エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜





「ふあぁ……っ。」


 女の子座りで、ぐぐーって伸びる。

 おはようございます。とここにはいない晴彦さんに心の中で挨拶する。


 どう? かわゆい感じだった?

 襲いたい? そんな感じだった?


 そんなことを心の中の晴彦さんに聞く。

 うーん。でもやっぱり晴彦さんの方が後に起きるんだよね?

 それにボクのキレイの努力を続けるとなると、朝起きた後に体操とかしないといけないし、晴彦さんのご飯だって作らないと。

 でも、起きぬけのネボスケ晴彦さんに布団の中に引っ張り込まれて、ボクは抱き枕にされて「あと5分。」とか言われて、二人で寝坊したい衝動もあるんだよね。


 ボクが起きるときは隣に晴彦さんがいるのに、晴彦さんが目覚めたときにボクが腕の中にいなかったら、寂しいよね?

 やっぱり今みたいに先に起きて全部終わってから晴彦さんを起こすことになるんだろうな。


 だとすると。


 この一週間、無意識でも出来るように頑張って可愛い起きぬけを研究したけど、、、披露する事はない!?


 え。ショック。


 まあでも練習しておいて無意味って事はないよね。他にも日常の可愛い仕種とか勉強して、晴彦さんをドキッとさせたい。

 ボクばかりドキドキしてる気がするし。

 なんだか不公平。



    *** ***



 ボクは待ち合わせに向かいながら、ちょっとうんざりしてた。ボクが美少女なのを自覚しちゃうのは、やっぱり男性からの視線を感じてしまうからだと思うんだ。

 すれ違う瞬間に、顔とか胸とか、そのあと背中を追うような視線。

 前の方、遠くから顔も胸も腰回りもフトモモ辺りも舐め回すような視線。

 ちりちりする視線や、もわっとする視線。熱かったり、ネットリしたりする視線。

 周り中、視線だらけでボクは、辟易する。


 待ち合わせを駅前にしたのが間違いだったかなあ。


「おっ、ゆいっ。」

「あ、初香っ。おはよー。」


 初香はイメージ通り、ショートパンツルックで元気いっぱいな出で立ちだ。脚を惜し気もなく晒してる。ブラウスを着崩して、お腹で片結びにしてて可愛い。ブラスバンド部なのに、肌が薄く焼けているように見えるから、初香のアウトドアで健康的なイメージを強くする。それに、カラフルな手足のネイルや大きめでキラキラしたアクセサリーも相まって、初香はギャルっぽく見える。サングラスを胸元に引っ掛けて揺らしてる。なのに初香はめっちゃ親切だし、電車でお婆ちゃんに席とか譲るからギャップも良い。流行りのバッグが少し重そう。


 隣には7分丈のスラッとしたデニムパンツに、緩めのTシャツ姿というラフな恰好の麗がいた。襟刳りからブラひもが見えてるけど、あれは見せひもだね。シンプルな革っぽいバッグで凄くお姉さん感がでてる。足元だって初香とは正反対でインヒールスニーカー。アクセサリーも落ち着いたイヤリングと可愛い腕時計だけ。髪型は初香と麗、二人ともボブカットなのに、初香はフワッとしてて、麗は落ち着いてる。指先もケアしてコートしてるくらいかな?


 二人が対照的な印象なのはメークも違うからだ。初香の方がずっとカラフルだ。


「もう麗も来てたんだ。おはよ。」

「ゆい、いつもより気合い入ってね?」

「確かに、そんな感じがするね。」

「そ、そうかな? 初香、麗?」


 ボクは、このあとお義母さんが待ってる晴彦さんの部屋に行くから、昨日よりずっとずっと清楚系を極めたみたいな服装になってる。

 今朝、洋服を並べてどうしようってすっごく悩んで、いつの間にかピアノの発表会みたいな服を選んでた。というか、やっぱりボクの好みと晴彦さんの好みの最大公約数を選んでた。そこまでキッチリしたドレスとかじゃないけど、それでも気合い入ってるって言われるくらいには清楚系お嬢様スタイルだ。レース飾りがの襟に付いてるワンピースだし、落ち着いた色合いできめ細かいカーディガンだし。ヒラヒラしてる。そう思ったら、そういうメークになったし、アクセサリーは腕時計だけ。足元はパンプス。バッグは凄く小さいポーチみたいなもの。細い紐で肩掛けだけど、中身なんて殆ど無い。


「その恰好ならどこでも行けるよ。私はドレスコードありそうなところは無理。」

「うんうん。」

「まあ、初香はビーチとか似合いそう。っていうかそのミュールいいね。シックな感じで使いまわし出来そう。」

「でっしょー? でも、そう言うゆいだって帽子とか被ればビーチに行けるだろ?」

「あー、靴がミュールとかサンダルとかだったらねー。」


「わっ!」


 というのは驚かそうとしたワケじゃない奈緒だった。

 ボクたちが揃ってたから急いできて、転びそうになってる。


「急がなくていーよ。」


 ボクたちは奈緒を迎えに行く。

 奈緒は立ち直りながらピースしてる。

 ボクたちの装いの中では一番女子高生っぽい。ゆるふわでフリフリのボーダー柄Tシャツに萌え袖カーディガン、それに紺のキュロットかな。サイハイソックスと編み上げのシック過ぎないブーツ。がま口リュック。髪の毛もモフモフでクルクルとカールさせて、でも前髪をすべて上に上げてピンで留めて、おでこを晒してる。可愛い。奈緒の大っきな目がめっちゃ活きてるメーク。


 そんな奈緒は、一番近かったボクにピースを見せ付ける。

 ?


「二回した。まだ変な感じ。」


 な――。

 ボクだけに聞こえるようにボソッと、奈緒は言ってすれ違った。


「麗も初香もおはよー。」

「おはー。」

「おはよう。」

「……何してるの、ゆい?」

「あ、あはは。何でもないよー。」


 なんて爆弾を投げ込むんだ!



