺が切り札みたいなふうに言われて喜んでいる。


 嬉しかった。


 ああ。


 寺田課長が、このために今までの雑務課でピエロを演じてきたと思うと、やはりプライドを擽られるから……本格的に怒れやしない。

 とはいえ、ムシャクシャした気分でいると、色々なことに気が付いて、気が立ってしまう。


 ダメだこりゃ。


 俺は、課長を嫌いたくないから、当たり散らしそうになってやがる。

 今、俺は澄まし顔で、スラスラと山下に説明できているか?


 ドクリ。


 心臓の早さはそのままで、少し力強くなっている。

 昔より捻くれちまったから、焦げ付いた苛立ちの煙が消えやしねえ。

 大学生時代の、嫌なことも飲んで一発で忘れられる阿呆っぽさが足りていない。

 嫌いたくないなら、さっさと忘れるこった。


 ……ああ、歳なんて取るものじゃねえな。


「あ、あのぉ~、かかりちょー?」


 媚び媚びの声、既に始めてる上目遣い、申し訳程度の済まなそうな態度。

 確実に苛立っている原因の大きな部分を、山下が占めているのは間違いない。



   *** ***



 チクショウ。


 クサクサした気分のまま帰ってきちまった。

 帰りの電車は相変わらず最低の状態で、もはや俺の帰りは呪われているんじゃないか?

 救いは、脚の治りが早かったおかげで、立ったままでも辛くないことか。

 

 今日は水曜日だから、結菜が来ている、ハズ。

 

 結菜、か。


 俺の事が好きだと言って近付いてきた。それ自体は、そうなのかも知れない。

 だが、結菜の心の中までは読めない。俺みたいな情けないオッサンを操るのが好みで、そういう意味でタイプだったとか? わからん。だけど、最近ちょくちょく「可愛い。」と言われている。


「くっ。」


 この通路、狭いんだよなあ。前もここで松葉杖引っ掛けてコケそうになった。


 ああ、ダメだ。

 変なこと考えてやがる。

 結菜も俺をコケにしてるんじゃないか。そうであれば腹が立つ。だけど、嫌いたくない。嫌いたくないから、どうしてやろうか。


 ガチャ。


 パタパタ。


 これだ。結菜は俺の帰宅に合わせて玄関まで迎えにくる。

 いつも絶やさない嬉しそうな顔で、背徳感を煽る制服にエプロン姿で、俺の独占欲を満たす。


「お帰りなさいっ、晴彦さん。」


 セリフの割りに淑やかな所作。


「ああ。」


 これがすべて俺を情けなくするための、演出だとしたら。

 ある意味で、ヒモを飼ってる女の思考に似ている。もしかして、そういうのが結菜の嗜好で、俺みたいなのがピッタリだから。


 それなら、結菜が俺を好きだと言うのもよくわかる。


 ……コケにしやがって。


 ああ、コケにしやがって。


 そのままパタパタ駆け寄ってきて、結菜は流れるようにギプス用の靴のマジックテープを外し、鞄やジャケットを受け取っていく。この構図こそが結菜の目的なら、しっかりとハメられちまってたわけだ。

 なあ結菜。

 ロールプレイ染みたお前の行為を滅茶苦茶に壊したら、どう思うんだ?

 俺は、情けない方が良いってのか?

 なあ、結菜?


「結菜。」

「はい?」

「しゃぶれよ。」

「はいっ。」


 じじー。


「よいしょ、っと。……晴彦さん。」

「なんだ?」

「いただいちゃいますね?」


 パクリ。


 結菜は一切躊躇わなかった。

 唐突に、そんなトチ狂ったことを言われて素直に応じる。

 これも結菜のシナリオの内だってのか?


 ハハ。


 敵わねえや。


 帰ってきて、洗ってもない臭いチンコを咥えさせるなんて、そんなプレイは高い泡風呂でなきゃできないだろ、普通。

 なんで、それをアッサリできるか。

 予想して、心構えができていた。

 つまり俺はまだまだ結菜の手の平の上で転がされてるって話で、、、ああ、こういう感覚が大嫌いなんだよ。


「んっ……んぶっ……じゅる……れろ……。」


 わかった。手の平で転がされてやるから、好きなだけ飲んどけ、よっ!


「ん゛ん゛っ!!??」


 おらっ!

