エロ率分析 (α)

〜分析結果サンプル〜


 『11』


「うぉおおおおらぁあッ!!!」


 ホームランスイング。

 7、8人をまとめてカッ飛ばし、警官隊の作る結界内にシュート。

 バッター振りかぶってゴール、と考えて、クソピエロが前に似たようなこと言ってたな、と思い出す。


「――クソが!!!」


 吐き捨てて、"銀杖"を振り回す。

 棒高跳びの要領で背に乗ったはいいが、首元で"地這虎"の軍勢に阻まれている。

 汚らしい、しかし刃だけは煌々と輝かせる男に、"銀杖"を受け止められる。

 返しの刃を回避して、蹴り倒して結界にシュート、


「――く!」


 しようとしたところで、銃弾が飛んできたので回避する。

 40年近く準備してきただけあって、念入りだ。

 知られていない猛者がこんなにもいたのか、とちょっと新鮮な驚きに浸りたいところだ――浸れるものなら、だが!


「クソがッ、てめェらァああッ!!!」


 殴り倒す、蹴り倒す、シバき倒す。

 ――大ハイドラは、九つの首を持つ。

 尋常の生物とは大きく異なる生態を持っている。

 多頭竜にありがちなことだが、首それぞれの根元あたりに大脳があり、それぞれの頭部にあるのは補助脳だ。

 "同化"を解除するのに必要なのは、この大脳の解呪ももちろんのことだが、九本の頭もすべて解呪してやる必要がある。

 そうでなければ、解呪されていない場所から再度"同化"が始まってしまうからだ。

 九つの頭に向かう手筈は付いているが、この大脳上の攻防を制さねばそれを実行するどころではない。

 ――それに、九つの首の一つ。全く動かないその首の上。

 そこを制さねば、ならない。首魁の坐すその場所を。

 時折焔が噴出しているのが見えるので、まだ戦っているのだろう、とは分かる。

 ……胸の内に、大丈夫か、なんて言葉が浮かび上がってくる。


「カッ、ははは」


 笑いながら、人体を撥ねる。


「未熟、未熟ッ! 言葉に責任は持てよ、俺ッ!」


 任せると言った。

 ならばそれを覆してはならない。

 ケイならやれる。

 ――それに、心配するより先にやることがある。


「おうテメェらッ! 40年もご苦労さんだなぁッ!」


 煽り、笑い、踏み込み、突っ込み、殴り、蹴り、打ち、飛ばし、散らし、落とし、制圧していく。


「大ハイドラが憎い! 結構ッ! 憎い、憎い! 同情してやらぁッ! 香港滅べ? 俺もたまに思うよッ!!!」


 だけどなあ、と、"銀杖"を叩きつける。


「――それァテメェだけの理屈だろうがッ!」


 ――その復讐を否定する。

 "同化"して、事情を知った。

 同情する。

 悲しい出来事だ。

 俺に同じことが起きたらどうしただろうか、なんて考えてしまう。

 だが、知ったことじゃない。


「俺が生きるのにッ! テメェは、邪魔だッ!!!」


 "銀杖"が重くなる。

 この宝貝は、俺の想いを吸って重量を増すものだ。

 この重さこそが、俺の証明だ。


「"地這虎"――テメェが、テメェの理屈を振りかざすならばッ! こうして――俺の! この"銀杖"に、叩き潰されると知るがいい――!!!」






/






 焔の剣を振るう。

 立ち上がらせたまま――しゃがみ込む暇など与えない。


「ぬ、がぁあああああああああああ!!!」


 竜鱗はやはり硬い。

 "地這虎"の両腕は最早ボロボロだけれど、切断には至らない。

 両腕に握った焔の剣を同時に叩きつければ、ひょろりと背の高い"地這虎"は吹き飛ばされ転ぶ。


「ッ!!!」

「《炎剣》!」


 右手の炎剣を分解し、増やし、4本の小刀に変え、右手のスナップで投げつける。


「ぬぁっ、」


 転がり回避する"地這虎"が目を剥く――回避した先の上空に、既に私が追い付いているためだ。


「ああああああああッ!!!」

「くぁッ!?」


 突きこみは、跳ね起きるように回避される――でも逃がさない、