   *** ***



 ボクは、絶賛不機嫌中だった。


「勿体ないじゃないじゃないですか!」


 手振り身振り、説明するのは芸能プロダクションの板橋さん。

 いつも、ボクは芸能界なんて興味ないなんて言ってるのに、どこからか現れてスカウトの口上を垂れる。初めの一回からずっと路上で断ってきた。そしたら今回、なんだか偉そうな人を連れてやって来たのにビックリして、素気なく追い払い損ねている内にみんなでカフェに来てしまった。

 ただ、板橋さんがボクに投げかける視線は、まるでカナダくんみたいに熱っぽく、ボクは板橋さんがボクに恋してるのかと思った。……たぶん、これは純粋なファンの視線だと思う。それもあって、ビックリしちゃったから、こんなところに来てしまった。


「北村さんもそう思うでしょ? このルックス、プロポーション、キャラクター。ね、君ならどこにでも出せる自信があるよ。女優だって、アイドルだって、モデルだってなんでも。」


 さっきから北村さんは、うんうんと頷くばかりで胡散臭い。胡散臭いというよりは、気持ち悪かった。今までボクが受けてきた視線の中で最もねっとりとしていて、それでいて寒かった。

 頭の天辺から爪先までジロジロと視姦されてる、と鳥肌がたったのに、それ以上にボクがいくらで売れるか値踏みするような、ボクの身体に値段をつけているような視線がとにかく気持ち悪かった。

 でも貰った名刺は板橋さんと同じ有名なプロダクションの物だし、前に板橋さんが本当にプロダクションの人なのか問い合わせたら、本当だった。たぶん、北村さんもプロダクションの人なのは間違いないと思う。


「この前会ったときよりずっと輝いてるし、カリスマも上がってる。このまま芸能界デビューして、もっと磨いてみたりとか、、、どうかな?」


 板橋さんは本当にしつこかった。

 思えば一年以上声をかけられている。といっても多くてひと月に一回だから、そこまで迷惑に思ったこともなかったし、ちょっと強めに断れば帰ってくれたから、ここまで不満になることもなかった。

 今日は、どういうわけか凄くしつこい。

 たぶん北村さんっていう偉い人がいるからだな。

 というかこういうのって、本人が断ってたらあっさり引き下がるって思ってたのに、なんでボクにこだわってるんだろう。


「板橋さん。ボクはずっと断っているじゃないですか。ボクは芸能界とか興味ないんです。女優とかどうでもいいんです。」

「そんな! 勿体ない!」


 この世の終わりみたいな顔をする。


「だいたい、なんでボクがテレビに出ないといけないんですか?」


 ああ、しまった。

 ちょっと興味のありそうな事を言ってしまった。


「結菜ちゃんみたいな子は僕らの業界にとっても財産なんだ。それをみすみす逃してしまうのは、僕も心が苦しいんだよね。」


 あっ、と驚いて見せる。


「それにね? ちょっと所属してもらうだけでいいんだ! レッスンが、とか、仕事がいっぱいで大変だ、とか、全然そういんじゃなくて、それこそ結菜ちゃんとも相談して無理の無い感じでお仕事してもらえれば僕らも嬉しいし、、、結菜ちゃんだって雑誌のモデルとか、興味ない? それなら、ひと月の中で休日を1日か2日かバイト感覚で参加してもらうだけでも大丈夫だよ?」


 うん。


「無いです。」

「バッサリかー。」


 ここら辺が潮時かな?


「それに、今日はボクたちも用があるので帰りますね。板橋さん、カフェモカ。ごちそうさまでした。」


 初香たちは終始関係ない顔で座ってもらってた。


「ねえ、結菜ちゃん。」


 ふと、北村さんが声をかけてきた。

 ボクは、咄嗟に胸を庇ってしまった。視線が胸にまとわりついて、離れないような錯覚だった。

 遅れてふつふつと腹が立ってきた。

 なんでこういう人達って妙に馴れ馴れしいのかな。


「なんですか?」

「結菜ちゃんは、テレビの都合に合わせるのが嫌いみたいだけど、テレビが結菜ちゃんの都合に合わせるなら出てみる気はあるんだ?」


 不思議な疑問形。


「無いです。」


 ボクは、にべもない。


「そういう済し崩し的に、っていうの、本当に大っっっ嫌いなので。」


 ごちそうさまでした。

 いーっだ!



   *** ***



「いや、ほんっとゆいってばスカウトにキビしーよね。」

「だって、ホントに興味ないもん。」


 初香たちが割りと素直に黙っていてくれたのは、これが初めてじゃないから、だけじゃない。前に初香がテレビに出れるかもしれないってはしゃいでボクが怒ったから。

 それ以降は黙っていてくれるようになった。


「それにしても、やっぱり結菜は美少女だって思われてるんだよね。」

「うんうん、ゆいは可愛いよね。」

「え、そんなことないよ。麗だってカッコいいし、奈緒も可愛いよね。」

「私は?」

「初香は初香だよっ。」

「なんだよそれー!」

「あははっ。」


 ボクたちはさっきまでの空気が嘘みたいにはしゃいだ。

 そうしてボクたちは予定通り、カラオケにやってきた。


 セルフのドリンクをテーブルに置いて一息吐く。


「ご飯とかどーするー?」

「あ、パンプディングだって、パンすっごい分厚いんですけど。」

「普通にフライドポテトとか頼む?」


 ボクたちは食事も充実してるカラオケで銘々に好き勝手言い合う。


「え、そっち? ゆいってば揺らぎないね。」

「だってボク、甘いの好きだもん。」

「"もん"って。ゆいが言うとサマになってるから、からかえないじゃん。私が言ったらギャグだよ。」

「ね、そうだよねー。今日だってまた結菜狙いのスカウトが来てたし、二人に増えてたし。」

「え、またその話? ボクはテレビとか嫌だよ?」

「まあそれだけゆいが可愛いってことだよー。」


「確かに。高校一年の時、ゆいと会って美少女過ぎてビビったし。」


 初香が神妙に頷いて言った。


「あはは、なにそれ。」

「あ、でもわかる。」

「でっしょー? 私とか、場所によってはナンパとかマジウザいんだけど、ゆいと一緒だと一切来ないんだよね。あれってゆいが高嶺の花? 過ぎて話し掛けられないっていうか。」