 これが美味いんだろ!?


「ん゛っ! ん゛っ! ん゛っ! お゛! う゛っ! ん゛っ!」


 咽の奥、いつもよりずっと深く抉るために手で押さえつけるだけじゃない。

 俺も腰を振って、結菜の顔に腰を打ち付けるように一物で咽の奥の擦っちゃいけないところをグリグリと穿る。


「お゛え゛っ! お゛っ! ん゛っ! お゛え゛っ!」


 ずいぶん余裕なさそうじゃねえか!


 ハハッ、ハハハ! おらっ、どうだよ! 情けねえだろっ!!


 情けねえだろうがっ!!


 これがいいんだろ!?


 こんなのが好いんだろ!!??


 出してやるよ!


 あ――ぐっ!


「h゛っ!! ん゛ん゛っ! お゛え゛っ! ごっ! ――!!?? ~~~~っっっっ!!!!」


 ドクドクドクっ!!


 ああ、出る。すげえ、出る。

 結菜の咽マンコの奥に、叩きつけて犯してる。


「――h。んぐ、、、ゲホッ、ゴホッ……は、あ゛。」


 はぁはぁと、結菜は咳き込みながら浅く息をする。


 結菜が落ち着くまで、数分はかかった。


 顔を上げた結菜は、涙と鼻水でグチャグチャになっているのに、確かで真っ直ぐな目を向けてくる。

 それを直視できなくて、俺は顔を逸らした。

 俺は、いったい何をやっているんだ。



「何か、嫌なことでもあったんですか?」



 予想外のセリフ。

 結菜の声は、優しかった。


「晴彦さん、嫌なことがあったら、今みたいにボクで発散して欲しいです。」


 なんで俺を責めないんだ。

 結菜の声は、芯が通っている。


「でも、、、ボクで、傷つかないでください。ボクを使って晴彦さん自身を傷つけるようなことは、しないでください。」

「……結菜。」


 思わず視線を戻せば、そこには息苦しさで漏れた涙ではなく、抑えきれない感情で溢れる涙が零れている結菜がいた。


「何があったんですか?」


 これが、俺を手玉に取ろうとする女の声か?

 そんなバカな。

 じゃあそんな女を傷つけた俺はなんだ?


『かかりちょー、彼女さんをちゃんと労ってます?』


 黙れ山下、んなこたぁ、、、わかってんだよ。


「……何でもない。」


 その返答にしゅんとする結菜。


「……あ、じゃあ、ごはんに、しましょうかっ。」

「ああ。」


 なんて馬鹿な話だ。

 とんだ八つ当たりで、最低な気分だ。



   *** ***



 パサリ……パサリ。


 焦らすようなストリップショー。

 チラチラとこっちを振り向くから、流し目のような視線をくれている結菜。

 背中に手を伸ばして、ブラのホックを外す。

 見惚れるほどの、背中だ。

 スカートをあえて脱がないから、コントラストが際立って背徳感が増している。 


 結菜の裸は、綺麗だ。

 いまだ上半身しか拝んでないとはいえ、下半身がパイパンなのは触ったからわかっているし、それを抜きにしても、結菜の身体に文句をつけられる部分なんてないだろう。

 おっぱいはブラを外してなお垂れない張りがあるのに、触れば蕩けるように柔らかい。熟女のベチャッとした感触とは違う、10代の弾力もある。薄紅色の乳首はツンと上を向いて慎ましく主張している。

 まるで絵に描いたような、理想的なプロポーション。

 そんな極上の柔肌が、俺みたいなおっさんの部屋で惜しげもなく晒されている背徳感は、場違いなようでいて、絶妙でエロさを際立てている。


「晴彦さん……。あ、あ~ん♡」


 そんな結菜は、今日も恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしながらも健気に俺の劣情を掻き立てるために頑張っている。結菜は本来、こんなことを素面で出来るほど大胆な性格じゃないだろう。だが、おそらく好きな人が望んでいるであろうことは、自分の恥ずかしさを超えて行動に移せる。


 だから、恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしながら、経験豊富な泡姫の真似事をする。

 今日はおっぱいを両腕で下から抱えて、二の腕で挟んで強調した前かがみのポーズ。しかも舌を少し出しながら口を開けて、さも突っ込んで欲しいとばかりに「あ~ん♡」なんて言いやがる。