「《炎剣》!」


 叫び右手に再度剣を生み出すと同時、もう一つ、魔術を無声で行使する。

 《幻影身》、そして《隠身》。

 幻影と重なりながら、一瞬堪えるように踏みとどまって、右手の剣を再度投射――それは、私の姿を持った幻影となって、投射の勢いで突っ込む。

 "地這虎"からは、『私』が突っ込んだように見えているはずだ――《隠身》は魔力でバレていると思うけれど――


「ぎぁっ、あぁああがッ!」


 ――《幻影身》を重ねた炎剣は咄嗟には見えなかったようだ。無視しようとしたそのわき腹が焼き切れる。

 勿論、本体である私も止まっていたわけじゃない。

 強い魔力を発する炎剣を残したまま右から踏み込んでいる――銀兄さんよりも高い位置、2メートル近いその顔面に、振り上げる形で裏拳を叩きこむ。


「おのッ、おのれッ、ェエエエッ!!!」


 右爪の一振りで幻影がかき消される。

 そして、ばしゅ、とその身が霧散する。

 また洗脳をしようと言うのか――だけど!


「無駄だぁああっ!!!」


 全身から、炎を噴き出す!

 空気と"同化"しながら大ハイドラと"同化"はできないと――ほかならぬ、"地這虎"と"同化"した時に、理解した!


「ギャッ、アアアアアアア!!!」


 背後から叫びが聞こえる――振り向けば、襤褸を炎上させる"地這虎"がいる。


「はぁああああああッ!!」


 突っ込んで、両手を炎剣に添える。

 速度のまま、その胴体を袈裟に切り下す――!


「ッ!?」


 ……え、と思う。

 確かに切り下した。

 向かって右の鎖骨を割って、同じく左のわき腹に抜ける一刀。

 確かに振り下ろした――襤褸は斬れている。だけど、その皮膚には、斬った跡がない。

 驚きに一瞬硬直した私に、手が伸びてくる。

 燃え盛ったままの手指だ。


「――く!」


 回避して、頬に熱を感じる――理解した。

 私の炎と"同化"したんだ。

 同じものだから、傷つかない。

 なんでもありだ。

 これが、概念術師か。

 だけど、


「それがッ、なんだっ!!!」


 即座に裏拳を肋骨に入れる。

 ばぎり、と手ごたえがあって、"地這虎"が吹っ飛んで転がる。

 拳に火が付いたけれど、無視して叫ぶ。


「炎が通じないなら、殴り倒すっ! そんな、そんな小手先で勝てると思うなっ!」


 構えを取り直す。

 両手足に炎を生み出す。

 火炎と拳足を同時に叩きこむつもりで、だ。

 "地這虎"が、四つん這いになって、そして叫ぶ。


「小手先、小手先か! 小娘ッ、小娘ッ、小娘ッ、おおおッ、香港の王の娘よッ! 僕を笑うか!」

「否っ! あなたが私を笑っているッ! 舐めるな? 舐めているのは、あなただっ!」


 ――そろそろ流石に、魔力が少ない。

 "幻影"と"炎"を同時に使っている。

 魂が軋みを上げている――だけどこの身は、"マウス"と"紅可欣"の合身!

 こんな危ない橋は、考えてみれば何度もわたって来た!


「あなたの言葉通り、私は香港の王となった男の娘だ! そんな、迎合するようなもので勝てると思っているのかっ!」

「く、き、きさッ……!!!」

「さあ、行くぞ、"地這虎"っ!」


 だう、と鱗を蹴って、飛びかかる。

 四つん這いの姿勢になった"地這虎"が、完全にぺったりと鱗に張り付いた。

 逃げの構えだ。

 両腕はずたずただし、肋骨も折れている。それに、上空から飛びかかる私に対応もできない。

 逃げの構えだ!


「《炎進拳》!」


 腕の届かない位置から、拳を振り下ろす。

 顔面狙いの一撃は、最小限の動きで回避される――けれど、その後ろに《幻影》で隠したもう一発がヒットする。


「うぉっ、」

「《炎靴》!」


 ご、と、足先から焔を噴射する――そうして回転し――高速で回転する!


「《斧鉞、焔踵》!」


 ――踵を、その背骨に振り下ろす!