「うんうん。ちょっと手が届かないレベルの可愛さだよね。」

「スカウトの人は原石って言ってるけど、もうすでに普通の芸能人とかより可愛いって思うし。」


「ちょ、ちょっとー。そんなに煽てても何も出ないよー?」


 てれてれ。


「そんなゆいに彼氏が出来たって聞いたら死者が出るレベルなのに、それが36歳だと言うじゃないですか。」

「そこんところ、どうなの結菜?」


 そうきたかー。

 初香も麗もノリノリだよっ。

 確かに、聞かれたくないこと話すからカラオケに来たんだけどさー。

 歌おうよー。

 奈緒がいそいそとボクからマイクを取っていく。


「どうなの? って?」

「んー? 私らが知ってるのって、ゆいの彼氏は36歳のサラリーマンで、先週の事故で助けてくれたことで、ゆいが落ちたくらいの情報しかないじゃん? ああ、あと名前が望月晴彦さんっていうくらい?」


 うんうん。と頷く奈緒と麗。


「それだけ聞く限りじゃ、ゆいって割りと惚れっぽいというか、ぶっちゃけ何ヶ月で別れんの? ってレベルじゃん? え、なにか弱みでも握られてるの?」

「そんなんじゃないよ! 晴彦さんのこと――、」


 ボクは安い挑発に乗ってあげることにする。


「本当に、昔から好きだったんだから。」


 かかったと自慢げな初香の顔。


「なにそれ、それは初耳だね結菜。」

「そこんところ、くわしく、ゆいっ。」

「くわしくくわしくー。」


 麗も初香も奈緒もなんなの!?


「わかったよーっ! でもとりあえず麗は注文してよ。」


 ボクは、降参するフリをする。

 でもボクは希埼家の女だぞ。惚気させたら凄く長いんだ。

 麗が注文を始めたあたりで話し始めるから、麗が「ちょっ、」とか焦ってる。


「晴彦さんはね、スポーツマンなんだ。ボクって、たぶんそそっかしいところがあるんだと思うんだ。小さな頃にもこの前みたいに晴彦さんにね、助けてもらったことがあって。あ、でもスポーツマンって言っても、ゴツゴツした感じじゃなくて。身長も結構高いし、ガッチリしてるし、体重もボクの3倍くらいあるけど、どちらかというと爽やか系? なのかな。」


 ねえねえ聞いてよ。


「会社は有名なメーカーで、企画部の係長なんだよね。なのに昔からボクと遊んでくれてね、晴彦さんが20代の頃から土日とか、公園で。別に約束とかしてなかったのに、ボクが寂しそうな顔してたからって、何度も公園に来てくれたし。……その所為でロリコン呼ばわりされちゃってたけど、違うんだ。その時は彼女さんもいたし、その人も遊んでくれたし。でも段々疎遠になっちゃって、ボクも中学生になって会えなくなって。」


 ボクはそこで一旦区切って、溜めを作る。


「先週、また助けてもらってね。あ、これは運命なんだなって思ったんだ。

 運命なら仕方ないよね? ボクが晴彦さん――」


「ストップストップーッ!」


「え、なんで?」

「いや、不思議そうに小首傾げて可愛いけど、ゆい。……ぶっちゃけもう十分ご馳走さまだって。」


 そう?


 でもみんな頷いてるし仕方ないか。

 続きはまた今度ね。


「じゃあさ、ボクの話は置いといて、奈緒の話を聞きたいな。」


 今朝、唐突に2回した宣言でボクをビックリさせた仕返しだ。


「え? なにそれ。」


 やっぱり初香は初耳って顔してるし、麗もそう。

 そして奈緒は恨めしそうにボクを見てる。

 でもさ、今週学校でボクを問い詰めて吐かせたのって奈緒じゃん?


「奈緒にも彼氏が出来たっていう話。」

「ウソッ!?」

「ホントだって、ねえ、奈緒?」


 ニッコリ。


「……ホント。」

「マジ、か。」


 そして項垂れる麗。


「リア充、手を挙げてー。」


 はーいっ。

 麗以外が手を挙げる。


「よくわかった。みんな絶交だよ!」

「まあまあ。」

「落ち着いてよ麗。」

「そうそう、ボクとしてはまず奈緒にも事情聴取が必要だって感じてるんだ。」

「それな。」

「……そうだね。奈緒、誰?」


 こわっ、麗、顔怖すぎるよ。


「年下。」


 そして奈緒はもっと情報を出したらいいと思うんだ。

 ボクは睨まれてるから目を逸らすけど。


「うん、で、誰?」

「幼馴染みの中3。」

「ちょっ!? 年下にしてもそれは、、、犯罪じゃない?」

「ん? 大丈夫じゃない? ボクと付き合ってる晴彦さんは通報されたら捕まるけど。」

「え、ゆい、マジ?」

「マジマジ。」

「……そっちも気になるけど今は奈緒っ。いつからだよ?」


 相変わらず恨めしそうにボクを見てるけど、奈緒は素直に答える。


「昨日から。」

「うっわ。出来立てホヤホヤじゃん。え、じゃあ昨日デートしてそれで?」

「ううん。あっちは受験生だし、勉強とかしないといけないから、家の近くの公園とか二人で歩いて、そのあと私の家で告白された感じ。」

「ぅわーっ、うわーっ。いいじゃんっ! ちょー甘酸っぱい!」


 ホント、そう思う。

 こういう話題は麗も大好物だけど、前も恥ずかしいって赤くなって耳を欹てるだけだ。前は、初香がヤキモキしながら付き合うまでの過程を一緒にハラハラ見守ったっけ。


「あー、いいなー。いいよね、そういうの!」

「何言ってるのさ? 初香の時よりはすんなりしてるし、というかあの時、初香が慌てすぎてボクらめっちゃ振り回されたし、たぶん甘酸っぱさで言えば圧倒的に初香の方が上じゃない?」