 パイズリか、フェラか。

 顔を真っ赤にした結菜が作る、性欲に対する暴力的な光景。


 しかし、そのチグハグさによる異様なまでに背徳的な光景は、逆に小悪魔的な計算高ささえ邪推してしまう。

 ゴクリと、ツバを飲み込む。

 小悪魔だったら結菜は相当エロいことになり、頑張っているなら健気さが半端ない。


「あ、あ~ん♡ あーん♡ ……?」


 結菜が、不思議そうに首を傾げている。

 結菜は控えめに言って絶世の美少女だ。ともすれば怜悧にさえ見えるほど整った容姿だが、それを全く感じさせないのは結菜自身がそれ以上に愛らしい性格だからだろう。


「どうしました? 晴彦さん? お口がいいですか? それとも、おっぱいがいいですか?」


 セリフの流暢さと比べれば、ありえないくらい顔が赤い。

 結菜は、勉強が得意だと言っていたか。

 何を教材に勉強したか知らないが、俺のために恥ずかしさを抑えている、か。

 俺が湯冷ましにバスタオル姿でいるから、いつも通り咥えに来た、か。


「結菜、おいで。」

「……? はいっ。」


 結菜は俺の言うことに躊躇わない。不思議そうな顔をしながら、つつつっと近付く。

 いつもは結菜が俺を押し倒していた。

 今日は、俺が結菜を抱きしめながら引き倒す。


「あっ。」


 ぼす……っ。

 ベッドに二人で倒れこむ形になる。


「どうしました、晴彦さ、」


 腕をついて、起き上がろうとする結菜を逃がさない。

 ぎゅっと、抱きしめる。

 そして、耳許で囁く。俺の弱点だし、結菜も開発したから弱点だろう。


「ありがとう。」

「へ?」

「好きだ。」

「え……?」

「結菜、好きだ。」

「…………/// は、ひぃ♡」

「さっきはゴメン。会社で嫌なことがあって、気が立っていた。」

「そ、んな。晴彦さんのイライラは、ボクで発散して、」

「結菜。」

「はい。」


「そんなこと、俺にさせるように言うな。」


「はいっ♡」

「それに、そんなことしなくたって、これから、いくらでも苛めてやる。」

「はひっ♡♡」


 結菜は終始擽ったそうに身を捩って逃げようとしていたが、それは許さなかった。

 結菜も観念したのか、身動きをしなくなる。

 それを褒めるように頭を撫でれば、結菜は嬉しそうに少し震えた。

 大切にする、か。

 久しぶりにそんなことを考えた。


 自分勝手だが、10歳くらい若くなったような気がした。



   *** ***



『しゃぶれよ。』


 そう言われて、ボクは嬉しかった。

 何でも出来るような気がする可能性と、先がわからない恐怖がいつでもボクには付きまとう。10代の当然の感情は、晴彦には無関係なものだと思っていたのに、違ったらしい。

 だからなのか、ボクは晴彦さんにアレをしろ、コレをしろと言われるのが嬉しい。


 もともと男だった意識だから、しゃぶれよなんて強引さ、傲慢な雄っぽいところに嫌悪感を少しでも覚えるかと思ったのに。


 だから、きっとボクは将来が怖いんだと思う。

 先を知っているから、怖くないと思うのと同時に、知っている分だけ怖いとも思う。

 ようやく感情が意識に馴染んできたと思ったら、やっぱり10代の結菜の感情は、壊れたジェットコースターみたいだ。


『よいしょ、っと。……晴彦さん。』

『なんだ?』

『いただいちゃいますね?』


 あ。


 見上げた晴彦さんが、すごく怖い顔をしていて、、、ボクは瞬間で切り替えて、それに気付かないフリをして、いつも通りにおっきな晴彦さんを飲み込んだ。

 いつもよりずっと匂いが強くて、洗っていないおっきな晴彦さんは、ヌルッとしてボクの口の中をいつもより激しく汚し尽くした。


 たくさん咳き込んで、それでも零さないようにして手に着いた精液も全部舐めとった。


『何か、嫌なことでもあったんですか? 晴彦さん、嫌なことがあったら、今みたいにボクで発散して欲しいです。』


 見上げた晴彦さんは、思いつめたみたいな悲壮感が表情に少し滲み出ていて、見ていられない。