「がぼぁあああっ!?」


 ゴキリ、と音がした。

 踵が、背骨を砕いた。

 内臓を潰した。

 斧鉞と化した踵が、わき腹を炭化させて、砕き、抜ける。

 ――致命の傷に、なったはずだ。

 飛びのき、はぁっ、と、息を吐く。

 "地這虎"は、もはや動けない。

 仰向けになって、わき腹を両手で抑えて、呻いている。


「がっ……ごッ……ごがっ……」


 ……"地這虎"は、ぼろぼろだ。

 服もそうだけれど。

 私が負わせた傷もそうだけど。

 40年近くを、這って、この大ハイドラの上で過ごしてきた。

 "同化"したとは言え、その思いを真に理解したとは言わない。

 どんな想いで、復讐に身を投じ、投じきったのか。

 それを理解できるのは、"地這虎"自身以外では、ありえない。


「…………最期に。言い残す、ことは?」


 声をかける。

 両手を腰のあたりに置いたまま、視線が、私の方を見た。


「…………ゃ、し…………」


 声は、ほとんど音にならない。

 大ハイドラの額の上――高度にして1キロほどということもあって、風の音も強い。

 警戒をしつつ、少しだけ歩み寄る。


「……むね、ん、だ……」


 頭の上にしゃがみ込んで、声を聞く。


「……おお……」


 既に、"地這虎"の目に焦点は合っていない。

 お、と、大ハイドラ、他の八首が鳴く。

 天に向けて、八首が叫ぶ。


「……香港の……滅びを……我が目で……」


 そう言った瞬間、"地這虎"の身から、力が抜けた。

 ……死んだのだ。

 40年間、復讐にのみ生きた男は――


「…………待って」


 ――違う。

 人が死んだら、その瞬間に、完全に死ぬわけじゃない。

 人の魂は、魂と魄で構成される。

 精神の魂と、肉体の魄。

 魂はすぐに幽界に行ってしまうけれど――魄は、しばらく肉体に残る。

 蘇生術は魄を繋がりにして呼び戻す術になるんだけど。

 それすらも、一瞬で消えてしまっている。


「…………まさかっ、」


 "地這虎"の手が、落ちていた。

 鱗の上に――大ハイドラの、"ここのつ"の、頭の上に!

 お、と、大ハイドラ、他の八首が鳴き、叫ぶ。




/




『『『『『『『『

        ――香港落ちるべし!

        ――香港死すべし!

        ――香港堕すべし!

        ――香港敗れるべし!

        ――香港砕けるべし!

        ――香港朽ちるべし!

        ――香港消えるべし!

        ――香港滅ぶべし!

                     』』』』』』』』




/




 人の言語で、大ハイドラが叫ぶ。




/




『こんなッ! こんなッ、こんな混沌ッ! 許せぬ、許せぬゥウウウウウウウ!!! おお、おおおッ、香港ッ! 落ちるべし! 香港、滅ぶべし! 最早――我ごと、滅するべし!』




/




 耳が痛む――振動で、"地這虎"の死体が揺れて、落ちていく。

 揺動する。

 大ハイドラが――"ここのつ"が、歩き出す!


「……く……!」


 精神を自分と"同化"させたんじゃない――魂ごと、同化、融合させたんだ!

 死ぬと感じて、死ぬ前に、そのすべてを送り込んだんだっ!


「なんて、ことを――」


 振動によろめき、膝を付いてしまう。

 八首が、私の乗る首へと顔を向けた。


「なに、それ――そんなの、」


 両手を、地面につく。

 目を閉じ思うのは、"同化"した時の記憶。

 友や、家族、恩師の瞳に映っていた、彼自身の姿。

 そうだ――私は、自分にしか化けられない、不完全なドッペルゲンガーだったけれど。

 だからこそ、自分に化けるのは、誰よりも得意だ……!


「――そんなの、で!」


 ――変異。

 "地這虎"を名乗っていた――平凡だった少年の相を、獲得する。

 その属性は、生命系"同化"。

 できることは、分かっている。

 生命現象としての同化――生きるためのエネルギーを蓄えたりするために、身体の中で物質を合成したりすることが専門だけど。

 それでも、他の生命と"同化"することは、可能だった……!