「あはは、そうなんだけど。」


 初香は暑そうに手をパタパタさせた。

 ボクたち4人は1年生の頃から同じクラスだった。今でこそ初香とボクたちは一緒に遊ぶことも多いけど、半年よりちょっと前くらいまでは一人欠けたみたいになってた。初香は彼氏が出来て舞い上がって、何もかも彼氏優先にしてボクたちと一気に疎遠になった。女子の友情の脆さを知ったよね。

 でも、桐ケ谷くんはそんな初香に何て言って窘めたのか、バレンタインをちょっと過ぎた後から、初香が帰ってきた。


「レンとはそろそろ1年になるんだけど、さすがに毎日が初恋みたいな小学生向けのマンガじゃないから、時々レンにドキッとするけど、ずっとじゃないし。私、付き合う瞬間みたいな話大好きだし!」

「あっそ。」

「何て言うか、こう、、、友達と彼氏って気安さが違うじゃんか。友達とか、弟みたいに思ってた年下の幼馴染みとか、そういう相手が自分の中で一緒にいるだけで緊張する相手になっていくのって、ドキドキするじゃんかー。」

「何を熱く語ってるのさ。めっちゃわかるけど。」

「私は今は緊張とかそういうのからちょっと抜けて、ジワジワ素の感じになってきたかな? でもやっぱり彼氏と友達って違うじゃん? 友達ならぞんざいに扱っても大丈夫じゃん?」

「え、そんなふうに思ってたの? 絶交しよっか。」

「待って、ちょっと待ってゆい、大好きだから。」

「許す。」

「うん、でさ。彼氏だとぞんざいには扱えないし、そういう意味ではちょっと息苦しい? のかな。みんなと一緒に遊んでる方が純粋に楽しいし。彼氏と四六時中いても、気を使ってばかりで最後は鬱陶しくなったりするような気がするし。」


 あっ。

 ズキッと言葉が刺さった。

 ボクはもしかしたら晴彦さんに息苦しい思いをさせていたのかと、気付いてしまった。

 昨日、お義母さんに感じさせてしまったような息苦しさを、晴彦さんは感じていたのかな。


「――ってか、私の話とかどうでもよくて! 奈緒の彼氏だって!」

「話、逸らせなかった。」

「昨日から、って言ったじゃん?」

「うん。」

「公園とか行って、なんでそこじゃなくて、奈緒の家に行ったんだ?」


 珍しく、初香が冴えていた。


「…………から。」

「ん?」

「だから、ゆいに言われたアドバイスをやったからっ!」


 奈緒が、ヤケクソになった。


「もうっ! なんでゆいはバラすかな。もういいよ。全部話すよ。もおーっ。」


 そこで一旦区切って、それで顔が真っ赤になる。


「告白されたのは一週間前なのっ! で、私が答えを待ってもらってて、ゆいにどうしたらいいかなって聞いたの。そしたらゆいが、、、エッチすればわかるんじゃない? なんて言うから2回したって話っ! すごい痛かったのに2回したいっていうからしてみたの!! それだけっ!」


「……うん。なんかごめんね。」


「謝んないでよ。」

「だって。」

「初香。私は別に、辛かったわけじゃないし、辛いわけじゃない。昨日、気晴らしに散歩に誘って、アイツのこと考えながら一緒にちょっと歩いたの。そのあとバイバイしないで、家に連れてきて、私言ったんだ。付き合っていけるか試したい、って。それで、ゆいに言われた通り、アイツの性欲が無くなるまで好きにさせてみたの。」


 奈緒は爆発しそうなほど真っ赤で、相変わらずボクを睨んで喋る。


「キスして、ベッドでイチャイチャして、アイツ、中3でドーテーのくせにガッつかないように頑張って優しく触ってくれて、でも私が、いいよ、って囁いたら堪えられなくなって。ゴムが少し小さかったみたいで手間取ってたけど、、、そのあとも優しかったよ。……一度じゃ満足できなかったみたいだから、もう一回させたけど。」


 ボクも初香も興味津々。麗は息してない。


「そのあと、満足した? って聞いたら、満足してないって言うから、もう一回したいのかなって思ったら、これで諦めろとか言わないよな、って不安そうな顔するんだもん。私、処女あげたのにアイツは捨てられるって思ったらしくって、バカじゃないの、って言ってやった。」


 そこで、息継ぎをする。


「アイツが私とセックスしたいだけじゃないかって、不安に思ってたのに、、、あの顔はずるいよ。」


 それっきり、奈緒は机に突っ伏してしまった。


「はぁ……。」

「頑張ったねぇ。」


 ボクと初香でよしよし頭を撫でる。


「撫でるなー。」


 だなんて言いながら、されるがまま。


「でもまあ、あれじゃん。奈緒、おめでとう。初カレじゃん?」

「そうだよ、奈緒。おめでとう。」

「ゆいは許さない。」

「ボクだって奈緒に突っ込まれて話さないといけなくなったし、おあいこだよ。」

「そぉ?」

「そうそう。」

「……ってゆーかさ。奈緒の彼氏って優しかったのに痛かったって、どんだけデカかったの?」


 え。


「その話する?」

「あ、ごめ、気になって言っちゃった。」

「マッキー極太。」

「……ウソ、だろ?」

「ホント。割かれるほど痛かったし、動いてないのにずっとジンジン痛かったし、そのあと違和感凄かったし。」


 初香が恐ろしいものを見たような顔になる。

 たぶん、桐ケ谷くんは極太ほどじゃないんだろうな。


「……そういえば、ゆいは?」


 は?