『でも、、、ボクで、傷つかないでください。ボクを使って晴彦さん自身を傷つけるようなことは、しないでください。』

『……結菜。』


 こういう時に頼られて、支えられる女の子に、ボクはなりたい。

 そのために晴彦さんの激情を受け止めろと言うのなら、そうするよ。


『何があったんですか?』


 ボクの言葉に気難しそうな顔から、一瞬、逡巡するような色が見えた。


『……何でもない。』


 教えてはくれなかった。

 でもね、それでヘコたれちゃうのはボクのわがままだから、ヘコむわけにはいかないよね。


『……あ、じゃあ、ごはんに、しましょうかっ。』

『ああ。』


 教えてくれるのを待ってますよ?



   *** ***



 だなんて思ってたけど、ボクは積極的に晴彦さんを支えたい。

 ボクにできることなんて限られている。

 それこそ、身体と気持ちを使って晴彦さんにご奉仕するのだ♡


 正直、すっごく恥ずかしい。


 薄い一枚だとしても、ブラウスを着ているのとそうでないのでは差が大きい。

 服を着た状態でフェラチオをするのは、だいぶ余裕がある。

 何もしなかったとしても、服を脱ぐのは恥ずかしい。


 だから、見られてると思うと、どうしても背を向けてしまう。

 向けてしまうから、お願いだから晴彦さんの方を向くように命令してほしい。結局のところ、ボクは晴彦さんの言いなりになりたい願望がある。

 それは晴彦さんがあまりボクに注文を付けないからか、ちょっと前までの晴彦さんの思考判断を知っているから、晴彦さんが突然いなくなってしまうような気がするからか。


 ボクは晴彦さんが持っているDVDのAVの女優さんの動きをトレースするように、おっぱいを支えてエッチなポーズで晴彦さんを誘う。


「晴彦さん……。あ、あ~ん♡」


 どうどう? 襲いたくならない?


 ?


「あ、あ~ん♡ あーん♡ ……?」


 ?


 あ、あれ?

 晴彦さん、どうしたのかな。 


「結菜、おいで。」

「……? はいっ。」


 ボクは晴彦さんに言われることに疑問を挟まない。


「あっ。」


 だから、手を引っ張られて、ちょっと浮遊感があって、暖かな胸板に着地するっていう幸せな出来事も逃さない。直接、肌と肌が触れ合う。晴彦さんの温かさを感じて、ジワーって心が温かくなる。

 えへへ。


 でも、晴彦さん。どうしたんですか?

 そう思って頭を上げようとしたら、押さえられちゃった。

 えへへー。


「どうしました、晴彦さ、」

「ありがとう。」


 へ?

 耳が擽ったいですよ?


「好きだ。」


 え……?

 なになになになになになになになに!!!!!!??????


「結菜、好きだ。」

「…………/// は、ひぃ♡」


 だれかボクの頬っぺた抓ってみて!

 みみ、ひゃあっ♡

 え、でもなんで?

 声近いよー♡

 あでも嬉しい♡

 ていうか、え。

 ウソ。

 うん。

 うん。

 うん。

 わーっ。

 わー!

 うわーっ!


「さっきはゴメン。会社で嫌なことがあって、気が立っていた。」


 え、あ、うんそんなのはどうでもいいの♡ そんな、晴彦さんのイライラは、ボクで発散して、


「結菜。」


 はい。あなたの結菜ですよ。


「そんなこと、俺にさせるように言うな。」


 はいっ♡


「それに、そんなことしなくたって、これから、いくらでも苛めてやる。」


 はひっ♡♡


 きゃあー♡

 苛めてやるですって!

 苛めてくれるんですって!

 わーっ♡

 えへへー♡

 わーいわーい♡

 やーん♡

 えへへー♡


 これはもう! いっぱいご奉仕しなくっちゃ。


「晴彦さん、晴彦さんっ♡」

「どうした?」


 晴彦さんも顔真っ赤だよ? 可愛いー♡


「あのあのっ♡ ボクのおっぱいとか、揉んだりします? あ、吸ったりします? それとか、」

「結菜。」

「はいっ♡」

「別にいい。」


 え、なんで?


「そんなことしないで、このままでいい。」


 おっきな晴彦さんは、おっきなままですよ?

 いいの?