「はぐッ……!」


 反動で、鼻血が噴き出た。

 体中から血が噴出する。

 全身で気を回し修復するけれど、追いつかない。

 竜だ。

 全長2キロメートル、九首九爪九尾の、大いなるハイドラだ。

 概念域に達した男が、40年もかけた相手だ。

 歯を食いしばる。

 頭の中に、声が届く。


――ははは、ははははは、はははははははははは!!!


 それでも、額を鱗に押し付ける。


――無駄だ、無駄だ、無駄だ、無駄だ!!! ははは! 最早無駄だ! 我が生と引き換えにしたのだッ!!!


 知っているぞ、と、思念を送る。


――何をだ、何をだ!


 40年かけたけれど――こうして操ることが、できるようになってはいるけれど!

 竜だ。大ハイドラだ! "ここのつ"だ!

 その制御はギリギリで――"ここのつ"の意志は眠っているような状況で、起こせば、あなたくらい、消し飛ぶってことを!


――小娘っ、小娘ッ!!!


 つまり――私が大ハイドラを目覚めさせるか!

 あなたが、大ハイドラを起こさないようにするか!

 やってみろ、"地這虎"!

 私はあなたに勝てないけど――いかに、概念と呼ばれようと! 人の身が、竜に叶うものか!!!


――だが! だがだがだが! 貴様ごとき小娘に負けはしない!!!


 ――ぞわり、と、額から、何かが侵入してくる。

 "地這虎"の手指が、脳を鷲掴んで来る――それごと、『私』に再度変異する。

 思念の腕が、巻き込まれて千切れる。

 ぎあ、と、"地這虎"の思念が脳を駆け巡る。

 余計なことを、"地這虎"はした。

 私は所詮猿真似だ。"地這虎"には勝てない。だけど、"地這虎"が自分から負けようとしているなら話は別。

 私なんかにかまったのが――運の尽きだ!


「そんなの、でっ!!! 香港がっ!!!」


 手を届かせる。

 眠った彼を、揺り動かす。

 叫びで、起こす!


「負、け、る、か、ぁああああああああああああああああああああっ!!!」






/






『  グ   ウ   オ   オ   』






/






『 オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ 』

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/






「……おー……」


 九つの首を、首の根元から眺める。

 天を向き、口を大きく開いて、目をつぶって……あれ、欠伸じゃねえの、もしかして。


「……やれやれ。必要になると思って、時間を残しておいたのだが……」


 血まみれのジェームズさんが、どっかりと腰を落とす。


「……やってしまったようだ、な」

「そうみたいですねえ」


 タバコを出そうとして、あ、と気付く。ジャケットのポケットだ、と。

 しまったなー、と思っていると、横から手が伸びてきた。

 骨の露出した手だ。その手の上には、畳まれたジャケットが乗っている。


「……"銀杖"、くん。お返しする、よ」

「っと……ありがとうございます」


 顔を見れば、ジャケットを預けた警官さんだった。

 顔の方でも骨が露出しているが、その傷跡は土くれだった。

 スケルトン系かぁ、と納得しながら一礼して、ジャケットを受け取り、ポケットから煙草を取り出す。

 火を付けて、ひと吸いして――見上げる。


「……ホンットクソですね、香港!」


 はは、と、ジェームズさんと、警官さんが笑った。


「そうだな、本当にクソだ」

「違いない」


 ああ、と息を吐く。

 咆声によって雲が散らされ、いい天気だった。


「……吸います? コレ。健康にいいみたいですよ」

「では一本」


 竜爪が、一本煙草を持っていく。

 ひと吸いして、ゲボッ、と、むせた音が聞こえた。


「なッ……なんだ、これはッ……!」

「まあ普通のタバコじゃないので……」

「これならッ、その辺の枝でもくわえた方がマシだッ……何を吸わされているんだ、君はッ……!」

「ですよねえ。まずいですよねすげぇ。慣れましたけど」


 見上げれば、ケイが、大ハイドラの眉間あたりに引っかかっているのが見えた。

 ジャケットに袖を通す――大ハイドラの柄を背負う。

 "銀杖"をホルスターに突っ込んで、笑みを浮かべる。


「それじゃ、ケイを迎えに行ってきますね、っと……!」


 香港は、クソだ。クソみたいなやつが沢山で、滅茶苦茶で、混沌としていて、たまに俺だって滅べよって思う。

 だが――俺が、俺達が、生きる場所だった。