「だから、ゆいの彼氏さんはどれくらい?」


 うん、奈緒。

 ちょっと冷静になろうよ。


「いちおー聞きたい。」


 初香まで乗っかるし。

 うーん。

 ボクは口を開けて太さを確認する。体の縮尺が変わっちゃって、瞬間だとサイズ感がわからなくなる。


「なにやってんの?」

「……晴彦さんのはボクが思いっきり口を開けても、ちょっと足りないくらいだから、これくらい?」


 太さで言えば、5センチ以上はあるっぽい。


「は?」

「長さは、うーん、ちょっとわかんない。両手で掴んでも余るし。」

「さすがにウソ。」

「嘘じゃないよ。ボクは嘘はつかないじゃん。」

「でもだって、それ、、、挿入るの?」


 顔真っ赤だけど、女子的には切実な問題だ。


「どこまで?」

「全部?」

「ノーコメントで。」

「あー、うん。」

「うんうん。」


「だあーーっっ!!!! なんなんだよもうっ!! 奈緒も初香も結菜も!!!」


 麗が息を吹き返した。


「さっきから……スの話、とかさ! なんなの!? もうなんなのっ!?」

「どうどう、麗落ち着いて。」

「そうだぞ、早く彼氏でも作れば解決する話だぞ。」

「初香黙れ。」

「はいよー。」

「ああもうっ、カラオケ来て歌わないのがいけなかったんだ! 歌うぞ!」


 やけに気合を入れて曲を入れる。

 最近流行りのドラマのエンディングテーマだ。

 どう聞いても不倫の歌詞なんだけど、ポップな曲調に紛れてごまかされてる。

 麗は、ヤケクソ気味に声をマイクに叩き付ける。


『留守番電話が2秒だけ 184なのは不思議だね って録音聞いて呟いた

 貴方は私に気付かずに ルーチンワークの毎日ね 言葉が届かずホッとする』


 麗の声は力強いアルトだ。原曲は歌手さんが淡々と歌っているから、麗みたいな歌い方とはミスマッチしやすい。なのに麗の声は、この曲に合っていた。前から麗は歌うのが上手い。

 ボクたちは、さっきまでのドキドキする会話の余韻も冷めてきて、なんて破廉恥なことを話していたんだろうって顔を赤くして見合ってる。


『そっぽを向いて抱いてくる 貴方に何度、あの人を 重ねて泣いたと思っているの?』


 麗の選曲は、図らずもボクらをもう一度赤面させて、なんだかモジモジしちゃう。それも収まると、ボクは麗の声を聴きながら、さっき初香が言っていたことを思い出した。


 四六時中、彼氏といると鬱陶しくなりそうな気がする。


 考えてなかった。ボクは、四六時中晴彦さんといたいけど、晴彦さんがそう思ってるかどうかは別だ。

 晴彦の知識の中に、誰かと四六時中いた記憶はない。


 ボク史上、初めての問題だった。


『貴方を好きになりたくて 忘れてしまったあの頃の 街並み見たくて外に出る』


 ボクの行動は、晴彦さんを息苦しくさせていたんじゃないか。

 そう思うとドツボにはまる。

 だって、お義母さんもボクと一緒にいて息が詰まってそうだった。いくらボクと初めて会ったからだとしても、ボクと一緒にいてお義母さんは休めなかったんだ。

 晴彦さんは長いこと一人暮らしだったんだ。生活リズムとかパーソナルスペースとか、変えたくないものがいっぱいで、ボクの入り込む余地なんて無かったんじゃないか。


『シワが残ったYシャツや ホコリが溜まった部屋の隅

 貴方に気付いてほしかった 貴方が気付かずホッとする』


 ああ、ダメだなあ。

 ボクがお世話したいからって、お節介になることを考えてなかった。


 麗は、何かを振り切るために振り絞るように歌うから、カッコいいんだ。

 麗は決してクール系じゃない。麗君と呼ばれていたのも、麗が不器用だから、熱くなると周りを巻き込んで盛り上げるような男子に似ているからだ。


 麗はカッコいい。


 ボクとは大違いだ。麗みたいに竹を割ったようなさっぱりした性格になれなくて、ウジウジお節介になってるかなってないか考えてしまう。


『私の心が綺麗だと 言ってくれたあの日から どれだけ月日が流れたら 汚くなってしまったの?

 私は自分が思うより ずっと悪い人だったのよ 貴方を裏切る指先に 指を絡めた共犯者』


 でもそれを言葉で確認することなんてできないから、晴彦さんをなるべく見てないといけない。

 今日から、晴彦さんに鬱陶しいって思われないように注意しよう。


『ごめんなさいと謝れないほど 私も言い訳くらい抱えてる

 私の不安を塗りつぶして 貴方の幸福奪ってる

 出来る限り長生きして 毒を薄めるみたいに 過ごそうよ』


 そういえば、麗が歌ってる曲って自分勝手だよね。ちょっとわかるけど。

 やっぱり麗が歌うと、曲の感じがすっごく変わって面白いよね。

 とかなんとか思ってたら歌い終わる。


「はぁー。疲れた。……次、初香ね。」


 コンコン。ガチャ。


「失礼します。」


 と、このタイミングでご飯がやってきた。


「……食べたらね。」



   *** ***



 ピンポーン。


 ボクはいつものように晴彦さんの部屋のチャイムを鳴らしてから玄関の鍵を開ける。晴彦さんもリビングのドアを開けるところだった。

 チャイムに気付いて来てくれたのかな? だったら、嬉しいな。


「いらっしゃい。」

「はい、晴彦さんっ。」


 これが「おかえり。」になるのはいつだろう。まだ一週間しか経ってないのにここまでもどかしいのは、あれかな。18歳までの体感時間とそれ以降の体感時間は同じとかいう名言の通りだからかな。

 とかなんとか思いながら、部屋の雰囲気が心なしか寂しいような感じだったから聞いてみる。


「もしかして、お義母さんは帰りました?」

「……ああ。」


 そっか。

 でも、そう思うと晴彦さんもなんだか少し暗い雰囲気。……何かに怒ってる?