 ボクは、凄く幸せだ♡


 晴彦さん、ぬくぬく―。


「結菜。」

「はぁい♡」

「大切にするから。」

「はぁいっ♡」


 知ってますよー♡


「ねえ、、、晴彦さん。」

「ん?」

「せーし、飲みたいなあ♡」

「……は? あ、いや、不味いだろ?」


 ううん。


「美味しいものって、食べると嬉しくなるじゃないですか。」

「……ああ。」

「比べると、チーズとか、納豆とかって、美味しいっていう人と、不味いーっていう人がいるじゃないですか。」

「ああ。」

「癖が強い食べ物って、たぶん本当はあんまり美味しくないんだと思うんです。」

「?」

「だけど、美味しいかも? って思って食べてみて、受け入れちゃって、もっと美味しいかもって思っちゃって、それで食べて嬉しくなっちゃうと、もうそれは美味しい食べ物になっちゃうんじゃないかって、思うんです。」

「ああ。」

「ボクにとって、晴彦さんが咽の奥に射精してくれるのって、すごく嬉しいことなんです。」

「……そうなのか。」


「だから、晴彦さんがいっぱい出してくれる精液の味も、嬉しいから美味しくなっちゃったんですっ♡」


 ねえ。


「ボクに、晴彦さんのせーえき、飲ませてくれないですか?」


 晴彦さんの心臓が、ビクンって躍った♡

 ホントウは、咽の奥に射精してくれるくらいボクを求めてくれたり、今みたいにえっちなことを言うとボクを襲いたいって思うでしょ? そういう感情をボクに向けてくれてるってわかるのが、すごく嬉しいんだよ。

 かわいーもん♡


「苛められたいのか? せっかく、、、いや。」

「晴彦さん、我慢はよくないですよ。」

「じゃあ、しゃぶれよ結菜。」


 ゾクソクっ♡


「はぁいっ♡」




 今日の精子は、今までで一番美味しかったし、なんだか量も増えたような気がした。

 量が増えているのは、ボクが精が付きそうなものをこっそりいっぱい作っているからかな?



   *** ***



 はぅ、晴彦さん、カッコよかったぁ。

 好きだ! ですって!

 もうっ♡ もうっ♡


 あーもうっ!


 なんで生理かな! オナニーも出来ないよ! 不衛生だし汚れるし!

 あと明日実力テストだし!


 はぁ。勉強しなきゃ。


 あ、あと、そうだ。

 今週末は晴彦さんの脚のギプスも取れるし、そろそろ晴彦さんのリハビリを始めましょうか。

 今週末の診察で異常がなければ、たぶん来週末に腕のギプスも取れる。

 だから、来週末に晴彦さんにボクの処女を破ってほしい。できれば生で、中出しで。ボクは最短で晴彦さんを幸せにしたいから。

 それにはそもそも生のセックスをする下地を作っておかないと、土壇場で晴彦さんにゴムを着けられちゃう可能性もある。


 だって、ボクのこと大事にしてくれるって言ったし。

 えへへ♡


 捨てたから、もう晴彦さんの部屋にゴムはないんだけど、ないからエッチしないとか言うかもだし。だから、エッチっぽいことして慣れておいて、エッチする流れを作っておけば挿入するとき、生にしてほしいってボクがいうのも拒まれなくなるよね?

 一週間、焦らして焦らして、それで思いっきり激しくしてもらう。

 うん。

 ちょっと、怖い。

 この前、指を入れてもらった瞬間、最初のひと差しは一瞬だけ痛かった。すぐに馴染んで、変な感触のところを気持ちいいって思うようにしたら、本当に気持ちよくなって、頭が真っ白になりかけちゃったけど、それでもやっぱり処女喪失は痛いんだと思う。


 しかし、ボクはそれを思いっきり痛くしてほしいって思ってる。

 晴彦さんの全部が欲しいから、あとでいくらでももらえる優しさよりも、初めては痛い方がいい。

 それに、最初から激しいのでも大丈夫って晴彦さんに態度で示さないと、晴彦さんは遠慮して思いっきりセックスできない。


 うん。


 だから、晴彦さんの意識をちょちょーっと誘導するのもかねて、今週末からリハビリを始めよう。

 つまり素股をするってことだよね。

 当然晴彦さんも素股をメインに扱ったAVを持っているから、それを持ってきちゃった。

 これでいっぱい勉強しよう。そうしよう。








~to be continued~