 だから。


 ボクは晴彦さんに抱き着きたかったのに、伸ばしかけた手を躊躇って引っ込めた。。。

 それが原因で、なんだか変な間ができる。


「ご、ごはんの用意をしますね?」

「ああ。」


 じっと見られて、フイッと背を向けて行ってしまう。


 ボクは晴彦さんが遠くに行ってしまうような錯覚をしてしまう。

 その後ろを慌てて追いかけ――靴も脱いでないし、踵が引っ掛かってもっと慌てて脱ぎ散らかさないように揃える。

 振り向いたときには、晴彦さんはリビングに行ってしまった後だった。



 二人でずっと一緒にいると、気が休まらない。



 初香が言っていた。

 ボクはそんなこと気にならなかったから、気にしなかった。

 でも、晴彦さんはどうなのだろうか。

 考えてなかった。

 朝、寝ぼけてるところにいきなり他人が入り込んでくるのは嫌だったのかもしれない。夜、自分の帰宅より前に他人が家にいて、我が物顔で晩御飯を用意しているなんて気持ち悪かったかもしれない。お昼ご飯のためにお弁当を持たされるのも、我慢していたのかもしれない。

 一度そう思ってしまうと、そのことについて考えすぎてしまう。

 だから、ボクは一歩を踏み出せなくなってしまう。


 でも。


 晴彦さんが「ああ。」って頷いてくれたから、晩御飯は作れるんだって安心して、不安になって閉まったドアを開ける。


 お義母さんはけっこう食材を置いていってくれた。それとボクの知らない作り置きのお惣菜。レシピがダイニングテーブルに置いてあった。

 お義母さん、、、ありがとうございます。


 その中から一つ選んで作ってみる。


「いただきます。」

「……いただきます。」


 いつもより寂しげな食卓。きっとお義母さんが帰ったのだけが原因じゃないだろう。

 何に晴彦さんは怒ってるのかな。

 お義母さんに何か言われた? たぶん、そうだと思う。だとすれば、それはボクとの事だと思うし、機嫌が悪そうに見えるってことは、ボクとの関係で嫌なことを言われたんだろう。


 それが図星だったから、不機嫌なんだと思う。


 とはいえ内容が図星で、そしてボクとの関係を考えなくちゃいけないから、ボクにも余所々々しくなっちゃってるのかな。


 やだ、よ。


 だって、それは、晴彦さんがボクを振ることを考えてるってことじゃないか。

 表面上はただ静かなだけの食事なのに、ポツリと「美味しい。」って言ってくれたっきり。


 もしくは、ボクが何か怒らせちゃうようなことをしたのかな。

 でも「怒ってる?」なんて聞いたらダメ。怒ってないのにそう聞くことになるか、怒ってるのに理由がわからないと伝えることになるか。どちらにせよ、相手の気持ちを逆なでするだけだ。


 ボクが何かをしでかして、それで怒るなら、部屋に着いた時に、すでに不機嫌だったのと矛盾する。

 なら、お義母さんに何かを言われて、、、ああ。


 そっか。不機嫌に見えるのは事実かもしれないけど、それほど怒っているわけではないんだ。

 落ち着いて、ボク。


 あれは、考え事をしている所為でもあるんだ。


 そういえば昔、言われたっけ。「機嫌が悪いの?」って。大学生時代だったかな、晴彦さんは考え事に没頭すると不機嫌に見えるって、同じ研究室の同期に指摘されたことがあったっけ。

 うん。

 めっちゃ不機嫌に見えるよ。

 ボクが何かしたんじゃないかって不安になるくらい。


 でも、内容はボクとのことだろう。


「ごちそうさま。」


 色々考えてる内に、時間が過ぎていく。


「母さんが風呂を焚いてくれたから、入るよ。」

「あ、はいっ。ボクは洗い物をしてますね。」


 ボクは、無暗に明るく振る舞うことしかできない。

 洗い物が好きなのは精神統一に似て、単純作業の傍らでいろんなことを考えられるから。

 でも、今はそれが鬱陶しい。ボクは考えなくてもいいことや、悪いふうにばかり考えて、不安になっていく。


 ――ガチャ。


 あ。

 考え事をしていたら、もう晴彦さんが出てきた。


「麦茶です。」

「ありがとう。」


 お風呂上りに、汗を補う一杯。

 やっぱり、晴彦さんは普通に接してくれる。

 ただ、雰囲気が暗いというか不機嫌というか。


 やっぱり、疲れているのもあるのかな。


「10月なのに、まだまだ暑いですね。」

「ああ。」


 ボクは飲み終わったコップを受け取る。


「やっぱり、暑い方が疲れも溜まりやすいんですか?」

「……そう、だなぁ。」


 ふらふらと、晴彦さんはリビングの方へ行ってしまう。


「晴彦さん。ちょっと、疲れてます?」

「……? どうして?」

「だって、なんだか疲れてるように見えますよ? もしかして、ボクとかお義母さんとかが週末にずっといたから、疲れが取れなかったりしました?」


 やっぱり休日は一日中、一人でゴロゴロしたりまったりして過ごしたいよね。

 ボクがいると、だらけられないんだ。じゃあ、この辺で帰った方がいいのかなって思って、リビングの入り口の脇のフックにカバンを取って帰ろうかn


「行くな。」

「えっ?」


 グイッと、引っ張られて振りむ――、


 ――むにっ、ゴチっ。


 目の前にいっぱい、晴彦さんの顔があった。


 プチっと、ボクの中で何か潰れた気がした。

 ああ。

 バイバイ引っ込んでてよ、晴彦。



「□☆〇△×~~っっっっ!!??」



 え、あれ?

 引っ張られてそれで視界いっぱいの晴彦さんとぶつかって唇がぶつかって?


 え。


 うそ。


 まさか!?


「んゅ……。」


 んーっ!?

 き、キスしてる!?



 ふゃああぁ。



「んっ。」

「――ちゅ、あ。悪、」

「んゅううっ。」



 はるひこさぁんっ。

 キス、キースっ。



「んむ……、あむ。ちゅう。」



 キスっ、キスっ。

 ちゅ~っ。

 だいしゅきぃ……っ♡



「あむっ、んんっ、ふあっ、あふっ。んっ。んんぅ。」



 はふっ、あふっ。

 ボク、溺れそうだよぅ♡



「はぅっ、あふっ、ん。ちゅっぷ。」

「んっ、ふっ。んくっ――お、落ち着けっ。」



 はゃ? なんで離しちゃうの?



「んーっ!」

「待て、落ち着け、結菜っ!」



 わっ! おっきな声!


 あ、れ? ボク、何してた?


「は、い。」

「……落ち着いたか。」

「はい……、ごめんなさい。」

「いや、悪くない。悪くないが、少し、驚いた。」

「そうですか?」

「ああ、あんな顔に、なるんだな。」


 え?


「ど、んな顔でした?」


 その問いに、晴彦さんは「うーん。」と唸りだす。

 ちょっと考えて、気恥ずかしそうな顔になる。


「なんか、女だった。。。」

「え?」

「目の中にハートマークが浮かんでるかと思った。」


 そう言った晴彦さんはすごく恥ずかしそうだ。


「俺は、結菜に、そんなに求められるような、男じゃないぞ?」


 きゅんっ♡


 あああああもうっもうっなんでそんなに情けなさそうなこと言うんですかあっ♡♡♡♡♡

 ボクをキュンキュンさせてっどうしたいんですか!?

 なんですかなんですかっどうなっちゃうんですかどうしたいんですかっ!!??


「そんなことないです、むしろボクの方がこんな小娘で晴彦さんに釣り合わないって、」

「そんな馬鹿な。俺の方が、」

「うう~っ。」


 晴彦さんが、ボクを求めてくれてる。

 だから自分を卑下してるのに、卑下し続けてるのに、後ろめたいとか陰鬱な感じじゃなくて、申し訳ないとか気恥ずかしいとか、そういう感じになってる。

 なんで?

 だって昨日までそんなんじゃなかったし、さっきまで少し不機嫌そうだったじゃんか。


 でもどうでもいいよ♡


 だって、だって、晴彦さんがボクを求めてくれてる。

 それに、晴彦さん。そんなに卑下しないでください。

 ボク、知ってるんですよ?


 そう、ボクは知っている。晴彦さんの努力を。周りに見放されて、それでもコツコツと続けた努力。

 他所の課の後輩とかからの雑用も淡々とこなして、耐えてきた裏で進めていた電子化されていないデータの整理。それがどれほど会社に貢献することになるか、ボクならわかる。統計学と数理モデルを理解したボクだからわかる。あのデータベースは宝の山だ。試金石になるだろう。魔法のような、予言のようなことさえ出来るようになるだろう。


「ううー。」


 けれど、それを知っているなんて公言できない。もどかしい。独りで頑張った晴彦さんに、がんばたよね、偉いよねって、ナデナデすることも出来ない。

 今も晴彦さんは、自分を見下すような言葉ばかり並べ続けるんだ。


 ボクは、ボクの彼氏だとしても、晴彦さんを悪く言わないで欲しい。

 晴彦さんが凄いのはボクがわかってるし、世界一カッコいいのも知ってるんだ。


 でも。


 それを言葉にできない代わりに、ボクはボクを差し出せる。


「ねえ。」


 晴彦さんからすれば、棚ぼたみたいな気分でしょ?

 ボクみたいな都合のいい女の子が現れるなんて。

 だから、いつでも無かったことになって良いように、ボクを受け入れちゃダメだって思ってたんだよね。

 さっきから弱々しく卑下する言葉を並べてるのだって、悪あがきだもんね。

 それでボクが幻滅してほしいわけじゃないのに、そうなるのが当たり前みたいに、ぐるぐる考えちゃうんだよね。


 でもね。ボクは知ってるから。

 晴彦さん、誰にも言われてないのに頑張ったよね。意地張って、給料泥棒にはなるまいなんて嘯いて。

 あとは、会社創立当初の売上をデータ化して終わりになるくらい、全部ひとりで頑張ったもんね。


 だからボクはそんなふうに頑張ってる晴彦さんへのご褒美だよ。

 ボクがご褒美になるかどうかわからないけど、少なくとも晴彦さん専用の、女の子にはなれるんだよ。

 ボクには何をしてもいいし、そもそもボクは晴彦さんの今までを全部知ってるんだよ。


 それでも結菜は、晴彦さんのことがどんどん好きになっていっちゃってるんだよ。


 晴彦さんがどんなエッチなこと言っても受け入れるし、情けない姿を見せてもいいんだ。

 ボク、晴彦さんの都合のいい女の子になりたいんだ。

 それで晴彦さんがすっきりしたら、そのあと少し優しくしてくれるだけで幸せになれるんだよ。


「ねえねえ。」


 聞いてよね。


 ボクの身体は火照っていく。晴彦さんがヒーローに思えていくたびに、誇らしくなる。ボクの恋人は、こんなに凄いんだって自慢したいし、それをボクだけの秘密にしたいとも思ってしまう。

 そんなことを考えるたびに、ボクの身体は熟していく。晴彦さんを欲していく。


 ボクは、ボクの心も身体も、晴彦さんの100%が欲しい。

 ううん。押し付けてほしい。



 ボクの内、晴彦さんのおちんちんでずこずこーってして、いいんだよ?



 ボクの心臓まで貫いてほしいんだ。

 ――ドクン。

 ドクンドクンと、心臓が爆発しそう。


「は……るひこさぁん……っ。」


 はあ、はあ。

 ボク……蕩けてる。

 びっくりした晴彦さん♡ ボクの目の中にはハートが浮かんでるんだよね?


「きて。……ボクを、ここで食べて。」


 おねがいっ。


「助けて。ボク、暑いよ。晴彦さんがほしい。欲しいの♡ どうしたら治まるかわからないの♡ 晴彦さんっ♡」


 ボクってきっと美味しいよ♡

 ここで、押し倒して♡


 ボクから引っ張らないと踏ん切りがつかないの?

 ほらっ♡ この絨毯の上で良いの♡


 ぐちゅっ♡


 晴彦さんを引っ張りたくて、腰を落としたらアソコを突き上げるおっきな晴彦さんだぁ♡♡♡ 布越しにボクの内に入りたがってるのがわかるし、ボクも挿入れたいっ♡

 だって、押し付けるだけで少しめり込んでるんだもんっ♡♡

 おっきな晴彦さんも入りたいよーって、ビクビク震えてるよ♡♡


 でも、そのままボクは後ろに倒れ出すの♡

 ボクは押し倒されたいんだ♡


 あっ、晴彦さんの左手が背中に――えへへ、倒れたときにお尻を強くぶつけないようにしてくれる♡


 目の前、いいーっっぱいの晴彦さんっ♡


 ポフン、ほら優しいよね♡


 ボク、これから初めてを晴彦さんにあげられるんだ♡

 えへへ♡


 興奮してすっごいスローだ♡

 ぐぐーって晴彦さんが倒れ込んでくるよ。

 ゆっくりと、ずっしりと。


 晴彦さんに跨って縺れたボクの脚は、伸しか掛かる晴彦さんの脚にどんどん広げられていく。はしたないし、いやらしい♡

 晴彦さんの部屋着に撫でられたボクの内腿は、これからの出来事に期待して、衣擦れさえも快感の刺激に変える。

 ボクは、刺激に驚いちゃって、でも脚が閉じれない事に歓喜してる♡


 もうちょっと♡ もうすぐでボクのアソコにおっきな晴彦さんがぶつかるよね♡

 それで、邪魔なズボンを脱ぎ去って、突っ張ってるボクのショーツをずらして荒々しく、強引に差し込まれるのかな♡


 前戯とかないのは怖い、、、ううん、これは期待だ♡

 理性が飛んだ晴彦さんの性欲処理の道具として、処女が使われるんじゃないかって、期待してるんだ♡

 そこに痛みが伴うことで、晴彦さんの物になるって実感できるって思ってるから。


 いっぱい痛くても嬉しいんだ♡


 ぐにっ。


 ――あはっ♡




 ゴスッ。


「――うぐっ。」




 ――へっ?

 晴彦さんの急な苦い顔。


 一瞬の苦しそうな顔。


 なんで? なんでどうして!?


 あ。


 さっき、ゴスッて音が、――ああああっっ!!!


 ボクのばかぁあああああっっ。


 晴彦さん、勢いついた体重を支えたのって、右手ですか!?

 その衝撃が骨に響いちゃったんじゃないですか!?


「ああのあの晴彦さん腕が骨折した手で支えるから振り返しちゃったんですよねごめんなさいっ戻ってください大丈夫ですかううーっ!」


 晴彦さんを思いっ切り押し返してソファに座らせる。

 されるがままだった晴彦さんは苦虫を噛み潰したような顔で、右手を押さえてる。


 もうやだ死にたい。

 ボクの所為じゃんかっ!

 なんであのままボクからショーツをずらして腰を落とさなかったのかな!?

 せっかくのチャンスぅ!


「ごめんなさいっ。痛いですよね? 氷とか持ってきた方がいいですか?」

「大丈夫だ。」

「でも。」

「いや、一瞬だけで、もう痛みも引いたよ。多分、治りかけのところに衝撃を与えたから敏感なところに響いたんだろう。」

「そう、ですか?」


 じゃあ、なんでそんなに堪えるような顔なんですか?


「……もし、痛みがバレなかったら。」

「え。」


 ドクンっ。


「どうなっていた?」


 晴彦さんは、ぶっきら棒にプイッと顔を背けた。

 すっごくかわいい♡


「……美味しく食べて、くれましたか?」


 ボクも真っ赤な顔を見られなくてホッとしてる。面と向かってないから、晴彦さんの反応が可愛いから本音がポロッと零れる。


「今は?」

「治るまでお預けです。」


 ケガ人を追い込むようなことをしたってお義母さんやボクのお母さんに知られたらきっと、晴彦さんと接触禁止って言われちゃうと思うから。


「――だからだよ。」


 はぁ、残念だ。と下を向いて吐く溜め息に、そんな情けないハズの晴彦さんに――、



 ――ボクはキュンキュンしちゃった♡♡♡



「ねぇ、、、晴彦さん。」

「ん?」


 豹変したボク。

 すでにさっきの体勢に戻ってる。晴彦さんに跨がってる。

 今までの独り相撲はどこかに行っちゃった。

 だって、晴彦さんが求めてくれた♡ 思いっ切りして、いいんだって認めてくれたんだよねっ♡


「ん……っ」


 今度はボクからのディープキス。

 貪るように、ボクが食べる。


「ちゅっぷ……はあ、はぁ♡ ねえ、晴彦さん……ボクも、ボクも我慢なんて出来なくなっちゃった♡ だけど、お預けだから。こうするしかないの♡」


 ぐちゅ♡


 晴彦さんが左手を晴彦さんの腿の上に放り出してたから、その上に座る。

 左手の指が、トロトロになったアソコのクロッチ越しの敏感なところに当たるように、腰をくねらせる。


 あはっ♡

 クリトリスに擦れてきもちーよぅ♡ 


「ボクを、晴彦さんの手で、イかせて欲しいのっ♡♡♡ お願いします♡♡ 何でもします♡♡ このあといっぱいフェラチオします♡♡」


 だから。


「こんなボクを許してください、晴彦さんの指が欲しいの♡ ぐちゃぐちゃにかき混ぜてほしいの♡」


 なんでか涙が出る。


「イかせて、、、ほしいの……っ♡♡♡」







~to be continued~